冬の手ぶくろ


 冬になると、よく片方の手ぶくろだけガードレールや木の枝などにひっかけてある風景を目にするのだが、それと似たようなものだろうか。

新目白通りのとある交差点で、タクシーを拾おうとしていたのだ。

夕方でたくさんの車が走っているわりには、なかなか空車が来ない。そのうちに信号が変わって赤になってしまった。

次に信号が変わるまで拾えないなと、気が緩んだその瞬間、それが目に飛び込んできた。

「あっ」とか「うっ」とか、妙な声を出してしまったかも知れない。

だって、魚である。切り身のパックなのである。

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宙に浮いていた…。

こんなものを見たら、ミスター妄想男としては、たまらない。

いったい誰が、いつ、どのような状況でこの切り身を交差点の電灯の柱にチョコンと載せたのか。

普通に考えれば、買い物帰りの奥さんの山盛りになった自転車のカゴから落っこちた切り身パックを誰かが拾い、冬の手ぶくろのようによく分かるようにここに置いたのだろう。

ただし、モノが手ぶくろでないところが、この異風景を生んでいる。

きっと、常人には計り知れないドラマがあるに違いない…なんてことを考えながら帰途に着くタクシーに乗り込んだのだが、果たしてあの切り身はその後どうなったのだろうか。

「およげたいやきくん」のように、ここからさらに旅に出てくれると楽しいのだが、さすがに切り身じゃ泳げないか。


Posted at:2008年10月16日 (Thu)at 05:12 午前