DVD-BOX「宇宙戦艦ヤマト」


なぜ今、このタイミングで「ヤマト」なのかは友人Rに聞いて欲しい。
レビューのリクエストにお答えして(謎)かなり濃い目にしときました。

かつて「宇宙戦艦ヤマト」の名を知らぬ日本人はいなかった。本当である。
 
あの日本の魂とまでに言われた帝国海軍の誇った大戦艦「大和」が宇宙を飛んじゃうのだ。その後、機関車も飛んだし、帆船も飛んだりして、今では何でもありなのだが、当時宇宙を飛ぶのは紡錘型のロケットと決まっていた時代である。この野心的本格SF作品は、かの「侍ジャイアンツ」の後を受けて1974年10月6日オンエアー開始。しかし、日曜7時30分と言えば「アルプスの少女ハイジ」なのであった。あまりにものどかなアルプスの山々ととろけるチーズの香ばしい魅力を放つ超強力裏番組に、当時としては画期的なお色気ワープシーンをサービスしちゃったりする荒唐無稽な宇宙戦争漫画が勝てるハズもなく、かくして人類初の光の速度を突破した宇宙戦艦の物語は予定放送話数39話に到達することはなく、全26話を放映して壮絶な討ち死にを遂げた。(筆者の場合、オープニングはささきいさおと共に主題歌を斉唱、ガチャガチャとチャンネルを切り替え、ハイジをみてから、急ぎチャネルを戻すとあの名テロップ「あと○○日」を視て、真っ赤なスカーフを聞くという感じだった。当時、チャンネルは簡単に変えられるものじゃなかったんだよ。家族みんなの許可が必要だったんだね。)再び、轟沈の悲劇を繰り返したかに見えたヤマトであったが、その後、大学生を中心としたファン層を獲得。再放送の度に人気は上昇、遂には劇場映画化。メジャーとしての市民権を獲得し、爆発的大ヒットを記録。社会現象を巻き起こした。(その後の歴史について、ここでは触れない...触れたくない...)
「宇宙戦艦ヤマト」のストーリーはショッキングだ。異星人ガミラスによる侵略の恐怖にさらされた地球人類。日夜襲い来る遊星爆弾から逃れ、地下都市に生き延びた人々を待つのはやがて来る放射能汚染による死である。わずかに生き残った地球艦隊による反攻作戦も、圧倒的なガミラスの科学力に為す術もなく、ただやられゆく。そんな頃、遙か彼方の惑星イスカンダルから救いの手が差しのべられる。それは恒星間宇宙航行を可能にする波動エンジンの設計図であった。明日への希望をかけ地球へ帰還した沖田十三は、人類生存をかけ極秘裏に建造された地球脱出船”ヤマト”に未来を託す。汚れた地球を救う唯一の方法=コスモクリーナーを手にするため、遙か29万6千光年の彼方イスカンダルに旅立つのだ。しかし、ガミラスは既にヤマトを探知、攻撃を開始した..。人類滅亡まで「あと36×日」のテロップ&ナレーションに象徴される画期的演出の数々は、今なお鮮明に記憶に焼き付いている。特にガミラス遊星爆弾の攻撃を受け、海が干上がった真っ赤な地球のビジュアル・インパクトは強烈。戦争体験を両親・祖父母の世代から聞かされて育った子供達世代に、原子爆弾のもたらす恐怖、放射能の危険性を直感的に受け付けた。自由と博愛を標榜する地球人類が生存の為の戦いを繰り広げるこのプロットは、放送が開始された1974年というタイミングにぴったりであった。1970年の大ヒット・フォークソングが「戦争を知らない子供達」という時期。世界はラブ&ピースだったのである。物語当初、好戦的性格として描かれる主人公・古代進はやがて戦いの虚しさを知り、愛の大切さを訴える。
 
先に軍艦が宇宙を飛ぶ荒唐無稽さについて触れたが、それは視聴以前のコトであって、「宇宙戦艦ヤマト」のメカニック描写の説得力は素晴らしい。艦長の指揮下、一致団結し、乗員それぞれが役割を全うする姿は、実在しないはずのそれを”らしく”みせる。描写は実に細かなプロセスを踏んでいる。特に波動砲発射シークエンスにおける乗員、視聴者をも巻き込む一体化のカタルシスが生み出す到達点の高みは他の追随を許さない。このような生きた魅力と存在感を持つことのできた主役メカは他に無い。サンダーバード各機にしろ、ウルトラホーク1号にしろ、またエンタープライズ号にしても...。前にも後ろにもヤマトだけだ。
 
「宇宙戦艦ヤマト」テレビシリーズの魅力は簡単に書ききれるものではない。デスラー総統、七色星団の話題にも触れていなければ、ゆきかぜの話も、反射衛星砲も、あ、古代の実家って和室なんだぜぇ...。このDVDメモリアルBOXには、ヤマト全26話に加え特典映像として、非常に貴重なパイロット・フィルム。NG版第1話、22話。再放送版第2話。62ページに渡る貴重な情報を満載したリーフレットが付属する。バンダイビジュアルの良心をかいま見た気がする商品構成。ファンなら絶対買い。
 
著作権問題が取りざたされて往年のファンとしては、現在のヤマト事情はいささか悲しい現実ではあるが、このテレビシリーズが名作であることに間違いはなく。その後のアニメーション史に決定的な足跡を残した金字塔であるという事実は忘れてはいけない。何度「これで最後」と裏切られようともだ。


Posted: 火 - 6月 29, 2004 at 03:12 AM