327瑞牆山大ヤスリ岩ハイピークルート
| 山頂 |
瑞牆山2,230m |
| 分類 |
アルパイン |
| 日程 |
2007/11/03 |
| 同行 |
現場監督さん |
| 概要 |
植樹祭広場駐車場を起点に瑞牆山への道(廃道)を辿り、大ヤスリ岩基部へ。ハイピークルートを登ってから瑞牆山頂に立ち寄り、下山。 |
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顕著なチムニーが目印の1P目。上の画像をクリックすると、ハイピークルートの概要が見られます。(2007/11/03撮影)

最終ピッチの人工登攀。ピンの間隔は部分的に遠い個所もあるが、2段目に立ちこめばだいたい届く。(2007/11/03撮影 © 2007 Genbakantoku)
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大ヤスリ岩全景。左下のテラスからてっぺんまで真っ直ぐなラインが引かれている。(2007/11/03撮影)
本当は10月最後の土日で丸山東壁へ行く予定だったのだが、私の仕事の都合でキャンセルとなり、代わりに日帰りで行けるルートとして目をつけたのが、これも前々から狙っていた瑞牆山大ヤスリ岩ハイピークルート。瑞牆山頂から見下ろせる顕著な岩塔の大ヤスリ岩のてっぺんに立てるルートで、下部の難しいフリー区間を越えてこじんまりしたパティオから明るいテラス、そしてラストは40メートルの人工登攀となる、短いが楽し気な一本だ。
金曜日の夜に例によって京王線の八幡山駅で待ち合わせ、現場監督号で中央自動車道を一路甲州へ。途中双葉SAで仮眠をとり、明るくなってから瑞牆山麓にある植樹祭広場を目指した。
■07:00 植樹祭広場 ■08:55-10:00 大ヤスリ岩基部
ひんやりした空気の中、植樹祭広場を出発。きれいな舗装路をわずかに歩いて、道幅が広くなった駐車場があるあたりのなんともわかりにくい標識の右手から山道に入る。植樹されてさほどたっていないと思える幼木がずらりと並んでいる中に縦横に道が引かれて迷路のようになっており、何度か行きつ戻りつしてやっと本来の道を見つけたが、その出だしのところには「この道は一般登山道ではありません」と注意書きがしてあった。

確かに落葉に隠れてわかりにくいところもあるが、それほど悪くはない道を赤テープに導かれてどんどん奥へ進むと、頭上に顕著な岩壁がのしかかるように聳えているのが見える。カンマンボロン(大日如来を意味する真言)だ。巨大なハングがひときわ目を引くが、それ以外にもエイドルートが何本か引かれているようで、現場監督さんは鎌形ハングルートに特に関心がある模様。ただし、大ヤスリ岩を目指すにはカンマンボロンに突き当たっては行き過ぎで、道はその手前を右へ回り込むように続いている。
尾根筋を乗り越すところから前方に大ヤスリ岩が見えるようになり、さらに急な登りを続けて大ヤスリ岩の基部に到着した。背後には八ヶ岳が半透明の雲海の向こうに浮かんでおり、ずいぶん高度が上がっていることが実感できる。

我々の前には、ちょうど男女二人パーティーが準備をしているところで、特に寒さ対策でしきりに意見を交わしながらのんびり装備を着けていたが、まだこちら側に日が当たっていないこともあって確かに気温が低い。私はフリース、現場監督さんはヤッケを着込んでその上からギアラックを着けることにしたが、そうこうしている間にも先行パーティーはなかなか離陸してくれない。女性の方が行動食を口にし始めたときにはさすがに「えっ、マジ?」と思ったが、実は後でこの二人にはたいへんお世話になることになるので、あまり○○めいたことは言えない……。

30分待ちで、ようやく先行パーティーがスタート。1P目は顕著な岩の割れ目の左にあるコーナークラックを10m登ってから右にトラバースし、チムニー〜スラブをさらに10m。そのままさらに20mロープを伸ばしてチムニーを奥の広場まで進む記録も少なくないが、先行のリードは大奮闘の末に下から見える20m地点にある支点でピッチを切った。一方、フォローの男性はスムーズな登りでひと安心。頭上から「あとで『前のパーティーが遅かった。』なんてブログに書かれるね。」といった声が聞こえてきて、現場監督さんは「書きますよ〜。」とにやにやしながら言っていたが、登りそのものは遅くてもある程度は仕方なくて、各支点での作業の手際さえよければ不平は申しません。
さて、スタートにあたり現場監督さんから「どうします?」とオーダーを聞かれたが、まっとうなクライミングはブランクがあって自信がないので、現場監督さんに先攻をお願いした。先行パーティーの男性が2P目の登りにかかったのを見て、いよいよ出発。
1P目(20m/IV,A0)。出だしのコーナークラックは左右にスタンスを拾いながら高さを稼ぎ、最後に上のガバをつかんで段の上に出られる。そこから右手のチムニーへの2mのトラバースが、フリーでは難しい。現場監督さんは最初フリーで行きたそうにしていたが、ふくらんだスラブ状でスタンスは外傾しており手がかりにも乏しく、断念してボルトにかけられたワイヤーにクイックドローをセットし、A0で右のチムニーへ乗り込んだ。そこからのチムニーも狭くて身体の自由がきかず、かといって左フェースのスラブは手がかりに乏しい。そんなわけで、現場監督さんも私もここは連打されたリングボルトを利用してのA0となった。
2P目(20m/A0,III)。狭いレッジから目の前の立ったスラブがこれまた厳しく、リードの私は一般登山道から見上げるおばちゃんたちの「すごいわねえ。」という声を背中に聞きながら、左コーナーのリスに連打されたピトンを使って恥ずかしのA0。そのまま右のチムニーへ滑り降り、階段状の窮屈な廊下を奥に進むと樹木もあって小庭園風の中庭(パティオ)に出て、ピナクルにスリングをかけて現場監督さんを迎えた。

3P目(30m/IV)。木と岩の間を抜けて正面の壁を右手から左上する階段状のランペを登りきり、クラックにハンドをきめてレイバック気味に上がると広いチムニー。このピッチでカムを使うかと思っていたが、リングボルトが途中4箇所あって結局カムは使わなかった。

広いチムニー内で、今度は40分待ち。もっともこれは、先行パーティーのリードが最終ピッチを登りきるのに要した時間だから仕方ない。
4P目(5m/A1)。先行パーティーのセカンドが動き出したところで、とりあえず右上のテラスまで上がることにした。ここは両手足突っ張りのフリーでも登れるようだが、予習を兼ねてアブミを取り出し、A1でテラス上へ抜け出た。
■12:10-25 テラス ■13:20-55 大ヤスリ岩頂上
テラス上に出ると急に展望が開け、予想以上に近くに瑞牆山の山頂やそこに至る登山道が見える。今日の瑞牆山は大賑わいで、登山道は次々に山頂を目指す登山者が行列をなしているし、山頂もギャラリーが鈴なり。先行パーティーのリードが大ヤスリ岩のてっぺんに着いたときには「よく頑張った!」などと盛んに声援を受けていて内心うらやましかったが、テラス上に寝転がって、先行パーティーのフォローが青い空に向かって登ってゆくのを見上げていると、純粋に岩登りの楽しさが心に染み渡ってくる。

5P目(40m/A1)。最終ピッチは現場監督さんに譲ってもらって私のリード。チョックストーンを踏み台にして最初のリングボルトにクイックドローをかけてから、ひとつおきにランナーをとりながら登ってゆく。比較的最初の方に遠いところがあってそこはアブミの最上段にじわじわと立ちこんだが、あとはいずれも、2段目にしっかり立てれば届く位置にリングボルト(一部RCCボルト)があった。結局11本のクイックドローを使って、最後の数メートルは簡単なフリーで待望の大ヤスリ岩のてっぺんに到着。
そこは、思いの外に広く安定したテラスになっていた。見れば多くのロープがボルトにかけられており、その中でも比較的太いロープを選んでセルフビレイをとり、現場監督さんに声をかけて後続してもらった。その間、先行パーティーの二人はどのロープを懸垂下降に使うかを検討していたようだが、そのうち女性の方が、私がとんでもないミスをしていることに気づいてくれた。ビレイをとっているロープは弧を描いて両端がボルトにつながっており、私は当然リングに通っているものとばかり思っていたのだが、よく見るとそのロープは片方のリングは通っているものの、他方は単にリングボルトの軸にひっかかっているだけだったのだ。これで万一現場監督さんが落ちて荷重がかかり、ロープが軸からはずれると、二人とも墜落だ。あわてて女性にお願いし、手持ちのビナでリングとロープを連結してもらって事なきを得たが、支点は原則として自分で作ること、残置を使うならしっかりチェックすることという基本をおそろかにしたヒヤリハットだった。大反省。もう絶対こんなミスはしない。
何はともあれ、無事現場監督さんを迎えることができて、まずは握手。二人合わせて最終ピッチに1時間はかかっていないから、一応及第点だろうか。そのまま、眼下の登山道にヘリコプターがレスキュー隊員を下ろすのを眺めたり、四囲の景色、なかでも山頂を白くした富士山の姿に感動しながら行動食を口にして一休み。図らずも恩人になった先行の二人とよもやま話をしてみると、どうやら二人は5月の剱岳八ツ峰で我々の直前を歩いていたパーティーにいたらしいことがわかり、またしても山の世界の狭さを実感した。
■14:35-45 瑞牆山 ■16:25 植樹祭広場
大ヤスリ岩からの下降は、いったん先ほどのテラスまで40m下り、そこから瑞牆山方面へ15mほどの懸垂下降で樹林の中に降りて、あとは踏み跡を辿ると登山道に出ることができる。ギアをはずしザックをデポして、急な上り坂をこなし裏手から回り込むと、20年ぶりの瑞牆山頂に着いた。目の前には先ほど登った大ヤスリ岩が突き立っており、これをバックにお約束の記念撮影。

秋の日はつるべ落とし、早くも傾き始めた日差しにせき立てられるように山頂を後にし、大ヤスリ岩の近くからロープで閉鎖された道に入って往路を引き返した。
大ヤスリ岩ハイピークルートは、なんといっても最後の岩塔の人工登攀が露出度満点で楽しい。ゲレンデで一通りアブミを使えるようになったら、最初の本番課題として採り上げるのもよいだろう。ただし身長が低い人には多少ボルトが遠く感じられる個所もある(私の身長は172cm)ので、それなりの対策を。また、帰路の途中カンマンボロンではクライマーのコールが聞こえたが、どのルートを登っているのかはわからなかった。たぶん来年以降、この岩場を再度訪れることもあるでしょう。