クリスマスの数日後、仲のいい仕事仲間数人と落ち合って、新宿でプチ忘年会を開くことになった。1人の編集者が仕事が残っているということで、先にデザイナーの友人と待ち合わせた。
一緒に編集者を待ちながら、お茶を飲んだまではよかったが…と書いてきて今思うと、この時から少々調子が悪かったのかも知れない。そうだ、少し調子がおかしいので、ひょっとしたらお腹が空き過ぎて血糖値が下っている影響なのかと思い、メニューにあったプレーンのワッフルを半分だけ食べることにしたのだ。
その後、まだ少し時間がありそうだったので文房具屋や雑貨店でも見ようということになった。
すると1時間前よりもどっと人があふれ、落ち着いて品物を見ることもできない状態。考えてみれば、その日は仕事納めをする会社が多く、当然のことながら街にもいつも以上の人が集まっていたのだ。
そうこうしているうちに、なんだか息苦しくなってきた。胸痛はないが、なんとなく胸が苦しい。さらに目まいも加わり、冠動脈の血管が詰まったのかもという思いが頭の中をグルグル回る。落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせるが、逆にパニック感が増すばかり。
どうしようもなくなり友人に、
「ちょっとごめん、調子が悪いみたい」
と告げ、どうしようか思案する。
「どうする? 忘年会中止にする?」
友人が気遣ってくれるが、
「いや、たぶん精神的なものだと…。でも、ちょっと息苦しいんだよね」
この友人は以前からmojoの病状を知っていて、目の前でパニック症状が起きたこともある。その経験からか、
「寒いけど、外の空気を吸ってみる?」
と助言してくれた。ああ、そうだ。外の空気。以前も、それでよくなったことがある。うながされて、少しゆっくりめの速度で歩き、人ごみをかきわけて東口の前に出た。正面にアルタが見える。
年末ということで、なんだか青い光のオブジェがあったが、それを楽しむ余裕もない。
しかし、数分もそこで立っていると、ずいぶん楽になってきた。とても寒かったけれど、息苦しさもなくなり、気持ちもだいぶ落ち着いてきた。
「なんとかなりそうだよ」
ちょっと顔をひきつらせながらそう告げると、
「人ごみがよくなかったのかもね。この様子だと新宿はどこのお店もいっぱいそうだから高田馬場あたりに移動しようか」
との提案。素直に受けてタクシーで移動することにした。すると、また車内で息苦しくなる。せっかく暖房をかけてくれているのに申し訳ないが、運転手に言って窓を少し開けさせてもらった。
窓のすき間から、金魚のように口をパクパクさせ新鮮な空気を吸い込むと、少しよくなった。
そして車は高田馬場へ。場所を変更するからと連絡をしておいた編集者もかけつけ、お店を探すことに。
ところが、街に出ている人は新宿に較べたら段違いに少ないものの、どのお店に入っても
「予約はありますか」
と聞かれたり、最初からいっぱいで入れなかったりで、結局あちこち歩き回り10軒ぐらいアタック。ようやくチープな居酒屋に落ち着くことができた。
不思議なのは、人ごみの中で立っていたり、雑貨店で品物を見ていた時は息苦しかったのに、寒風の中店を探して歩いている時は、息は上がるものの妙な息苦しさは感じなかったこと。
つまり、歩くのは大丈夫だということ。だから、たぶん新宿での息苦しさは心臓の機能的な問題というよりも、精神的なものだった可能性が大きい。
思えば病気を患ってから、このパニック症状は時々起きていた。それでも手術直後よりもずいぶん少なくなって、症状も軽くなってきていたのだ。
手術から復帰して間もない頃、とある出版社のある駅で、ひどいパニックを起こし、それがトラウマとなって半年ほどその駅に行く時だけ電車に乗ることができず、タクシーで移動していたこともある。
それほど大きなパニック症状は、他にはあまりないが、それでも小さなものは今でも起きる。
困るのは、いつそれが出てくるか分からないことだ。なんの予兆もなく、突然不安感に襲われる。1分前まで楽しく過ごしていたのに、急にダメになってしまうのだ。
家の中で出る時は、まだいい。すぐに横になることができるからだ。これが外で、さらに1人でいる時はツライ。
「落ち着け、絶対に精神的なものだから大丈夫」
そう言い聞かせるが、なかなか不安感が引っ込んではくれない。
これまでの経験では、建物の中にいる時になることが多い。そして、そうなってしまった時は、
(1)新鮮な空気を吸う(場所を変える)
(2)人と話す(誰かに側にいてもらう。電話する)
(3)安定剤を飲む
といった対処法が、自分には合っているようだ。最近は本当にめったに出なくなっていたし、出ても数分から10数分ガマンすれば、なんとか引っ込んでくれたので安心していたが、久しぶりのことで少しビビってしまった。
ちなみに正月は、そんなこともすっかり忘れ、「食う・寝る」を繰り返していたら、1週間で2kg近く太ってしまい、相変わらずの〈喉元過ぎれば…〉体質に、自分でもあきれているところである。
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