東京を離れる〜最後の煙草


やっと、仕事の引き継ぎやあいさつが、ほぼ片づいた。本当はiBookに必要なデータなどを入れ、モバイル環境を整えていきたかったが、その時間はさすがにとれなかった。

いよいよ東京を離れる。名残りを惜しむように仲の良い友人と、行きつけの喫茶店で会った。こういう時は、なぜかとりとめもない話に終始する。お互いに不安を隠そうとしているのか。

「また病院から電話するよ」
 そう言って別れた。喫茶店のママやマスターにも、手術が終わったら戻ってくるからと伝えた。

午後早い新幹線に乗り、西へ向かう。長い間、正月しか帰れない状態が続いていたので、こんな時期に新幹線に乗って実家に向かうのは、なんだか不思議な感じだ。

すぐには実家に帰らず、used recordを扱う店を営んでいる友人の店に立ち寄った。小学生の頃からの友人は、いつものように「おうっ」と迎えてくれる。カウンター横のイスに腰かけ、煙草を吸った。大きく肺の奥まで煙を吸い込み、吐き出しながら言った。

「もう吸えないんだろうなあ」

20数年、超ヘビースモーカーだった。特に仕事中はのべつ煙草をくわえていた。結局、箱の中に残っていた3本をすべて吸ってしまった。空になった箱を手でキュッとひねる。ゴミ箱へ。

手の中に残ったオイル式のライターを見つめた。なぜかインターネットで気に入って手に入れたばかりのライターだった。

「これ、俺の代わりに使ってやってよ」そう言って、友人に渡した。肺の中に残っていた最後の煙草の煙をふうーと吐き出した。


Posted at:2003年07月05日 (Sat)at 06:44 午後