前夜、都内で現場監督さんの車にピックアップしてもらい、中央高速道を走って双葉SAで仮眠。朝、さらに進んで植樹祭広場で身繕いしてから、車道をわずかに戻った「瑞牆の森」入口に車を置いて歩き出す。すでに勝手知ったるこの道、わずか30分の歩きでカンマンボロンの裾に到着した。そこからも頭上にボルトラダーが見えているが、これはおそらく左壁ルート。我々が目指す鎌形ハングルートは右手に下った地点、三角板状の岩のところから離陸することになる。

手元のトポは『日本登山体系』のコピーで、これによると40m-30m-15mと3ピッチつないで、4ピッチ目が核心のハング越えということになっている。現場監督さんの「ju9choさんの方がアブミ巧いからな。」という根拠レスなおだてに乗って「じゃ、私が偶数ピッチで。」と後攻を選択した。
1P目(40m/A1)。出だし若干バランシー。そこから先はリングボルトに導かれて頭上のピナクルのてっぺんを目指してゆく。途中のピナクル右手基部にも貧弱な支点があると現場監督さんから申告があったが、ロープ長から見てもまだまだ上まで行けるはずと声をかけて、さらにピナクルの右手の凹角状を登ってもらう。
2P目(25m/A1)。続いて私のリード。最上段に立たなくても届く距離にボルトが続き、なかなか快適。ただし、この頃からガスが背後に漂うようになり、岩が濡れてきた。このため、最後に支点のあるレッジへ這い上がる一手のフリーでアブミを回収する自信がなく、後続の現場監督さんに回収を依頼。

3P目(25m/IV+,A1)。ここで迷った。見たところ、ハングの基部にはトポにあるようにピッチを切れる支点がありそうには思えないが、順番でいえば現場監督さんの番だ。しばし協議の末、トポを信じて現場監督さんに突っ込んでもらった。最初の3手はレッジ真上のフェースに打たれたボルトをアブミで直上。そこから左に足を伸ばして、レッジの左手からハング下まで伸びているごく浅いクラックのラインに移るのだが、ここが難しいフリー混じりとなって人工登攀に慣れきった身体には厳しく、さすがの現場監督さんも呻吟の末、思い切って乗り移って残置ピトンにクイックドローを掛けることに成功した。その上にももう一手、断面がきれいで明らかに最近破断したと思われるフレーク状の上に乗り上がるムーヴをこなして、ハング下までロープを伸ばしたが、しかしそこにはトポにあったような支点はない。
現「どうする?」
私「……行っちゃって下さい。」
そんなわけでハング越えのリードは、当初の目論見とは異なり、現場監督さんの担当に。と言ってもハング直下のプロテクションはプアーなようで、脆い岩の間にカムを突っ込み、さらにぐらつくピトンにかけたアブミに右足でおそるおそる乗り込むと、ハング左横のピトンから垂れているスリングにアブミを掛けて乗り移り、そのまま思い切り身体を右に倒してハング正面のボルトにクイックドローを掛け、そのまま上へ抜けていった。

続いて私のフォロー。下部のフリーは上から確保されているセカンドの特権でクリアしたが、ハング越えはなかなか難しい。くだんのぐらつくピトンに掛けたアブミに右足を乗せ、左足は壁にスメアで伸び上がるとハング左横のスリングにまでは簡単に手が届き、そちらでスリングの二段の輪を利用して位置を整えてから右へ腕を伸ばしたが、ボルトはけっこう遠い。現場監督さん、よく届いたな……と感心しつつ、こちらはリードが残したクイックドローにアブミを掛けてここを突破した。
4P目(25m/A1)。ハング上でアブミビレイしている現場監督さんを残して、頭上に伸びるボルトラダーを辿る。いったん傾斜が緩む箇所では残置ピトンに3mmスリングを掛けてアブミを通したが、そこから上の立った壁はアブミの2段目に乗れば次のボルトに指先が届く程度の距離が続き、やがて灌木をかき分けて安定したテラスに到着。
5P目(25m/V,A1)。テラスの上、凸状のカンテの右横を登るリングボルトのラインが正規ラインだが、見ればカンテの正面にピカピカ光るハンガーボルトのラインがある。そちらの方が安全だろうと現場監督さんはカンテ正面のラインを登っていったが、これが罠で、途中からボルト間隔がやたら遠くなり、最上段はおろかリストループに足を入れても届かない箇所もある。3ピン目あたりで珍しくボヤいている現場監督さんに「そこから敗退したら?(自分も後続できる自信ないし。)」と声をかけたが、それは現場監督さんのプライドが許さなかったようで、「(落ちたら)お願いします。」を繰り返しながら、じりじりとフリー混じりで上昇してゆく。とうとう上に抜けた現場監督さんのコールを受けて私も同じラインを登ったが、このボルト間隔では、現場監督さんのグリップフィフィアブミと違ってノーマルなカラビナを使った私のアブミを回収することができなくなる。してみるとこのラインは人工登攀ではなくフリーのラインなのか?とも思えるが、さすがにそれにしてはボルト間隔が狭いし、岩も脆くてお世辞にもフリー向きの岩質ではない。要するにこのボルトを設置した人の意図がわからないまま、ゴボウまで駆使してとにもかくにもこのピッチを切り抜けた。

6P目(30m/A0,III)。支点の上にはプロテクションのないざらざらのスラブが上に続いている。傾斜は緩いが、プロテクションなしで上まで抜けるには相当度胸と足先の保持力がいりそうだ。カンテの左側のわずかな出っ張りにスリングが設置されていたのでそちらに怖々乗り移って見上げたが、相変わらずラインが見えてこない。てっぺんは諦めてここを終了点としようかと思ったが、ふとカンテの左下のルンゼを見下ろすと、どうやらこのルンゼの中なら登れそう。それによく調べてみると、単に残置スリングだと思っていたものはルンゼに降り立つために先端に輪っかがセットされたものだった。これをつかみ、かつ現場監督さんが握るロープに支えられながらルンゼに降り立って、ぼろぼろの壁にバックアンドフットも効かせながらルンゼ内を登り、太い木が生えているところから右手のバンドをトラバースしていくと、現場監督さんの上の位置に出ることになった。屈曲のせいで極端に重くなったロープを必死に引きずりつつトラバースを続け、一段上がったところから緩やかなスラブをソールのフリクションで登れば、小灌木も生えて穏やかな雰囲気のてっぺんに到着する。





灌木に掛かっているスリングとカラビナを支点に、懸垂下降開始。一本目の下降はテラスまで届くかとも思えたが、ロープが届いているかどうか目視できないので安全をとって2ピッチに分けてテラスへ。ここから鎌形ハングを一気に越えて空中懸垂し、振り子でハング左下のレッジまで。さらに雨の中を「撤収」モードで2ピッチ下り、ほぼぴったり離陸地点に下りついた。終了点を除けば、いずれの支点も残置カラビナを含めよく整備されており、下降には何の心配もいらない。