年金問題は運用方法についても議論するべきだ 


 年金は貯金とは違う。貯金は自分だけのためだが、年金は世代を超えた国民的助け合いのシステムだ。若い世代に年金未納が増えたのは、保険料を納めてもいざ自分たちがもらえるようになったときにはシステムが機能しなくなっているのではないかという不安があるからだ。そこが納得できるように議論しなければならないのに、「保険料を上げて給付を減らす」といって誰が信用するだろう。政治家たちはこれが最後だといっているが、自分たちには議員年金があるためか、おのれの未納には無頓着で衆議院での年金法案通過後になってから「実は……」を繰り返している。不愉快きわまりない。
 ところで、年金問題は支払い履歴や受給額という側面ばかりに焦点が置かれるが、実は運用面が持つ副次的効用として企業活動の透明化、公正化を促進するという側面があることが忘れ去れれている。マスメディアでは政治家の未納問題を取り上げるばかりでこの論点を見かけることはなかった。残念なことだ。 


 たとえば欧米の年金制度では、企業の社会的責任を評価するシステムを参考にしながら運用されている。有名なのは、議決権行使、役員の派遣などをはじめ企業への積極的なコーポレート・ガバナンスの行使で名声を馳せている「カルパース(CalPERS、カリフォルニア州公務員退職年金基金)」だろう。カルパースは国内に限らず日本を含めた海外の企業訪問も盛んに行い、その存在感を示している。

 このような行動を行う目的は、投資効率を上げるためだ。わかりやすく言えば、公務員の退職金のために資金を運用する以上、単純にマネーゲームで儲かればいいという発想では動きませんよということだ。人々が出し合って作った基金を運用するからには、運用益を出すだけではなくそれらの人々の生活や健康に影響をおよぼす企業活動もチェックしますよと宣言しているわけだ。三菱自動車のような体質の会社に投資してリスクを拡げるようなことはあってはならないことなのだ

 具体的にはカルパースは「グローバル議決権行使原則」の中で、企業責任の原則という項目を置き、「投資先企業によき企業市民としての行動を求めて株主行動をする」としている。カルパースは、投資条件に企業倫理や環境重視の施策を取り入れ、その結果として、運用リスクのみならず社会的リスクをも減らす効果をもたらしている。「悪貨が良貨を駆逐する」悪循環もでるではなく、「良貨が悪貨を駆逐する」良循環モデルを採用しているわけだ。

 こうした形での年金の運用には、企業評価が必須だ。そしてこの評価システムは一般化すれば投資だけの問題ではとどまらなくなるだろう。評価をもとに消費者、顧客、取引先、地域社会がさまざまな判断と行動を起こすようになると予想されるからだ。評価の内容によってはボイコットが起こることも考えられる。すでに日本でも、東京都の公職員互助組合が投資の条件に企業倫理や環境を重視することを発表しているが、年金の運用ルールに企業の社会的責任の評価を持ち込むことによって、社会をいい方向に改善することも可能なのだ。

 保養施設に年金を投資したあげく、1万円2万円で売ってしまうようなばかなことをしている国家の年金システムにはあきれ果てる。とても信用できない。とはいえ、年金運用資金は莫大だ。資本市場での運用次第では、良循環モデルに持っていくことも可能なのだ。それだけに我々は年金の運用益だけを問題にするのではなく、それをどのように運用するかについても監視していく必要があるのだ。 


Posted @ 日 - 5月 16, 2004   02:12 午後
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