迷い蝉


 仕事をしていたら、突然羽の音がしてセミが飛び込んできた。

ちょっとだけ蒸し暑かったのでエアコンをかけていた。窓は全部閉まっている。そこに突然の羽音。しばらく、その音の主が分からぬまま「何だ、何だ?」と驚いていたら、ヒュンと目の前を黒いモノが横切った。

追いかけてみると、それが壁に留まった。よく見るまでもない。セミだ。

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どこから入ったんだろうと思って部屋を見廻してみると、窓についたスライド式の通気孔が20cmほど開いていた。「ああ、これか!」と思ったが、こんなすき間からよく入ってきたなと感心。

さて、侵入経路は分かった。問題は壁に留まったセミの処遇だ。

夏も終わりが近いというのに、せっかく飛び込んできてくれたセミをたたき殺してしまうわけにもいかない。今頃になって苦労して土中から出てきたのに、わけのわからない男の部屋であっけなく死んでいくのでは、あまりにも不憫だ。

こっちにしたって、いい年をしてセミに恨まれるのはイヤだ。

そこで、お帰りいただくことにした。最初は、丸めた雑誌でチョンと背中を突いてやれば、簡単に出ていってくれるだろうと思ったのだが、どうも甘かった。

せっかくエアコンで冷やした気持ちのよい空気を逃してまで、家中の窓を全開にしたというのに、突かれたことでパニックを起こし、壁にぶつかり柱にぶつかり…結局元の壁に戻ってしまうセミ。

何度かチャレンジしたが、どうにも出て行く気配がない。神社の木ほど留まり心地のよい壁でもないだろうに。

仕方がないので今度は、放っておけばそのうち出るだろうと、待機作戦に出た。しかし、1時間待ったがセミは壁から動こうとしない。

「まあ、いいか…」と、あきらめて窓は開け放したまま仕事に戻る。しばらくして飲み物を取りにキッチンに行った時、ふと気になってさっき留まっていた壁を見ると、姿が消えていた。

寝室の方にも顔を出して探してみるが、いない。

うーん。こうなってみると、少し寂しい。いや、ホッとしてはいるのだけれど、ちょっと消化不良。

8月の半ばから天候が安定しなくて、なんとなく尻すぼみになっていた今年の夏みたいな感じ。

ああ、そうか。逆にセミに夏を見ていたのか。妙にナットク。

しかし、きちんと終わらない夏ほどスッキリしないものはない。1週間ぐらい、カーッと暑くなって、それからゆっくり秋になってくれないかなぁ。


Posted at:2008年09月05日 (Fri)at 01:34 午前