ある日のるっちゃんその1
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内田春菊さんの「もんもんシティー」の第二部は「呼びとめる人たち」という話です。彼女はけっこういろいろな人に街で呼びとめられるタイプの人らしい。そして私はその文章を読んで、世の中にはそういう「呼びとめる人」と無縁な方も結構いるのだということを初めて知りました。なんでかっちゅうと、私もまぎれもなく春菊さんタイプで、いい大人になった今でも、日本だろうと海外だろうと、街を歩いて声をかけられなかった試しがないんです。だから世の中の人もみんなそんなもんだと思ってました。

以下は「もんもんシティー」を読んで思い出した「呼びとめられやすい」気質を持つ私の体験談です。良い子は真似をしないでください……って、しないだろうな、最初っから。何の役にも立たない文章ですが、ま、世界に何人かいるらしい「るしマニア」には楽しんでいただけるんではないかと。では、いってみよう!



呼びとめられるるっちゃん(1) 「どこの学校の子?」
中学・高校時代を大阪で過ごした私ですが、その間親は主に神奈川にいました。よって私は6年間寮生活をし、夏休みなど長期の休みに親元に帰省していました。そういう子がかなりいる学校だったので、帰省する時は学校でまとめて新幹線のチケットをおさえてくれて、さながら修学旅行のように団体で帰ります。でも学校に戻る時は自分でバラバラと戻ってくるのです。

例えば親が横浜駅なり東京駅なりまで見送りに来てくれていたらこんな目にも遭わなかったんですが、まぁ、とにかく私は一人で大阪に向かうべく東京駅にいました。長期のお休み最後の日、何年生だったか忘れたけど、中学生の時です。

未だになかなか信じてもらえませんが、私はけっこう人見知りする方で、いろんな「窓口」に自分のために近寄ることができません(人のためならできるところがやっかいだ)。それをしなきゃ生活できなかろうと、銀行に行くのも大嫌い。キャッシュディスペンサーなるものが現れた時にはどれほど嬉しかったことか。当時学校に戻るための新幹線のチケットを手に入れるには地元の「交通公社」に行って予約するのがスタンダードなやり方でした。でも私にはそれはとってもとっても心の重荷。たとえ席が取れなくて4-5時間立ちっぱなしになろうとも、学校に戻るその日にお尻に火がついた状態で緑の窓口に行く方がナンボかマシと思っていました。で、その日もそれをやろうと思っていたのですが、なんせ広い東京駅。なかなか緑の窓口が見つからずオロオロしていました。

そういう私ですから見知らぬ人に緑の窓口の場所を訊ねるなんてことは本当の本当に最終手段です。でもそろそろ誰かに聞かないと点呼の時間に遅れちゃう……と思った時、目の前に二人の男の人が立ちふさがりました。ちょっとくたびれたダークスーツを着た二人は、いかにも冴えなくてモテなさそう。中学生をナンパするには歳がいきすぎてる気はするけれど、それまでにもそういうセーラー服マニアみたいなのにつきまとわれた事が皆無じゃなかっただけに「まためんどくさいヤツらがめんどくさい時に現れた」と内心ムッとしました。

そんな私の気持ちが通じてか、彼らは自分の身分を明らかにすることを真っ先にしました。私の目の前に黒い手帳が突き出されたのです。「警察手帳」じゃなくて「警視庁」と書いてあったような気がします。わ!ケーサツ!私服の警察官と相対するのは初めてだったので、彼らが私をどう思っているかなんてことは想像もせず、ちょっとウキウキしてしまいました。現金なものです。

「どこの学校の子?」
おじさんの一人が聞きました。
「S女子中学です」
と答えると、二人は怪訝な顔。まぁ東京に兄弟校はあるけど男子校だし、うちは大阪の学校だから知らなくても無理はないよね……。
「ここで何してるの?」
「学校に行くとこです」
この答えは彼らの謎を深めてしまったみたい。在来線とはかけ離れた場所にいたしね。
「生徒手帳見せてくれる?」
と言われてそれを手渡したところで、どうやら私は家出少女と思われているんじゃないかと気づきました。しかし。私の格好といえば「外出する時は制服着用のこと」という校則を遵守して鞄まで学校指定のものでコーディネイト。家出するのに制服着ていくヤツがいるかね……とますます笑えてきてしまいました。

ところがおじさん達は逆にどんどん疑いを深めていく様子。何てったって私の生徒手帳にある学校の所在地も大阪なら、私の寮も大阪(というか学校の中)。親の連絡先など書いていないので、どこにも私が東京駅にいる必要性を証明するモノがないことに私も気づきました。そこで、学校は大阪だけれど親が神奈川にいること、今日が学校に戻る日でここから新幹線に乗るつもりであることを説明し、私の話が信じられないなら親にでも学校にでも問い合わせてくれればいい、と言いました。

寮で生活する中学生なんて自分の周りはそういう子ばかりなんだし、ごく普通のことだったんだけど、彼らはなんかピンとこない様子。そういえば私もそんなに悠長にしていられなかったんだ、と気づき、「この辺に緑の窓口ありませんか」と聞こうと思った瞬間に彼らの背後に緑色の光を発見。これ幸いと「時間がないので失礼します」と生徒手帳を取り返し、何か勢いがついたのでおかげで颯爽と(?)チケットを買いに行くことができました。後を追ってこなかったところをみると、彼らもそれなりに納得してくれたんでしょうか。

後でこの話を友達にしたら(そういえば親にはしないままだったな)非常におかしがってくれました。だってその頃の私は見かけはともかく(天然メッシュ&ウェーブ入りの腰までのロングヘア、身長も160はあったりで大人びて見えたらしく、他校の上級生にケンカ売られたっけ)、かなり厳しい校則を一度も破ったこともないような堅物の優等生と思われてましたから。「この人を補導するんなら、日本中の中学生捕まえなアカンわ」だそうです。お仕事とはいえ大変なことよね。怪しいと思う全ての子に声をかけているんだとしたら……。今となっては何だか同情します。元気かなぁ?あのケーサツの人たち。



呼びとめられるるっちゃん(2) 「ぼくの血液型何だと思う?」
エスカレータ式の学校にいたので高校・大学受験はしないですむはずでしたが、跳ねっ返りだった私は自分とこの大学への推薦(試験に相当する)試験で白紙答案を出して外部の大学を受験しました。当時私の行きたかった学部がうちの大学になかったことがそもそもの原因ですが、教師・親一丸となって私の外部大学(のとある学部)受験に反対したので、意地でもエスカレータには乗るもんかという気持ちがよけい焚きつけられてそんな過激な抵抗に出たのかもしれません。

ま、そんな訳で高校3年生の1月2月(3月もだっけな?)というのは全国受験行脚シーズンでした(全国に行くなぁ!)。もちろんどこに行こうと親がついてくる訳でもなく、私は見知らぬ土地を一人で、例によってオールマイティセーラー服で旅(受験やろ?)していた訳です。

そういう季節に、大学のある場所に向かう電車の中で高校生が真剣な面差しでシケタンとかに目を通していたら、「受験だな」ぐらいさほど鋭い人でなくてもピンとくると思います。「頑張ってね」の一言ぐらいは言ってもらっても嬉しいですが(実際そういう方もいました)、そうでなければ全面的に放っておいてあげるのが親切というものです。

ところが、そんな時にも話しかけられてしまう(しかもそれを無視できない)のが私という人なのです。その土地で見かけない制服を着ているというのがいけないのかもしれません。その日も40代後半ぐらいの、非常〜によく言えば崩れた京本正樹さんみたいなオジサンが側に寄ってきました。

「ねぇねぇ、どこから来たの?」
「大阪です」
「えぇぇ〜!大阪から何でまたこんなところへ」
「これからK大学の受験なんです(≒だから無駄口きいている時間はないんです)」
「へぇ、そうなんだ!そういえば僕が高校生の頃の受験ってのはねぇ……」

オジサンは私が迷惑がっているのも意に介さず滔々と自分の体験を語り始めました。私は基本的にこういう無神経な人がキライです(誰でもそうか)。一人旅にもそろそろ飽きてきて話し相手が欲しいなと思っている時ならともかく、寮生活をしていた私は一人きりになれることなんかめったにないわけで、こういう移動時間ですら落ち着いて思索できる貴重なひとときなのでした。もちろん数十分後に受験を控えていたその時は一つでも多く法則でも定理でも定数でも確認していたい心境でした。でもあからさまに無視することも、「話しかけないで下さい」と言うこともできない性格。オジサンは父より年上っぽかったですから、それなりの敬意を払わないとね、と本能(?)が命令していたのかも。困ったなぁと思いつつ取りあえずオジサン・ウォッチングをしていました。

話を遮る隙を与えないオジサンの体験談は申し訳けないけど私には役立ちそうもないことでした。だいたいその年齢では共通一次なんてものの経験もないだろうし、彼自身が醸し出す雰囲気も私が進みたい方面の人とはほど遠い感じです。そもそも、定年したって年齢でもないのに平日の真っ昼間っからブラブラと田舎行きの電車に乗って女の子に声をかけるなんて、少なくとも「堅い」仕事の人ではないんじゃないかという気がしました。もちろん型にはまらない大天才って可能性もないわけじゃないけど……。

「ところでさ、血液型なに?」
オジサンの話題はボウルに入れられたアサリが飛ばす水並に唐突にいろいろな方向に行きます。既に受験の体験談から恋愛論を経て今度はこんなところへ。しかし、血液型ねぇ?キライじゃないですけど、高校生の私ですら4つのタイプに人間を分けるなんてアホらしいと半分思っていたし、いい歳の大人がそんなこと話題にするなんてとちょっと呆れました。女の子に受ける話をしなきゃと思っていたというより、当人が本当にその話が好きそうだったのです。

「何に見えます?」
と振ってしまったのもマズりました。自分からよけいな情報を相手に与えることはイヤだという気持ちがあったからウヤムヤにしたかったのですが、パキンと答えて話を終わらせるチャンスを逸しました。
「そうねぇ、A型かなぁ?いや、どうなのかなぁ?」
あれこれぶつぶつ悩んだあげく、彼はギブアップしました。日本人の10人に4人はA型と言われていますから、取りあえずA型と言っていれば、まぁ半分は当たるでしょうし、A型と言われて怒る人もそういないでしょう。たった4つしか選択肢はないんだし当てずっぽでもAとか言っときゃいいのに、臆病者。ますます私は「お友だちになりたくないタイプだ」という思いを強くしましたが、当然予想される展開になりました。

「僕は何型だと思う?」
どことなく、彼は絶対当たるまいという自信を持っているように見えました。でも私は即答しました。
「AB型でしょ」
「あれ〜?驚いた!何で分かるの!?」
何でと言われてもねぇ。アホらしいという気持ちが半分ありながらも、私も当時の女子高生らしく、血液型による行動パターンというものが一通り頭に入っていたんです。オジサンのやることなすこと、私の知っている「AB型」そのものでしたからねぇ。ふぅ。またつまらぬものを当ててしまった。

この人、早く降りてくれないかなぁという私の淡い期待に反して、オジサンは私の目的の駅よりも遠くに行くようでした。しかも私の受験についてきたいそぶりをみせたので、それはさすがにお断りしました。その試験の結果はさんざんでしたが、それをオジサンのせいにするつもりはありません。たった何時間か電車の中で勉強したことが合否を左右するんだったら、そもそもの準備が足りなすぎたってことですからね。ただ、うさくさした気持ちを引きずっていたので同じようなオジサンだった面接官に八つ当たりしてしまったような気がしないではありませんが。教訓:馴れ馴れしいのもほどほどにね♪(っていうか、真面目に勉強しとけよ>私)。


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