あとで考えれば、すべて妄想なのだけど、なぜあんな風に見えたのかな。その何百枚という名刺を見ながら、「ああ、これは手術してよくなった人が記念に置いて行ったんだぁ」などと思っていた。うーん、3日も麻酔で寝ていると、おかしな妄想を見るものである。
ところでこちらは現実。一定時間が過ぎると、なぜか看護婦がmo joの体を動かす(痛い!)ので、気になって聞いてみた。そしてその答えを聞いて仰天。なんと、
「お尻に床ずれが出来てるからね」
と言われたたのだ。床ずれって、寝たきりの老人とかがなるものじゃなかったの? とオドロキ。よーく聞いてみると手術が長過ぎて同じ姿勢だったから出来たらしい。場所は尾てい骨のあたり。そう言われて見ると、少し感覚が鈍くなっている。
それにしてもICUは静かすぎて不気味だ。家族でも1日数回、5分ぐらいしか面会出来ないらしいから静かなのも当たり前か。ICUにはmojoの他にベッドが数台あったみたい。こっちも薬などで頭がボヤ〜としてたので正確ではない。さらに記憶が定かではないんだけど、間仕切りの向こうにもベッドがあって、そこにはお婆さんがいたようだそれも確かな記憶なのか自信がない。だから他のことも記憶違いなことがいっぱいあるのかも知れないが、とりあえず覚えていることを記しておこう。
さてICUには数人? の看護婦の他に医者が常時ついている。右手につながったセンサー(大きく手が動くと反応するらしい)がモニターにつながっているらしく、反応すると医者が飛んでくる。そして異常がなくても、その後30分ぐらいずっと看護婦がベッドサイドに立ち、俺のことを見ているのだ。ちなみにこの見張り役の看護婦は俺が語りかけても答えてくれない。どーも、見張り中は見張りしかしてはいけないらしい。うーん、なんともすごい。
ICUで驚いたのは、こんな状態でも歯を磨かされ、ヒゲも剃らされたこと。
「mojoさん、歯を磨きましょう!」
と言われたが、おいおい、そんな元気ないよ、と思った。(でもあとで簡易スポンジ歯ブラシが減っていたのを確認したから、眠っている間も磨いてくれてたんだなあ)。
しかし寝たままで、なおかつ左手しか使えない状態でする歯磨きは難しい。特に寝たままでするうがいは超難関。口に含んだ水を顔だけ横に向け、看護婦が差し出してくれた容器に吐き出して行くのだが、最初は上手くいかずに看護婦の白衣を汚してしまった。
そしてmojoにとってつらかったのが、タンを出す行為。手術前から煙草を吸っていた人はタンの量が多いうえに、出しにくいから苦労するよと言われていたのだが、まさかこんなにつらいとは思わなかった。タンを出すためにせき込むと傷が激しく痛むのだ。痛くて出したくはないが、タンを出さないと肺炎になる可能性が非情に高いと言われ、仕方なくタン柔らかくして出しやすくするスチームのようなガスを吸い、必死で出した。なんせICUにいる数日で新品のティッシュの箱がカラになった(ただほとんどは唾液だけ)のだから、その量と回数はハンパじゃない。量といえば、ものすごい量のオシッコが出てるのを気にしてたら、どうも利尿剤を投薬しているみたいだ。
午後、看護婦が2人がかりでmojoの体をきれいにしてくれた。こちらは動けないし、もうされるがままだ。夜には首から出ている管が1本抜かれた。鼻の管が抜かれ、心臓の管が抜かれ、首の管が抜かれた。そういえば病棟の先輩患者に、管が1本減るたびに元気になっていくんだよ、と教えられたなぁ。
まだ体のあちこちから出ている管が全部抜けるには、あとどのくらいかかるのかな。そんなことを考えて、ぼんやりとした頭で天井を見ると、また名刺がいっぱい留められていた。俺、東京から名刺持ってきてたっけ?