中国風ワン・トゥ・ワン・マーケティングが自由主義経済の足下をすくう 


社内配本されてきた奇才・小室直樹の12月新刊『経済学をめぐる巨匠たち』(ダイヤモンド社刊)をぺらぺらめくっていたらとても面白い話があってぴたりと目が止まりました。中国では同じ人間関係でも"親しさの度合い"によって表現が違うというのです 


最も密接な人間関係を構成する集団は、「ほう」とか「パンフェ」とよばれる関係。(当用漢字にはないので画像にしておきました)。三国志に出てくる劉備、関羽、張飛の三人が桃園の義盟として結んだ関係です。「管鮑(かんぽう)の交わり」と喩えられるような深い友情を指し、パンフェの規範はすべてに勝ります。
次に密接なのは「情誼(チーイン)」の関係。これは「鉄石の交わり」と称されるような関係です。
その次に出てくるのが「関係(クアンイー)」。リレーションシップとしては3番目の位置づけです。
最後に出てくる緩い関係が「知り合い」とか「知人」と呼称される集団となるのだそうです。

僕がワン・トゥ・ワン・マーケティング的に、あるいはネットワーク経済的に興味をそそられたのは、中国ではそうした人間関係の深浅で価格に影響が出るという指摘でした。
……完全競争市場において、商品の価格は需要と供給だけに依って決まる。需要曲線と供給曲線との交点、即ち均衡点に依って決まる。人間関係・社会関係は影響を及ぼさない。
 これが近代資本主義経済における価格の理論である。このようにして商品の価格は決定され、この価格において売買の数量も決定される。この際、人間関係・社会関係は一切無視しても良い。
 ところが、中国(古代中国でも現代中国でも)ではそんな事はない。客と店との人間関係の深浅の度合いが価格を変える働きを持つことさえある。親しい人、将来、親しくなりたいと思う人物には、店は品物を安く売る。客のほうも同様であって、親しい店からは高く買う。将来、親しくありたい店からも高く買う。(中略)

 ほう(パンフェ)、情誼、関係……の内と外では価格が違ってくるのである。つまり、
 
 彼らは金だけを追求する商売を軽視する。商売を通じて、豊かな人間関係が成立しないっと、満足しないのである。(孔建『中国人——中華商人の心を読む』総合法令、1994年、131頁)

これってどこかワン・トゥ・ワン・マーケティングに通じるところがありません?


小室直樹は、近代資本主義における「市場」とは、歴史的に特殊なものであり、市場法則(例えば、価格決定等)が人間関係の特性に依っても影響されている以上、近代資本主義の経済法則が貫徹される事はあり得ないというコンテクストのなかで、中国の市場経済における人間関係のもたらす影響を論じていました。

リレーション革命が進行するとますますこうした反近代資本主義的状況が増えるわけで、西欧型の、つまりマックス・ウェーバー流の自由市場経済の論理にかまけていると足下をすくわれますよと小室は警告しているようで、実に興味深い指摘でした。 


Posted @ 月 - 12月 15, 2003   10:51 午後
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