入院33日目 すぐそこにある風景


 ちょっと前までは許可された行動範囲が狭くて、プチ脱走を繰り返しては看護婦さんに見つかり怒られていたが、ずいぶん回復してきた今はまた病院内を
ウロウロと歩き回っている。

 お気に入りの1階。売店が閉まった時間でも買い物が出来るように、いろんな自販機が並んでいる。ジュースなどの飲み物だけではなく、温かくなって出てくるおにぎりや焼きそば、たこ焼き、さらにアイスクリームなど、食事制限のあるmojoには悪魔のささやきのようなメニューがズラリ。

 まあ、しかし食事は食べた量まで調べられるので、こんなところで"別腹"するわけにはいかない。そこでmojoが手を出すのは、煙草の次に好きなコーヒーということになる。

 ホントは飲んではいけないらしいが、コッソリと自動販売機でコーヒーを買う。缶コーヒーではなくて紙コップで飲むやつ。インスタントみたいなものだが、出てくるのを待っているのもいい。20秒ほどの待ち時間が、なんとなくいい。

 出てきた熱いコーヒーを“ふぅーふぅー”しながら飲む。側にあるソファに座り、紙コップに口をつけながら、ふと横を見ると、外から見舞客が入ってくるところだった。
「あっ!」
 それまで考えもしなかった。

 その自動ドアの前に立って、1歩踏み出せば、表に出られるんだな。暑いのかな、外。どんな風かな。どんな匂いがするのかな。出てみようかな、ちょっとだけ。

 でも、やめておこうと思った。

 なんだか馬鹿らしい考えだけれど、ちゃんと治ってから出ようと思った。コーヒーの紙コップが手の中でクシャっとつぶれた。

Posted at:2003年08月08日 (Fri)at 11:48 午前