ちちんぷいぷい。 



 七年くらい前から見かけるたびに買おうかどうしようか迷っていた手品セットを、昨日とうとう買ってしまった。


 昔々、パソコン通信の草の根ネット局を主催していた頃(今となっては用語がわからない人も山ほどいると思うが、大勢に影響はないので読み飛ばしていただきたく)、メンバーに手品を趣味にしている人がいた。ちょっとした手品も、なんでもないぬいぐるみが彼の手にかかるとまるで生きて意志を持っているかのように動き回るのも、本当に上手だった。オフ会の時にはいつも彼の周りに人が集まったし、会話に間が空いた時には彼はいつでもちょっとした技を披露して皆を楽しませてくれた。それを見て以来、自分もやってみたい、できるようになりたいという願望は、口には出さなくてもずっと密かにあったのだった。

 このコインマジックは、見た目がいかにもきれいなのと、練習不要といううたい文句と、店頭でのデモプレイを見てもタネも仕掛けもさっぱりわからなかったのがよくて、手に入れるならこれをとずっと思っていた(手技を練習するタイプはもちろんはじめから対象外なのであった)。しかし何となく間が悪かったり、なにより買ってしまうとタネを知らない楽しさが失われてしまうのが惜しくて、毎回買わずにすませて来たのだが、昨日とうとう勢いで買ってしまったのである。

 練習不要、とはいえ実際には多少は必要になる。というわけで、買い帰って早速昨晩からやってみているのだが、やるほどにつくづくこれは良くできた仕掛けだと思う。やってる本人にも不思議に見えて、何度やっても飽きない。

 そうやって何度も何度も一人でやっているうち、どんなにうまくなっても自分はこれを人前ではやらないだろうな、と気がついた。もちろん、人前でやるには有名すぎるしかけだから、というのもある。しかし先に書いたような昔のことを思い出しながら、自分が本当にできるようになりたかったのは手品ではなかったんだなあ、ということに今更ながら思い至ったからだ。
 あの頃、場を盛り上げている彼を見ながら、羨ましかったのは手品の技ではなかった。誰かと、特に初対面の人と自然にコミュニケーションするのがとてもとても苦手な私にとって、初めて会って数分の人たちを惹き付けて楽しませて盛り上げる、その彼の力が自分にも、その半分でも四分の一でもいいから欲しかったのだった。

 あれから十年以上たって、今の自分はあの頃より少しはましになっているかなあと改めて思う。何度やって見せてもびっくりしてくれる娘(そもそも何が起きているのか理解できていない可能性大)と一緒に手品の練習をしながら、なぜだか少し寂しい気持ちになった。

 入道雲と青い空を背景にした電線を眺めながら、今年はやけにいろいろなことを考える夏だなあと思う。 

Posted at 月 - 7月 19, 2004 at 02:00 午後        


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