首毛男


 地下に降りる細く急な階段が特徴の中華料理店で、いいあんばいに皮が焦げた餃子を口に運んでいたところ、首のあたりにかゆみを覚えて、手をやった。

触れてみると皮膚が小さく膨らんでいる。どうやら蚊かなにかに刺されたらしい。いやだなぁ、と思いながらついそのあたりをポリポリとかいていたら、何かが指先に触れる。細い糸くずのようなもの。

汗をかいたので糸くずか髪の毛でも皮膚にくっついたのだろう。指でつまみ、引っ張った。するとそれはmojoの首を離れず、皮膚を一緒に持ち上げようとする。ええっ!?

「ねえねえ、これ何?」

思わずテーブルの向かいで最後の一枚になった春餅に残りの具をこれでもかと包み、大きな口をあんぐり開けて食べようとしていた友人にたずねた。

「あん?」

同い年の友人は、口に入れようとしていた春餅を残念そうに小皿に置き、興味なさそうにmojoの首を見た。

「こ、これは…」

「えっ、何?」

「毛だよ、毛。首のヨコから普通に生えてる。よく今まで気がつかなかったなぁ」

友人によると、10cm近くあるという。正直なところ、あまりじっくりと鏡を見るような生活をしていないので、よけいに気づかないのだと思う。

「こういうの、なんとかって言わなかったっけ? そうそう福毛とか」

ああ、そういえば聞いたことがあるような。

「抜かない方がいいんだよ。こういうのは。運が舞い込むっていうからさ」

なんてことを友人が話していたら、その中華料理店の女性店主がやってきて、注文を書き留めるメモにボールペンで「宝毛」と書き始めた。

「中国では宝毛っていうの?」

友人が聞く。すると女性店主はニコニコと笑いながらうなずいた。

「お客さん、きっといいことあるよ」

そう言われると、まんざらでもない。帰り道、つい首に手をやり福毛とやらを引っ張り、

「いかんいかん抜けたら運が逃げて行っちゃう」

と手を引っ込める、なんてことを繰り返していた。

家に戻り、なんとなく気になったのでネットで福毛について調べてみる。すると、やはりそのように呼ばれるものがあった。

宝毛(たからけ、たからげ)とは、体の一部分に一本だけ長く生えてくる透明もしくは白色の毛の通称[1][2]。 福毛とも呼ばれる。

生える場所もいろいろあるようで、思えばmojoも腕と足に1本ずつ数センチにしかならないが以前からそれっぽいものが生えていた。一度は細くて透明な毛が5、6センチに伸びていたこともある。

これに首の福毛が加わったのだから、運も相当なものだろうと思うのだが、考えてみたら病気はするわ、長年続けた某誌の仕事はやめることになるわ、買った宝くじも当たらないわ、ロクなことがない。

そんなことを思いながら、たどり着いたのが「いわゆる福毛(ふくげ)について。 生えてる場所とか、とにかくなんでもお書きください。 - 人力検索はてな」というリンクなのだが、解答の中に気になる記述を見つけた。

右の肩甲骨のところに生えています。しかし、福はあまり来てません。

うーむ。さらに違う人。

…でもこの毛のおかげで特に何か良いことがあったという経験はありません。

な、なるほど。次。

私も顎に1本生えてます。福については薄幸な方だと自負しています。

は、薄幸。どういうことなんだ。でも、いい思いをしている人だっているはず!

一応、この毛が生えてから、、、LOTOで、1000円当たりました。それだけですけど、、、

首の後ろにあるほくろから生えています。これがアンテナになっているらしく、道に迷ったことはありません。

どうもというか、やはりというか、福毛が生えたからといっていいことがあるわけではないらしい。mojoにはアンテナ機能もないみたいだし。そんなものに頼ってちゃダメだ、ちゃんと自分の足で歩けよ、というお告げなのだろう。

しかし、自分がビッグな運を呼び込んだ最初の例になってやればいいんじゃないの、という楽観論も否定できず、ついつい首に手をやって福下の存在を確認する毎日なのである。


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Posted at:2010年09月04日 (Sat)at 10:55 午後
 




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