1023 : DJingツール(001)〜Ms.Pinky : 真鍋大度 


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DSPマガジン 2003.12.07 No.1023
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DJingツール(001)〜Ms.Pinky

真鍋大度(daito02@iamas.ac.jp)

■概要

Ms.PinkyはMSP~のエクスターナル・オブジェクトと、特殊な信号が入ったアナログレコードを使用してオーディオ・ファイル(.wav,.aiff,.MP3)をスクラッチするためのツールです。

例えば、オリジナルのコスリネタ、すなわち自分の声やら作ったフレーズやらをスクラッチしたいと思ったならば、今のところは、音源をオーディオCDに焼いてPioneerのCDJでプレイ、というのが王道だと思います。しかし、ターンテーブリストの方々ならば、10年近くも慣れ親しんだアナログターンテーブルからCDJに移った際に何か違和感を覚えませんでしたか?キーボード奏者ならフェンダーローズそのものとMIDIキーボードとの違和感みたいなもの。微妙な質感はもとより、アナログレコードでのプレイの際の与件である視覚情報が、CDJでのプレイでは貧弱なのです。

Ms.Pinkyを使用する事で、そうしたストレスからDJはかなり解消されるはずです。アナログレコードを使ってオーディオ・ファイルをスクラッチできること、これがまずはMs.Pinkyのアドバンテージなのです。Stantonからリリースされたファイナルスクラッチがポピュラーになってきたため、オーディオ・ファイルのスクラッチはあまり目新しいものでは無くなってきましたが、Ms.Pinkyでは専用のMSP~エクスターナル・オブジェクトを使用する点で大きく異なります。

例えば、Ms.PinkyとJitterと共に使用すればアナログターンテーブルを使ってQTムービーの再生スピードを変化させる事も可能となるため、先日発表されたPioneerのDVDJ(DVDの映像と音をスクラッチするプレイヤー。40万円也。)を使用しなくとも、柔軟性の高いVJプレイ、映像スクラッチが実現出来るのです。

Ms.Pinkyに付属のアナログレコード(以下"Ms.Pinkyレコード")には、回転数を判定するためのsinwave~、また回転方向を判定するためのphasor~が入っています。この音をコンピュータに入力して解析(FFT~)し、その結果得られた値をオーディオ・ファイルの再生スピードと関連付ける事で、オーディオファイル・スクラッチが実現出来るのです。具体的には、付属の解析用のエクスターナル・オブジェクト、MPCT9~(またはMPFTX~)にMs.Pinkyレコードの音を入力して、解析結果をオーディオ・ファイルの再生スピードとしてシグナルで出力します。MPCT~は以下のシグナルを出力します。

33 1/3回転で順方向にターンテーブルが回っている時に"+1"
33 1/3回転で逆方向に回転している時に"-1"
静止している時は"0"

この値をgroove~オブジェクトや、付属のサウンド・ファイル再生用エクスターナル・オブジェクトMPFS~に送信してオーディオ・ファイル・スクラッチを行っています。付属のエクスターナル・オブジェクトMPFS9~では再生スピードが非常に遅いスクラッチをした際に生じるスーパー・ローをカット出来たり、音質を下げて、CPUパワーを軽減させることが出来る等様々な設定が可能です。

■Ms.Pinkyの入手方法

http://www.mspinky.comからオンラインでMs.Pinkyレコード+ソフトウェアを購入する事が出来ます。Ms.Pinkyには、前述した三つのエクスターナル・オブジェクト、MPFT9~、MPFS9~、MPTC9~オブジェクトが付属しています。(OSXではMFPTX~,MPFSX~,MPTCX~)単独のアプリケーションbinky_toyも付属しますが、筆者が使用していないため、binky_toyの説明は割愛させてください。

■セッティング

1,ターンテーブルからの音をフォノイコライザーを中継してオーディオ・インターフェースに入力します。
2,オーディオ・インターフェースから出力されるサウンド・ファイルスクラッチした音をDJミキサーに接続します
以上で完了です。これが通常のDJプレイをMs.Pinkyで行う場合の基本セッティングです。

■付属エクスターナル・オブジェクトの説明

◆MPTC9~(MPTCX~)オブジェクト:Ms.Pinkyレコードの回転方向や回転速度、音量を解析するためのオブジェクト。
(MPFT9~(MPFTX~)オブジェクトはMPTC9~(MPTC9X~)の(*1)レラティブ・モードのみを扱うオブジェクト。)

入力

シグナル
第1インレット:Ms.Pinkyレコードの左チャンネルの音を入力する。
第2インレット:Ms.Pinkyレコードの右チャンネルの音を入力する。

実数
第3インレット:Sig Power Thresh(dB)を実数で指定する。
第4インレット:Cutoff Sharpnessを実数で指定する。

setting 33rpm:通常の33-1/3rpm再生している場合
setting 45rpm:通常の45rpm再生している場合
setting mspinky:MsPinkyコントロールディスク使用
setting spymink:Spyminkコントロールディスク使用
query position:針の位置(155/rotation)を第4アウトレットから出力
query time:針の位置(時、分、秒、フレーム)をリストで第4アウトレットから出力する。
query metric:Decode error metric を第4アウトレットから出力する。
setting absolute:(*1)アブソルート.モードに設定します。絶対位置、相対位置情報(回転数と音量)の両方が計算されます。レコード上の針の位置を常にシグナルで出力したい場合にこのモードを用いる。
setting relative:(*1)レラティブ・モードに設定します。相対位置情報(回転数と音量)のみが計算される。

出力

シグナル
第1インレット:レコードの回転数をシグナルで出力する。
第2インレット:音量をシグナルで出力する。
第3インレット:setting abloluteを第1インレットに受信した時に針の位置をシグナルで出力する。setting relativeを第1インレットに受信した時は-1が出力される。

実数
第4インレット:query positionを第1インレットに受信した時にレコード上の針の位置を実数で出力する。query metricを第1インレットに受信した時にDecode error metricを実数で出力する。

リスト
第4インレット針の位置(時、分、秒、フレーム)を第4インレットからリストで出力する。

◆MPFS9~(MPFSX~)オブジェクト:ファイルの読み込みや、再生箇所の設定および検出、再生、停止等主にファイルに関するパラメータを扱うオブジェクト。

入力

シグナル
第1インレット:読み込んだサウンド・ファイルの再生スピードを指定する。0の場合は停止、1の場合は通常速度、-1の場合は通常速度の逆再生を行う。2は通常の2倍の速度、0.5は通常の半分の速度による再生を行う。

read:サウンド・ファイルを読み込む。.Wav,.Aiff,.MP3再生スピード。
setting reverse:逆再生を行う。
setting forward:順再生を行う。
setting looped:ループ再生を行う。
setting unlooped:ループ再生を行わない。
setting fat:音質を上げる。CPUパワーの負担は大きくなる。
setting skinny:音質を下げる。CPUパワーの負担は小さくなる。
cue:整数を伴うcueはサウンド・ファイルの再生箇所をミリセコンド秒で指定する。リストを伴うcueは、サウンド・ファイルの再生場所を時間 分 秒 フレームで指定する。cue 0はファイルの先頭から再生する。
setting stop:サウンド・ファイルの再生をストップする。
setting start:サウンド・ファイルを再生をスタートする。
query time:現在再生している場所を第3アウトレットから、時間 分 秒 フレームでリストで出力する。
query fsample:サウンド・ファイルのサンプル・レートを第3アウトレットから実数で出力する。
query nchans:サウンド・ファイルのチャンネル数を第3アウトレットからロング型で出力する。

出力

シグナル
第1,2アウトレット
サウンド・ファイル再生のシグナルが出力される。第1アウトレットからは左チャンネルのシグナル、第2アウトレットからは右チャンネルのシグナルが出力される。

メッセージ
第3アウトレット
queryメッセージのレスポンスが出力されます。

(*1):アブソルート・モード、レラティブ・モードの違い
MPTC~(MPTCX~)オブジェクトには2つのモードがあります。アブソルート・モードは実際のレコードと同じように、レコード上の針の位置を変える再生位置がワープします。針の位置を中心に近付ける程、サウンド・ファイルの再生位置は後ろに移動します。このモードの場合は、MPFS~に送信するcueメッセージは無効です。
レラティブ・モードは、名前通りレコード上の針の相対位置のみを取得します。実際のレコードとは違いレコード上のどの位置に針を置いてもサウンド・ファイルの再生位置はワープしません。よってMPFS~にcueメッセージを送信することで、再生位置をワープさせます。

■Ms.Pinkyを使用したパッチ

実際に付属のMPFT~オブジェクトを使用したパッチでどのような処理が行われているか確認しましょう。
http://(***websiteのアドレス)からパッチをダウンロードしてください。
(開発者のMs.Minky氏からDSPメーリングリスト購読者と、IAMAS関係者のみ
エクスターナル・オブジェクトの配布許可を頂きました。多謝。)

(1) サウンドファイルは、パッチ立ち上げ時に自動的に読み込まれます。

buffer~ mspinky 30000 2
Ms.Pinkyレコードをスクラッチをしたサウンドファイルが読み込まれます。

buffer= scrtch 3000 2
スクラッチされるサウンドファイルが読み込まれます。

(2) まずは、main.patのstartwindowと書かれているMessage Boxをクリックしてオーディオをスタートしてください。

(3) sig~オブジェクトの上にあるToggleをクリックしてオンにすると、groove~ mspinky 2によってMs.Pinkyレコードをスクラッチしたサウンド・ファイルが再生され、そのシグナルがMPTC~オブジェクトに入力されレコードの回転スピード、音量、針の位置を解析します。

(4) MPTC~が出力するシグナルをgroove~ scrtch 2に入力してサウンド・ファイルを再生します。

Ms.Pinkyレコードをスクラッチした音と、オーディオファイルがスクラッチされる音をgain~オブジェクト(4つ並んでいるフェーダ)でボリューム調節して聴き比べてください。

これがMs.Pinkyレコードと、エクスターナル・オブジェクトの基本的な使用方法です。

■簡単なMs.Pinkyの応用例

(1) レコードをパソコンHDにアーカイブ化
クラブプレイするためのレコードをオーディオファイル化してしまいましょう。そうすれば、Ms.Pinkyの使用によって、音源がパソコン内にあるにもかかわらず、プレイはアナログレコード&ターンテーブルで可能となります。DJにとってレコードは命です。そして、レコードは寿命を持っています。このやり方ならば、DJ用音源の管理と貴重なレコードの保存という意味で、一挙両得。遠征でも、大量のレコードを持って行く必要が無いので便利。こちらはファイナルスクラッチ等でもお馴染みです。

(2) スクラッチ・ネタをMs.Pinkyによって選択
単純なDJプレイをシュミレートするにとどまらず、ターンテーブルの回転速度によって
スクラッチ・ネタを選択したり、MIDIコントローラによってスクラッチ・ネタを瞬時に変える事が出来るパッチも作成可能です。

(3) リアルタイムレコーディング&スクラッチ
録音ものをすぐさまスクラッチがする事が可能です。さらに、スクラッチした音をスクラッチして、さらにその音を再度スクラッチする、と言う事も可能です。但し、現在はMPFS~オブジェクトはメモリに格納されているオーディオデータを読み込む事が出来ないのでMPFT~オブジェクトとgroove~オブジェクトを使用することで実現出来ます。

(4) ターンテーブルによる映像コントロール
ターンテーブルとJitterを使ってQTムービーやOpenGLをコントロールする事が可能です。スクラッチによってQTムービーのフレームを移動する以外にも、エフェクトのパラメータの変化、FFTによる描画、OpenGLのカメラアングル等様々な表現が可能です。DJによるVJと言った所でしょうか。

(5) ターンテーブルによるMIDIコントロール
ターンテーブルの回転速度によって異なるMIDI信号を送信するようなパッチが考えられます。レコードが通常方向に進むと発音、逆方向に進むと消音する等でさらに演奏方法が多様になると思いますが、やはり有りがちな感じです。

以上、Ms.Pinkyの使用例をいくつか書いてきましたが、もちろん可能性や応用性は幅広いです。みなさんもいろいろトライしてみてください。もちろん、Ms.Pinkyは新たなDJingにとって完璧なツールであるということはできません。レーテンシーの問題、サウンドのクオリティーの問題等があります。しかしこれらはテクノロジーの進歩によって確実に解消されるでしょう。

というわけで、今のところは状況に応じてアナログレコード、CDJ、ファイナルスクラッチ、Ms.Pinkyを使い分けられるシステムを持つというのが、最先端なDJingにとってのインフラとしては適切でしょう。お金が大分かかりますけど。

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今回紹介したサンプル・パッチは、以下のリンクをクリックしてダウンロードできます。
DJing001files.sit

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