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DSPスーパースクール2004レポート
: 赤松正行
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DSPマガジン 2004.03.11 No.1027
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DSPスーパースクール2004レポート
赤松正行
2004年2月14日、15日、21日、22日と4日間に渡って「DSPスーパースクール2004」が開催された。SuperColliderという本格的なプログラミング言語がテーマであるだけに、参加者数を危惧していたものの、多い日には60名以上、少ない日でも50名以上の方にご参加いただいた。今回は、そのスーパースクールのレポートをお届けしよう。当日の写真や配布された講義資料などをWEBサイトにアップロードしているので、合わせてご覧ください。
http://dspss.iamas.ac.jp/
■かわむらたけこ(tn8)のレクチャー
スーパースクールはかわむらたけこ(tn8)のレクチャーでスタート。彼女は脱力系SC活動で世界的に有名で、アメリカでもヨーロッパでもSuperColliderユーザに会うと必ず話題に出るほどだ。一方で、メルマガやサイトの運営とともに、日本各地でSuperColliderのレクチャーを十数回行ってきた実績も持っている。
まず最初のレクチャーでは、SuperColliderの基礎的な事柄が説明された。彼女の脱力系パワーは全開のようで、赤白市松模様のワンピをまとい、パステル調の電子ドキュメントだけでは飽き足らず、絵本仕立ての資料を書画カメラで映し出しながらのレクチャーとなった。様々な資料を駆使した丁寧な説明は好評で、分かり易かったとのコメントが多く寄せられた。
続くレクチャーでは、SuperColliderを理解する近道はオブジェクト指向を理解すること、という信念のもと、OOPSの概念を中心とした解説が展開される。オブジェクト指向は単純明快だが、その用語が難しい、とは彼女の弁だが、言い得て妙なる名言だ。ここでも、受講者が描いた動物の絵を題材に、動物分類学からオブジェクト指向を説明するなど、理解を助ける工夫がされていた。
2日目に行われたレクチャーでは、音楽構造を記述するために最適なPatternクラスの活用法が紹介される。前日はプログラミング手法や音響合成手法が中心だったので、ここに来てやっと音階的な音楽が聞こえてホッとしたという人も多かった様子。L-Systemを使った音楽やOne
Note
Sambaなどの紹介とともに、音響合成と同時に作曲手段を一体化して提供するSuperColliderの魅力が語られた。
■Mark
Polishook氏のレクチャー
スーパースクールの1週目のもう一人の講師はMark
Polishook氏。同氏はシアトル近くに位置するCentral
Washington大学の音楽準教授で、現在はサバティカルでデンマークに滞在中のことろを、今回のレクチャーのために日本に駆けつけてくれた。フレンドリーでジョークを欠かさないナイスガイだけど、音楽のこととなると真剣な目になる真摯な人。Mark氏の通訳は小林茂氏に務めていただいた。
Mark氏のレクチャー第1弾は、SuperColliderによる音響合成について。1週目は初心者向けということで、確かに基礎的な事柄から始まるが、驚くべきはその分量。僅か90分の間にマシンガンのように様々な手法が繰り出される。音響合成そのものの知識を持っていない人にとっては、ちょっと辛かったかもしれない。
2コマ目と3コマ目のレクチャーは、作曲と演奏という音楽の2つの側面からSuperColliderに迫る内容だった。これらも、ランダム性の応用、音色のオーバラップ、タブレットやゲームパッドの利用、ネットワークの活用など盛り沢山。彼がデンマークで制作しているロボット・プロジェクトや、タブレットを使った即興演奏も披露された。1コマ目がハード過ぎたかもと伝えていたので、疾風怒濤状態は緩和されたが、それでも密度の高い、学ぶべき事柄が満載であった。また、音楽の美学的側面からの考察も多く、通訳に苦労されたかもしれない。
■James
McCartney氏のレクチャー
スーパースクール2週目は、この人をおいてSuperColliderを語ることはできない、James
McCartney氏のレクチャーで始まる。同氏はSuperColliderのオリジナル開発者であり、オープンソース・プロジェクトとなった現在もメインの開発者として活躍している。現在の本職はApple
ComputerのCoreAudio開発チームの一員であり、世界有数の天才的音楽プログラマの一人と言える。ちなみに、今回が初来日とのことだが、インテリらしく日本の歴史や文化についてもよく知っている。通訳は宇佐見理氏にお願いした。
さて、最初の時間は「SCの歴史とコンセプト」で、彼の個人的な経歴も織り交ぜて、SuperCollider
3へ至る道のりが辿られて行く。ここでは「Synfonix」や「Synth-O-Matic」、「xcode」、「pyrite」などレアなソフトウェアが次々と登場。さまざまな変遷を経ながらも、彼の興味と実践が一本道で貫かれていることが明らかになり、SuperColliderへと集約していく様は感動的ですらあった。
2コマ目は、GUIを中心に演奏するという観点から、数多くのテクニックが紹介される。ここでは便利なユーティリティや実践的なプログラムも惜しみなく公開された。キーボードを使って演奏するプログラムやグリッド式のシーケンサーは、どこにでもあるようなものと思うことなかれ、なんとキーやセルにSCコードそのものをドラッグ&ドロップしてアサインするという強力なもの。エレガントと言うよりマジカル、呆気に取られてしまう。
3コマ目は音響合成についてのレクチャー。基本的にはUGenクラスを解説するというスタイルで、膨大な数のオシレータやフィルタなどが要領良く整理されていく。随所に織り交ぜられたティップスやアドバイスは聞き逃すことができない。終盤は(実際には4コマ目に割り込んで)空間的広がりを持たせる手法や並列構造による音響合成といった有用なテクニックが紹介される。
最後のレクチャーは、遠い目をしている人と色めき立つ人とに明暗を分けた、プラグイン開発の解説。ある意味で今回のハイライトとも言える重要な時間となった。プラグインは、お作法に従わなければならないものの、意外とシンプルなメカニズムであることが分かる。コンストラクタやデコンストラクタは当然として、プラグインへのアクセスは.arと.krのみで記述することが想定されているらしい。
■赤松正行のレクチャー
SuperColliderに精通しているわけではない私も何かレクチャーをということで、赤松はネットワークにおけるSuperColliderの活用方法を紹介した。ここでは、ネットワークの基礎知識からアプリケ−ション間通信までを解説し、既存の音響合成モジュール(Synthdef)をネットワーク上で用いる手法を紹介した。無線LANを利用できる受講者は少なかったが、ネットワークに接続された何台ものコンピュータを使って演奏するデモンストレーションでは、その可能性の一端に触れることができたと思う。
レクチャーの後半は宇佐見理氏にバトンタッチし、その夜にネットワークを使って演奏される作品を紹介していただいた。ネットワークを用いた集団作曲や集団即興の歴史的展開にも言及され、演奏行為の問題に踏み込んで解説が行われた。
余談ながら、私はSuperColliderのバージョン1からのユーザだが、その後のバージョン2はあまり使わなかった。その理由として、MSPが登場したこともあるが、音楽しか作れない環境は私にとって不十分だったことが挙げられる。しかし、現在のSuperColliderは、SDKが提供されるとともに、シンセシス・サーバが完全に独立したことにより、「音楽しか作れなくても構わない環境」なったと言える。ネットワーク制御はバージョン2でも実現されていたし、シンセシス・サーバはMIDI音源に似ているかもしれない。しかし、実際にはこれらはかなり異なり、SuperCollider
3は極めて高い柔軟性を持っている。
■DSPプログラミング大喜利
やや堅苦しい雰囲気になりがちなレクチャーとは打って変わって、スーパースクールの最後はリラックス・ムードでDSPプログラミング大喜利が登場。司会を務める佐近田展康氏は、赤白市松模様のハッピを揃えるなど、ただならぬ熱意がみなぎっている。壇上に登場した面々はお馴染みのエキスパート揃い。出場者は公募であったが、ニューフェースの登場がなかったのは、ちょっと残念。
さて、この大喜利は、お題として絵や「乗り物」といった言葉が示され、お題から着想を得てプログラミングを行い、出来上がった音を聞かせながら、オチをつけるというもの。出演者のJames
McCartney氏と宇佐見理氏はSuperColliderを使用、高橋哲男氏、長嶋洋一氏、Yuko
Nexus6氏、三輪眞弘氏がMas/MSPを使用というラインナップ。回答は15分間の制作時間が与えられ、出来具合を競う形式と、早い者勝ちでスピードをも競う形式とがあった。
感心したのは、早い者勝ち形式で「ワルツ」というお題が出された時。1分もしないうちに手を上げたのはJames氏で、内蔵マイクに向かってワルツのリズムを口ずさんでサンプリング、それをプレイバックしてしまった。テレビ番組の大喜利を見たことはないはずだが、日本人の誰よりも機転を利かせて素早く回答した、というわけ。
始めての試みなので、果たして間が持つのか?面白い回答やオチが出てくるのか?といった心配があったものの、出演者の才覚と司会の手際良さによって、結構楽しめたのではないだろうか。同時に、SuperColliderやMax/MSPは即興的プログラミングを可能にするだけの実用性と操作性を備えていることが確認できた次第。最後に、カメオ・インタラクティブ様からご提供いただいたPluggo
3.1 パッケージ版やMax Book
CD-ROM版、ノイマンピアノ提供6枚組CDボックスセット(ボックス無し)などが出演者に手渡され、無事閉幕となった。
■DSPスーパーナイト2004
21日の夜は廃ビルを改装した会場でDSPスーパーナイト2004が行われた。改装したとは言え、怪しい場末感漂う仮設スペースでは、何故か客入れ音楽としてテクノポップ(!テクノ)が流れている。ドリンクとフードもある。スクワッター気分でクラブ(?)イベントが始まる。
やがて、照明が落ちると、演奏者が見当たらないまま緊張感のある音が流れてくる。突然の衝撃音とともに、会場中央に置かれていた小さな立方体が光る。その内部では人が動いている気配が伺える。暗く耽美的な音の流れに微かな独白が絡み、演劇的な構成で演奏が進行する。演奏が終わると立方体の中から、かわむらたけこ(tn8)氏が現れた次第。
立方体の異様な雰囲気が醒めやらぬ中、今度はガスマスクを付けた佐近田展康氏がギターを携えて登場。マスクは彼の定番とも言えるもので、それを察した観客から歓声が上がる。マスクにはマイクが仕掛けられており、自分自身の声でスピーチ合成をコントロールするという倒錯的演出。彼のスピーチ合成は年々進化しており、MCやスタンダード歌唱もこなし、芸人の域に近づきつつあるようだ。
続く宇佐見理氏は、東京とニューヨークの演奏者をインターネットで結び、3人で即興的な演奏を行った。コンピュータ画面のプロジェクションにより、どのように演奏されているのかが伺える。3人の演奏者の様子も画面上に表示されており、グループチャットのようなセッションだと考えれば分かり易いだろう。音色を限定し、演奏行為に焦点を絞った作品であることが伺える。
最後は赤松正行がDSPBoxを演奏。こちらも赤松の定番として定着しつつあるが、演奏そのものは即興として行われている。DSPBoxにはタッチパネル、フェーダ、ボタンが装備されており、これらを使って演奏するわけだが、素材となる音響合成プログラムから、どのように多様性を引き出し、どのような楽曲として成立させるかを課題としている。
■4日間を振り返って
レポートは意外に長くなってしまった。それでも相当簡略化しており、書ききれなかった事柄は数多くある。つまり、それだけ密度の濃い4日間だったわけだ。多くの人にとっては、一度に消化し切れない分量であったことも確かだろう。しかし、しっかりとした資料が残されているので、レクチャーを思い出しながら、是非ともリトライしていただければと思う。
ところで、今回、SuperColliderを取り上げてイベントを企画したのは、SuperColliderが現時点で最も興味深い音楽環境であることに他ならない。しかし、それは契機ではあっても、SuperColliderそのものが目的ではない。開発者であるJames
McCartney氏は少し立場が違うだろうが、いずれの講師も演奏者も、それぞれの動機と視点でSuperColliderに接しているはずだ。同じように、今回のレクチャーとコンサートを契機として、そこに何を見出し、どのように発展させるかを考えて欲しいと願っている。
最後になったが、スーパースクールとスーパースクールを支えてくれた多くの人に改めて感謝したい。実行委員会の中心となって多岐に渡る運営をこなした、かわむらたけこ(tn8)氏、おそらく史上初の試みであろう大喜利を成功させた佐近田展康氏、素晴らしい通訳を務めていただいた小林茂氏と宇佐見理氏、そして、準備から応対まで頼もしいチームワークを発揮してくれたIAMASの学生スタッフに、最大級の賛辞を贈りたい。
■後日談:SuperColliderの日本語対応
James氏が滞在中にSuperCollider(SC
Lanaguage)のテキストエディタで日本語入力ができないという問題を話したところ、早速対応してくれた。ただし、現時点ではコメント文を日本語(あるいはマルチバイト言語)で入力や編集ができるというレベル。Stringクラスのマルチバイト対応にも取り組んでいるが、まだ解決していないとのこと。とは言え、コメントが日本語で書けるだけでも大助かり。スーパースクールでは、テキストエディトとSuperColliderを往復しながら資料作成をしてたからね。これは3月7日付けのスナップショットに反映されている。
そのお礼と言うのも変だけど、メニュー項目やウィンドウ項目を日本語化したリソースをJames氏へ送付。近くプロジェクトに反映させるとの連絡あり。原稿執筆時点で新しいスナップショットはアップロードされていないが、近いうちにSuperColliderを起動すると日本語でGUIが表示されそうだ。
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