“The Show” must go on
米脚本家組合、ただいまストライキ中 今年はなぜ、ゴールデン・グローブ賞の授賞式がおこなわれなかったのか。だけどSAG賞の授賞式をやったのはなぜなのか。脚本家がストしたからって、なぜ俳優や監督もいっしょになってデモ行進するのか。大統領選挙より混迷中のハリウッドのストライキは、いまこんな感じ。
●火種は80年代から 12,000人が加入する映画・テレビの脚本家で構成される米脚本家組合(Writers
Guild of
America、以下WGA)は、テレビ局や映画スタジオなどの業界団体・全米テレビ映画製作者協会(Alliance
of Motion Picture and Television
Producers、以下AMPTP)との報酬に関する交渉決裂により、2007年11月5日未明から無期限ストライキに突入しました。 最大の争点は映画やテレビ番組がDVDやネット配信で販売される際の報酬をめぐるもの。映画、テレビ番組においてビデオという新たな供給方法が生まれた80年代、市場の拡大を見極められなかった脚本家側は極めて不利な契約を結び、現在に至っています(1枚約20ドルのDVDが売れた場合、脚本家の収入は4セント。下記ビデオ参照)。 これを不服としたWGA側が、今後さらに普及が見込まれるオンライン配信の将来性をふまえ、二次利用の際の再使用料の大幅増額を要求。「まだ利益が出ていない」「宣伝やマーケティングに巨額の費用がかかる」などを理由にこれを拒否するAMPTPに対し、ピケを張ったり、抗議のデモをつづけています。 ●脚本家、俳優、監督は運命共同体 今回のストには脚本家だけでなく、多くの俳優や演出家、映画監督たちが参加しています。足並みを揃えてゴールデン・グローブ賞(Golden
Globe
Awards、以下GG賞)授賞式の参加をボイコットしたのも、同様の不満を抱えているからです。 ハリウッドには俳優、メイクアップ・アーティスト、照明技師など職種ごとに労働組合(ユニオン)があります。このうちWGAの契約が昨年10月に失効し、労使交渉がいちばん先に行なわれるのですが、その結果が今夏に予定されている映画俳優組合(Screen
Actors
Guild、以下SAG)、監督組合(Directors
Guild of
America、以下DGA)との契約更新にも大きな影響を与えるため、AMPTPとしてはどうしても最初の相手であるWGAに対して弱腰に出たくないのでしょう。逆にいえば、WGA、SAG、DGAは共同戦線を張ることが、お互いの利益になるわけです。そこで双方の組合員どうしに鉄の団結がうまれ、「スト破りをすれば、将来の仕事の保証はない」(マーク・ヤング南カリフォルニア大学教授)ということになります。 ●授賞式は、脚本のあるドラマ これまで、911やアフガニスタン侵攻、ロサンゼルス大洪水、あるいはキング牧師暗殺といった大事件がおこったときでさえ、延期こそすれ中止したことはなかったのが、ハリウッドにおける映画賞の歴史でした。過去にさかのぼれば、セレモニー期間中にストライキがおこなわれたことも何度がありましたが、授賞式は滞りなく開催されています。それは、すでに構成台本が完成していたからです。 あらゆる授賞式には、緻密な構成台本があります。スタンダップ・コメディアン出身の司会者がホストを務めるにせよ、アドリブだけで3時間番組が持ちこたえるはずがありません。授賞式で用意されていない“セリフ”は、受賞者のスピーチだけ。WGAは、ゴールデン・グローブ賞授賞式の構成台本執筆を拒否。WGAを支持するSAGも、アワード出席はTV局側の利益になるため不参加を表明、GG授賞式は65年の歴史始まって以来、初めての中止に追い込まれました。 ●ストライキによる影響は アメリカのTVドラマ1話(60分)の撮影に関わるのは平均200人、制作されなかった場合の制作費の損失は300万ドル(3億2,100万円)といわれています(Film
L.A.調べ)。ハリウッドでは現在、65本のドラマやシットコムの撮影が中止になっていて、約1万人と推定される従業員のうち、ワーナーは約1,000人に一時解雇を通達するなど、スタッフの生活が逼迫する状況まで追い込まれています(*注1)。 なお中止になったGG賞に関して、Entertainment
Weeklyは推定損害額を8000万ドル(約86億円)と算出しました。 その内訳には、授賞式を中継する予定だったネットワーク局NBCの広告収入1500~2000万ドル、主催者であるハリウッド外国人記者協会(HFPA)が受け取るNBCの放送権料580万ドル、キャンセルになったアフターパーティの損出額250万ドルが含まれます。もちろん、観光収入や取材スタッフ、ヘアメイク、スタイリスト、リムジン運転手のギャラも水泡に帰したことになります。 一説によると、アカデミー賞授賞式はGG賞の約1.5倍、1億3000万ドル(約139億円)の経済効果があるとか。 ストライキによるロサンゼルス郡全体の推定損失額は、業界関係者の給料を除いてもすでに15億ドル(約1,600億円)に達しているといわれています。今後、2〜3ヶ月にわたってストライキが続いた場合、被害総額は30億ドル(約3,200億円)を越えるのではとVariety誌は予想しました。1988年、22週にわたったストライキの被害総額は5億ドル(約535億円)。20年前とはいえ、今回払っている犠牲がいかに大きいかは推して知るべしでしょう。1月末でストライキはすでに13週に入っています。 ●DGA、ホワイトナイトになる? WGAのスト長期化と影響を危惧するAMPTPとDGAは早期決着に向け、スト決行中にも非公式の話し合いを持ち、08年1月17日、仮契約締結の声明を発表。懸念されていたDGAのストは回避されることになりました。これを受けて1月22日から、WGA上層部とスタジオ側の非公式交渉が再開されています。DGAの交渉過程や仮契約の内容が叩き台となって話し合いが進んでおり、2月10日のグラミー賞授賞式は、CBSと協議のうえピケを張らないと決定。グラミーは音楽業界の祭典とはいえ、ビヨンセのようなSAGに所属する俳優兼ミュージシャンは板挟みになった格好でした。さらに28日には、台本執筆に関しても特例の合意を主催者側と結んだと発表、例年どおりセレモニーが開催されることが確実になりました。 白馬の騎士のごとくDGAが乗り出し、AMPTPもようやく交渉の席に着いたのは、2月24日に開催予定のアカデミー賞授賞式を決行するためと噂されています。今年は80回という佳節にあたるため、なにがなんでも中止だけはしたくないのがアカデミーの意向でしょう。業界最大の祭典を中止することになれば、ストの長期化は目に見えています。一方でWGA側もオスカーに協力しないというという姿勢を貫けば、 現状は比較的好意的な世論 をも敵に回すことになるはずです。 ●“The
Show” must go
on そんななか、1月27日にはSAG賞が予定どおり開催されています。WGAとの協定のもと、ピケもデモもおこなわれませんでした。組合に所属する俳優を対象に、演技賞だけを選考するため、どちらかといえば業界人のみが関心を寄せていた賞ですが、今シーズンはあらゆるセレモニーがスケールダウンしたせいか、例年以上に華やかなレッドカーペットという印象でした。それでも受賞者のスピーチや記者会見では、コメント、質問ともストライキに集中し、異様な事態のなかで開催された事実がかえって浮き彫りになっています。 さて、結局、オスカーは開催されるのでしょうか。公開された契約内容に関してWGA側は検討時間が必要と主張しており、2月24日までに合意に達しなかった場合は協力できないこと、SAGに所属する俳優も授賞式には参加しないことを明言しています。当日までにストが終了しない場合、アカデミーは用意した代案、すなわち業界でいうところのB案で授賞式を開催するとか。ただし、その内容についてはまったく明らかにされていません。そもそも存在するのかどうかも・・・ オスカーにはいろいろな側面がありますが、ハリウッドのビジネスマンにとっては年間最大のプレゼンテーションであり、世界市場に向けた“営業”ですから、中止という最悪のシナリオは誰にとっても得になりません。毎年、全米年間視聴率1位を誇るスーパーボウルの中継も終わり(*注2)、グラミーを目前に控え、いよいよスト終結に向けてドラマチックな幕切れのプロットはもう出来上がっているのではないかとみるのは、いささか穿ちすぎでしょうか。
The
Writers Strike : Why We
Fight よくわかるWGAストライキの理由、約4分間。さすが脚本家組合だけあって、うまい。わかりやすい。 いっぱいApple製品が出てきますけど、MacのCMじゃありませんから。でもソフトはKeynoteですよね。