『鷗外最大の悲劇』(坂内 正)……思いこみの強いナショナリストが国を滅ぼす


森鷗外と脚気の関係の綿密な考證。鷗外は陸軍軍医総監として日清戦争では戦場での死者を上回る(また日露戦争では戦場での死者の半数以上の数に上る)脚気による病死者を出してしまったことの直接の責任者であった。これは歴史的事実としては知っていたが、単なる医学的な見解の相違により引き起こされた悲劇だと考えていた。でも違うのだ。鷗外は自分が間違っていることをうすうす知りながら、日本人のプライドと自分の面子を守るために強引に自分に反対する人間(コメこそ脚気の原因だとする医官たち)をやりこめ続けたのである。驚いた。

この本はお薦め:
鴎外最大の悲劇
鴎外最大の悲劇坂内 正

新潮社 2001-05
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star緻密な論を重ねる良書
star鴎外ってとてもイヤな奴だったんだ

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この鴎外の偏執的な側面は、彼がドイツ留学時代の対西欧コンプレックスから來ているらしい(日本人の食生活は西欧に劣らない理想的なものだとする論文を出している)。脚気については古代中国からすでに雑穀を食べさせたらいいという漢方処方があったとのことだが、鴎外にとっては日本人の魂であるコメを食べて病気になるという考え自体が許せないことだったのだろう。あらゆる経験的な事実を(例えば海軍ではパンと麦を食べさせたら脚気がなくなったとか、監獄では麦ばかりなので脚気患者はいないとかの事実を)科学的・統計的に立証されていないとしてことごとく退ける。麦飯がよいというが、コメが悪いというならそれを立証しろと立証責任を論争相手に押しつける。論争に勝つためだけの論争をする。ひいては数字のねじ曲げまでやる。

陸軍大臣までが脚気には麦飯がいい、自分もそれで治ったというのに、鴎外は耳を貸さない。次第に各師団長は鴎外の言うことを聞かず独自の判断で兵隊に麦飯を食べさせるようになり、脚気病死者が激減するが、鴎外はそれは世界的な傾向であり(病気の伝染がおさまったのだろうから)麦飯のためではないと数字をねじ曲げてまで強引に論じる。

いやはや驚いた。

ちなみに乃木と鴎外は親密な関係にあったらしい。そのためか乃木第三軍では脚気患者数が飛び抜けて(桁違いに)多かった。乃木は鷗外が言うように兵隊に一日6合の白米を食べさせ続けたのだろう。203高地に突撃する第三軍の兵隊たちが脚気で足どりがおぼつかないのを見た欧米諸国の観戦武官が「日本軍は突撃の前に兵隊に酒を呑ませて恐怖を抑えているらしい」と本国に報告したとのくだりを読んで、涙が出た。

何でも日本の伝統食こそが素晴らしいという「食育」が同じような愚行に発展しないことを望む。

Posted: Sun - April 2, 2006 at 03:59 PM           |  


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