『国富論』(アダム・スミス)……サブプライム問題の本質をスミスは予見していた?
今どきのくだらない本と違って、古典は読んでも時間とお金を損をしないから好きだ。昔々学校で読まされた本だが、今般山岡洋一の新訳が出た機会に再読。発見多々。
自分流の発見:- 銀行の信用創造と貨幣の乗数効果について詳しい記述があったのには驚いた。銀行券の信用創造効果とそれが実体経済を刺激する過程が詳細に分析されている。スミスがこんなことを分析していたとは学校で習わなかったな。スミスによればこれはイングランドではなくスコットランドのエジンバラで始まったこととのこと。信用創造の中には、二人の商人がお互いに発行する「融通手形」による悪い「元手」による信用創造もあるとの記述も。18世紀にも融通手形があったのだ。現代のサブプライム証券による信用創造に似ている。スミスは悪い信用創造でも(個別銀行は破綻するが)全体経済は刺激されるとする。結局、今のサブプライム問題もそういうことかも知れない。
- 『国富論』と言えば「見えざる手」という言葉が有名。ただスミスはこの言葉はたったの一回しか使っていない(第二章第四編)。この有名な言葉の続きに次のような大名言を書いている。「社会のために事業を行っている人が実際に大いに社会の役に立った話しは、いまだかつて聞いたことがない」……ガーン! 現代社会の○○運動家とか○○活動というのも、ほとんどがこれだね。自己満足に過ぎない。
- スミスといえば自由経済、ビジネスマンの擁護者と考えられているが、そうでもない。スミス自身ビジネスマンは嫌いだったようだ。いろんな記述にビジネスマンに対する嫌悪感が表れている。あいつらはすぐに独占と保護貿易と既得権を要求するという。それに対して農業事業者にはもともとそういう傾向が少なかったが最近(18世紀)になって彼らも商工業者の真似をして業界団体を作って保護貿易と既得権を求めるようになったと嘆いている。ニッポンでは戦後にこれが始まった。
- 穀物取引に関する国民の感情は宗教心に似ているとの大名言も。非合理的な感情であるが、政治家はこの国民感情を考慮せざるを得ないので、穀物取引に関する法令は非合理的なものとなってしまうと書いている。現代ニッポンの食料自給率をめぐる「国民感情」もそうだ。
- 主権国家は必ず政府の借金を踏み倒す政策をとるとの断言も。経済にとっては悪いが国民の大多数の賛同を得られる政策なので古今東西の政府は必ずやってきたと。鎌倉時代からの徳政令の伝統はわが国ばかりのことではないのである。
- 結論として、政府がやる経済政策なんてほとんどが役に立たない以上に有害で、多くの国でひどいことになっているという。英国においても悪法はあることはあるが、その程度が一番小さかったので英国は豊かに発展したのだとのこと。お役人の自己満足心を満足させる経済政策策定は「必要悪」なのかも知れない。
とにかく古代ギリシャからローマ時代まで、中国から新大陸まで、浩瀚なビジネス実態の分析がとても印象的。とても面白い。スミスは学者である以前に実務家であった。逆に、最後の理論経済学の泰斗であられる根岸隆先生が解説を書いて居られるが、スラッファーなどを引用する「理論経済学的」解説がめちゃ難しく、解説の方がさっぱり分からなかった。現代経済学はあまりに理論的に優美な空論に淫し過ぎか。
Posted: Tue - April 8, 2008 at 08:37 AM
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