間違い電話


 仕事をしていたら、電話が鳴った。出てみると、若い女性の声。

「もしもし、あのー、そちらへはどう行ったらいいのですか」

「えっ?」

うちに来るのですか? 突然? あなたが? 何をしに? 強引な訪問販売なのだろうか? 戸惑っていると、相手はさらに迫ってきた。

「もう郵便局のところまで来てるんですよ」

確かに、うちの近くには郵便局がある。その女性は、もうそこまで来ているという。女性の声には切迫感があり、それにつられてなぜだかこっちも焦ってしまう。

「あっ、でもそのう…」

相手の勢いに押されたうえ、わけが分からないので、歯切れが悪い。思わず、何か悪いことでもしたのかと、ここ数ヵ月の行動を思い浮かべてみたりする。

「えーと、移転したと聞いたんですけど、直接そちらに行くにはどうすればいいんですか?」

「あの、移転してないです」

「えっ、でも…」

「ずっとここです」

「………」

「たぶん電話番号を間違えているんじゃないかと思うのですが」

「ホントですか」

「おそらく、そうじゃないかと…。ここ、個人の家ですし」

ここでようやく相手も本当に間違えたと気づいたようで、

「す、すみません。申し訳ありません。ごめんなさい」

と、平謝り。

最近は間違い電話をかけてきても、謝りもせずにガチャンと無言で切ったり、「私は間違えてません!」と意味不明のゴーマンな主張を展開する人がけっこういる中、この間違い電話の女性は、まだマシな方だったのかな。

用事は面接か会社の所用か何か分からないけど、本気の焦りっぷりが伝わってきて、間違えられたこちらも思わず笑ってしまった。最初に自分から名乗るか、相手の名前を聞くかすれば、ここまで焦らなかったのにね。

ひょっとしたら個人対個人でつながるのが前提である携帯電話の普及が、こういうところにも影響を与えているのかもなぁ。


Posted at:2006年10月20日 (Fri)at 09:10 午前