スジャータの「食」物語 その1

   美味いもの有り「雲南名物」   過 橋 麺 線
               
  すっかり寒くなってまいりました。こういう時は何か暖かいものが恋しく
なります。寒いときに啜りこむラーメンなどホントにうまいものですよね。そ
こで今日は中国西南部、雲南省の極楽湯麺【過橋麺線】についてお話ししたい
と思います。

  ご存知のように、雲南省は中国西南部に位置し隣接するタイやベトナムな
どの国々と並び、年間を通して亜熱帯型の比較的温暖な気候の地域です。ただ
、ほとんどが高原もしくは山林となっているため、それ程熱帯のイメージはあ
りません。また少数民族の居住率も高く、動植物も非常に豊富で、ジャングル
の密林から高峰の雪嶺まであらゆる自然環境の整った場所でもあります。この
地域で広く食されている湯麺料理がこれからご紹介する【過橋麺線】です。

  この料理は、雲南省の各地域によって多少の違いはありますが基本的には、
スープと麺と具材とが別々に出てくるのが特徴といえます。多くの場合、まず
大ぶりのどんぶりが運ばれてきます。このどんぶりには、鶏がら、豚骨などか
ら煮出した旨みのあるやや白濁したスープがたっぷりと注がれています(高級
な店だと、だしの中に干し貝柱や干し海老、冬蟲夏草なんかが入っていたりし
ます)。ところがこのどんぶりからはホトンド湯気が出ていません。こんなぬ
るいスープに麺や具材をいれて煮えるのだろうかと心配してしまいますが、そ
の心配は杞憂です。実はスープの表面にはたっぷりとした油が張ってあって、
これが熱や蒸気の逃げるのを防いでいるのです。だからどんぶりはアツアツで
迂闊に触るとヤケドしそうになります。さて、このなかにまず具材を入れます
が、この内容は値段によって大きく変化します。

  店に値段が松竹梅とある内、中位「竹」のもので、薄切りの鶏肉、豚肉、
腸詰め、鶉肉、鶉の卵(生)、青物としては季節によりますが、私の訪中時は
4月でしたから、豆苗(えんどう豆の蔓の先の若葉)、香菜、ネギ、椎茸など
が盛り込まれていました。スープが冷めることから、まず煮えにくい肉類から
いれ、これらが白く煮えた所へ野菜類をいれます。そして最後に麺を入れるの
ですが、この麺に特徴があります。

  場所によっては普通の小麦麺が出る場合(聞いた話では北京あたりの雲南
料理屋さんで【過橋麺線】を注文すると、先に述べた様なスープと具材がきま
すが麺は細身の卵麺を茹でたものが出てくるそうです)もあるようですが、ほ
とんどの場合は米の粉で作られた、ずんぐりとしたストレートの太麺が茹でら
れて出てきます。ビーフンの太い版とでもいいましょうか、独特な腰の強さで、
姿に似ない香があります。よく精白された白米を使い白いものがほとんどなの
ですが、稀に紫もち米を使った薄紫の麺もあります。

  米の粉を使ったものなので麺條(ミィエンティアオ)ではなく米線(ミー
シェン)もしくは米絲(ミースー)と呼ぶのがほんとうなのでしょう。これら
をすべてを入れ終わったらそれで出来上がり。スープが冷めてないかと、スー
プから味わおうとするとアツアツでうれしい限りです。 雲南省に隣接する四
川省のように唐辛子や花山椒を台にしたスパイシーなスープではなく、薄塩の
旨みたっぷりなスープでじっくりと味わうことができます。表面にこってりと
油が張ってありますが、くどくない植物性の油か鶏油や軽いラードで意外にあ
っさりといただけます。麺は独特の歯ごたえと旨みがあり、スープや油がスト
レートの太麺によく絡んで美味さが倍増します。青物も程よく火が通っており、
しゃっきりとした口当たりと日本の野菜より強い旨みで、スープ、麺のアクセ
ントとなります。肉類もその身からダシがでてスープの旨みに一役買い、華を
そえています。そんな【過橋麺線】の由来は諸説あるのですが、有名な話に昆
明の書生の話があります。

  「昔、昆明(現在の雲南省の省都)に科挙の準備をしている男がおり部屋
から出ずに勉強に励んでいたのですが、彼の部屋は母屋から泉水の橋を渡った
ところにあり、彼の奥さんが食事を持っていっても途中で冷めてしまうため食
べづらい物になってしまい、食事が残されることが多かったそうです。奥さん
は彼の身を案じ、知恵を絞って表面に油を張った熱の逃げないスープを考案し、
薄切りの具材と麺を盛り付けて届けたところ、グツグツとよく煮えた湯麺に大
喜びして食べた。」つまり、橋を過ぎても熱くて美味い麺ということで【過橋
麺線】と呼ばれるようになった、というものです。雲南省は全域でこの麺を食
べるチャンスがあるのですが、その中でも心に残った一品についてお話しま
しょう。

  雲南省奥部に麗江という少数民族のナシ族がすむ町があります。この町の
旧市街はユネスコの世界遺産にも指定された、清流の水路と棟続きの古い家屋
が瓦を連ねる美しい町ですが、ここで食べた【過橋麺線】は素晴らしいのひと
ことでした。スープや麺のバランスがすこぶるよく、具材として特に、金華火
腿(中国ハム)とならんで有名な雲南火腿の薄切りが山のように運ばれてきた
のです。スープの器も柄付の土鍋(砂鍋といったと思う)でグツグツと煮えて
おり、また雲南火腿より素晴らしいダシがでて、麺や青味のネギとともに本当
に最高の出来でした。まさに【過橋麺線】のは日本の麺料理と比べても遜色の
ない、中国湯麺の中でも傑出した一品といえるでしょう。本場にお出かけにな
ったら、ぜひご賞味ください。東京では六本木で食べられるそうです。
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