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ミニ知識



西洋の紋章は細かいルールの上に成り立っています。使用できる色や描かれる図形(帯状のラインの幅や動物の姿勢など)にとても細かな規定があります。
また、複数の紋章が組み合わせられた場合、紋章保持者の経歴や領地の歴史的背景といったものもわかる仕組みになっています。
これらは「紋章学」として体系化されておりますが、その内容は膨大かつ複雑です。

よってここでは、最も基本と思われる事柄を取り上げてみました。


※大筋は現行イギリス紋章制度に沿ってまとめています。しかし、当サイトで取り上げている大陸諸国の歴史紋章には当てはまらない内容もあるので、適宜補足しています。
※紋章用語の各国語訳は基本的な用語は『Vocabulaire-Atlas Heraldique en six langues』(1952)を参考にしています。一般的でなく同書非収録の用語は、他文献や紋章関連サイトを参考にしています。



紋章は個人紋
紋章の構成
盾の部位と構成
盾の形
彩色
紋章図形(分割図形・幾何学図形・具象図形)
紋章図形の例(別ページ)
マーシャリング(紋章の組み合わせ)
クレストの序列
ブレーゾン(blazon)
紋章冠(別ページ)

紋章は個人紋


西洋の紋章は、全身に甲冑をまとった騎士が一体誰なのかを示す目印から発達してきました。戦場で目立つためという意味と、部隊指揮官として命令をスムーズに伝達させるという目的がありました。ですから、同じ目印やよく似た目印が幾つもあると、兵士達が混乱してしまい、命令がうまく伝わらなくなってしまいます。

このような事態に陥らないように、同一の紋章や紛らわしい紋章を存在させないルールが作られ、整備されてきました。絵の上手下手とか絵の具の種類による差とか、そういった不安定な要素を取り除いた部分に厳格なルールが作られました。日本の家紋のような感覚で見ると、「どうしてこれが同じなの?」となってしまう紋章図も、作画上のルールはきちんと守られていて、「違う」と見えるのは、紋章学上無意味か誤差範囲の部分なのです。

このことは、ブレーゾン(blazon)という紋章解説法からもうかがえます。ブレーゾンとは、中世の騎馬試合で審判(紋章官)が出場者の紋章を口で説明した事に由来します。たくさんの観客に紋章を瞬時に理解してもらわなければなりませんから、説明は単純明快である必要があります。また出版物に全ての紋章図を掲載することができない場合、図形の内容を文字だけで記述・説明しなければなりませんでした。このような事情によって、文字や言葉で説明しにくい(=明快でない)部分が切り捨てられていったのかもしれません。


紋章の構成


紋章は盾に描かれた図形と、盾を囲むさまざまなアクセサリー類から成り立っています。アクセサリーには、身分や家系を表す役割があります。

時代が下るにつれ、紋章は家門を誇示する性格が強まっていき、その結果、さまざまなアクセサリーが描き加えられるようになりました。

大紋章の基本的な構成はおおよそ右図のようになっています。

紋章ローブ 

大紋章全体を包み込むローブで、位階を表します。ローブで全体を覆ったものをローブ・オヴ・エステート、野営用の天幕をあしらったものをパヴィリオンと呼びます。内側が毛皮模様となっているローブは、英国では王、王太子以上に限られますが、大陸諸国では、たとえばドイツでは伯以上の君主、司教や修道院長など聖職者が普通に用いるように、国によって大きな違いがあります。
ローブの外側は多くの場合無地ですが、百合の紋章をちりばめたフランス王、鷲の紋章と王冠をちりばめたドイツ皇帝やプロイセン王、王冠をちりばめたデンマーク王、紋章を大きくプリントしたロートリンゲン公やロアン公、トゥルン・ウント・タクシス侯などのような例もあります。
紋章にローブが描かれるのが流行しだしたのは18世紀頃からだそうで、絶対主義の発展やバロックやロココ文化の精神とも関連しているそうです。

紋章所有者の身分を示します。国や時代によってデザインが変化し、また王侯やその一族によっては、独自のデザインの冠を用いたりします。
クラウンは紋章盾の上に直接載せられて身分を表現したり、ローブの上に描かれて留め具の役割も兼ねます。なお、パヴィリオンの頂に乗せられる冠は、現代紋章学では皇帝冠または王冠に限定されていますが、18世紀の紋章図では公爵帽(選帝侯帽)が描かれた例があり、時代によってルールが異なるようです。
一方コロネットは、ヘルメットに被せられてクレストの台座の役を兼ねています。身分も表しますが、クラウンほどはデザインが細分化されていません。また、盾の上に直接置かれることはありません。

クレスト 

兜飾りです。日本の兜の鍬形や前立に相当します。紋章が個人を表すのに対し、クレストは家系全体で使用されるため、日本の家紋のような性格を持っています。なので、クレストと紋章の役割は、日本の鍬形と家紋の関係と逆になります。
領土や称号と結びついた紋章のクレストは、本来の家系だけでなく、領土や称号を継承した他家の紋章図にも登場します。また、ドイツのブレーメンやハンブルクのように、都市の紋章にクレストが登場することもありました。
クレストは14世紀になってから登場し、戦場や騎馬試合と密接に関連しながら発達していきました。紋章図案を類推させる飾りや、よく似た配色が使われることが多いです(右図参照)。
クレストは紋章盾の上部に代表的なものが載せられます。しかし必ず描かれるというわけでもなく、個数も決まっていません。18世紀のブランデンブルク=クルムバハ辺境伯の紋章では12個のクレストが描かれ、また、バーデン=ドゥルラハ辺境伯のように、盾の周囲にも組まれている紋章と対応するように10個のクレストが描かれるといった例もありました。

現在の英国紋章制度では、女性の紋章にクレストを描くことは原則として認められませんが、君主は例外です(そのため、エリザベス女王の紋章には描かれています)。大陸諸国でも、たとえば神聖ローマ帝国の女子修道院長のように世俗の君主権を持っている場合や、当主や称号保持者の紋章にはクレストが描かれることがあります(右図)。

リークニッツ女侯アウグステの紋章。プロイセン、リークニッツ、ホーエンツォレルンのクレストが描かれています。1824年にプロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム3世と結婚。しかし低い身分の出のため王妃の称号を許されず、リークニッツ女侯とホーエンツォレルン女伯に叙されました。(19世紀のリトグラフ)


ヘルメット 

紋章盾の上に載せられるアクセサリーですが、国や時代によってデザインが大きく異なります。現行のイギリス紋章制度では、ヘルメットの形と向きや色によって、紋章所有者の身分を表します。一方、紋章制度が廃止された大陸諸国では、王侯を除いて厳密な制限はないようで、今日の創作紋章では、多くの種類の形と向きのヘルメットが描かれています。
ヘルメットと紋章盾の関係には紋章作画上のルールがあって、盾の上に載せられていることを表現するため、盾の一部と重なるように描かれたり、盾に固定する器具が描き加えられたりします。
なお、上の参考図の格子付ヘルメットの場合、格子の本数は、イギリスでは君主は6本、その他の貴族が5本、ドイツでは5または7本と定められています。

マント 

マントには敵の斬撃を防いだり、相手の剣を絡め取ったりする役目があります。紋章図では、戦闘で破れた状態を図案化して描くのが一般的です。勇敢な戦士であることを表現したものが、次第に装飾的に変化していったものと思われます。
マントの彩色は、紋章盾の彩色と同じく、原色と金属色の組み合わせになっていて、原色同士や金属色同士の彩色は認められません。また、王侯以外の貴族は、使える色が制限されています。

紋章盾 

紋章を描く下地の図形です。紋章は騎士が盾に自身のマークを描いた事から生まれましたので、現在でも盾形の枠取りが使われます。
小紋章ではこの紋章盾のみが描かれることが多く、紋章の最も重要な部分です。

盾持ち 
(サポーター)

紋章盾を支えるアクセサリーです。動物・人間・架空の生物などが一般的ですが、生物以外の物を使った例もあります。扱いは国ごとに大きく異なり、共通のルールはないそうです。
家系を特定する役割がありますが、たびたび変更されることもあって固定的とは言えません。また一族が等しく同じサポーターを使用するとは限らないです。例えば19世紀ドイツのヴェッティン家では、振り向いたライオン(ザクセン王、コーブルク=ゴータ公)、正面を向いたライオン(アルテンブルク公)、甲冑姿の騎士(マイニンゲン公)というように、組まれている紋章中から各家に関係深いサポーターを選び出したり、あるいは使用しないで(ザクセン大公)、独自色を出す例もあります。
通常は盾の両側に一体ずつ置かれますが、大陸諸国では盾の片側や背後に一体という例も多く、両側に2体ずつ計4体の盾持ちを用いている例もあります(フランスのアルブレ家やドイツのザイン侯など)。また、神聖ローマ帝国やドイツ、ロシア帝国などの鷲の紋章では、鷲の紋章の盾地を省略してサポーターのように扱われることも多いです。

台座 

大紋章図を安定させるアクセサリーです。デンマーク王やプロイセン王のように木の台座そのもので描かれたり、オーストリア皇帝の植物様の装飾や、イギリス王ではモットー(標語)が書かれた巻物がその役目を兼ねていたりなど、形は一定しません。イギリスでは使用身分が定められていますが、それ以外の国には使用基準はないようです。

勲章・綬 

紋章所有者が保有する最高勲章が描かれることがあります。騎士団員章に由来します。描かれる勲章の数は1個とは限らず、たとえば両シチリア王の紋章では6個、バイエルン王では4個、パリ市章では3個の勲章が描かれています。


その他の主なアクセサリーには以下のものがあります。

リース 

シルクとレースをねじって作った、いわゆる「ねじりはちまき」で、ヘルメットにマントを固定するために用いられます。クレストの台座の役目も兼ねます。黒人達のヘアバンドに着想を得たと言われ、14世紀の末頃に登場しました。
紋章図でもヘルメットと共に描かれますが、基本的に位階を表しません。ただし、フランスでは騎士身分を表す冠類として、紋章盾の上に単独で描かれることがあります。
紋章図では色は二色または三色、リースの分割数は6と決められています。

モットー 

家訓や信条といった家系と結びついた標語が描かれることがあります。紋章の下部あるいは上部に描かれた巻物に書かれることが多いですが、プロイセン王のように天幕の部分に刻まれる例もあるなど、描かれ方は一様ではありません。刻まれないことも多いです。
英国王は「Dieu et mon doroit(神と我が権利)」、フランス王は「Mont ioye St.Denys(聖ドニに万歳)」、プロイセン王は「Gott mit uns(神は我らと共にあり)」など、聖書や勝ち鬨の声に由来する例や、座右の銘など、含蓄のある言葉が多いです。

職位 

武官や宮内官など、その国の主要官職に任ぜられた人物には、職位を表すアクセサリーが描き加えられます。
デザインは国によって異なりますが、職を象徴したものが描かれます。なお、神聖ローマ帝国やオーストリアでは、アクセサリーではなく固有の紋章として描き加えられました。

盾の部位と構成


盾は細かく部位分けされていて、それぞれ名前がつけられています。これらは紋章作画のための目安の役目も果たしています。
注意する点は盾の左右の表記。盾自身から見た場合の位置関係で説明されています。

points of field
 盾の構成

盾の形


紋章は防具の盾に描かれた図形から発達してきたので、初期の紋章盾は、実際の盾に似たシルエットでした。時代が下がるにつれて、盾の形は次第に幅広で丸みを持つタイプへと変わり、そして近世に入ると、円形や楕円、そしてもはや盾形とは呼べないような激しくデフォルメされた輪郭のものまで登場しました。
こういった時代による変化の他にも、国により好まれる盾の形に違いがありました。そのため、盾の形は「〜型」と言った呼ばれ方もします。この「〜型」は、目立って多く使われている程度の意味で、国籍を規定するものではありません。紋章が描かれた時代の流行や、紋章使用者や作画者の好みが反映されていたりします。
たとえば、18世紀の諸国の紋章図鑑は、フランス型の盾地で描かれていることが多いですが、同じ時代のフランスで発行されたコインの紋章は、小型のソル銀貨はスイス型→フランス型→楕円型(イタリア型)、大型のエキュ銀貨は一貫してイタリア型で刻まれています。またドイツ型の盾も、ドイツの絵画作品や蔵書票、建物のレリーフにはとても多く登場するものの、紋章図鑑やコイン・メダルなどでは少ないです。なので、目的やデザイン上の理由によっても、盾の形は選択されたのかもしれません。

それ以外にも、紋章の組み合わせ(マーシャリング)も関係しているようです。実際、多数の紋章を組み込もうとすると、三角形よりも方形に近い盾地の方が容易という事情もあります。

なお、使用者が限られる特殊な盾形図形に、菱型と馬頭型があります。菱型は女性用の盾ですが、女性専用というわけでもなく、男性の紋章や都市の紋章にも登場します。馬頭型は聖職者専用の盾です。しかし、たとえば前教皇ヨハネ・パウロ2世や現教皇ベネディクト16世の紋章が普通の盾形図形を使っているように、聖職者が必ずこの盾形を使用するとは限らないです。

初期の盾(13世紀末型)(1)

Shield end 13th century

Ecu fin XIII Siecle

Dreieckschild ende 13. Jhdt

Scudo fine del Duecent

アイロン型(14世紀型)

Shield 14th century

Ecu XIV Siecle

Dreieckschild 14. Jhdt

Scudo del Trecent

スペイン型

Shield round in base

Ecu Espagnol

Halbrundschild

Scudo Ritondato

フランス型

Shield (French)

Ecu Moderne ou Francaise

Franzoesischer Shild

Scudo Sannitico o Moderano

イギリス型

Shield (English)

Ecu Anglais

Englischer Schild

Scudo detto Inglese

ドイツ型(2)

Targe a bouche

Targe

Tartsche

Scudo Incavato

楕円型(イタリア型)(3)

Oval shield

Ecu Ovale

Oveler Schild

Scudo Ovale

菱型

Lozenge

Ecu en Losange

Rautenschild

Scudo Femminile o a Losanga

馬頭型(イタリア型)(4)

Shield (Italian)

Ecu Italien (Renaissance)

Italienischer Schild

Scudo testa di Cavallo


※備考
紋章用語の英仏独伊蘭西6カ国語対照辞典『Vocabulaire-Atlas Heraldique en six langues』を見ると、わが国で一般的と思われる森氏の用語とのずれがあります。覚え書きとして記しておきます。

1)「初期の盾」はオランダ語が「古い紋章盾」と呼ぶ以外は「13世紀末型」の呼称が使われています。
2)「ドイツ型」という呼称は見あたらず、いずれも小盾を意味する言葉があてられています。
3)上記6カ国語には「楕円型」をイタリア型と呼ぶものはありません。
4)「馬頭型」はイタリア語での呼称で、それ以外の国ではこの型を「イタリア型」と呼んでいます。
5)図示していませんが、日本で「スイス型」と呼ぶものは一般にルネサンス型(オランダでは16世紀型)と呼ばれます。なお、フランス語では上述の馬頭型をEcu Renaissanceとも呼び、スイス型のCartouche Renaissanceと呼び分けています。

以上のように、イタリア型と呼ぶ盾の形は日本とヨーロッパではずれがあるようです。ただ、参考にした森氏の著作が古く、また森氏の他の著作では確かめていないので、現在の用語とは違っているかもしれません。

上記の参考書:
Stalins, N.『Vocabulaire-atlas heraldique en six langues : francais, english, deutsch, espanol, italiano, nederlandsch』Paris,1952
森護『西洋の紋章とデザイン』ダヴィッド社、1982

彩色


彩色は紋章学上もっとも重要な要素の一つです。

紋章は戦場で騎士を識別する標識から発展しましたので、識別性の問題から、使用できる色の種類と組み合わせ方が決められました。

使用できる色は、金属色、原色、毛皮模様の三種です。色の組み合わせは「金属色+原色」というように、異なるグループの色同士のみ許されます。「金属色+金属色」「原色+原色」ような同じグループ同士の組み合わせは彩色違反といって、許可されなかったり、紋章院(紋章の許認可や管理を行う役所で、現在は英国のみに残っています)に摘発されたりするそうです。

使用できる色を下に挙げました。明るさや彩度に違いがあっても、その系統に属しているなら同じ色と見なされます。各色の下半は、モノクロ印刷やコインに刻まれた紋章の色を表現する記号です。「ペトゥラ=サンクタ法」と呼ばれます。
図の右側には上から順にイギリス、フランス、ドイツ、イタリアの紋章用語を記しました。
ところどころ用語が欠けていますが、彩色には国によって一般的でないものがあったりして、調べきれませんでした。また、国によってはここに挙げた以外の彩色も認められます。

原色のうち、赤・青・黒・緑が基本の彩色で、他の色は16世紀頃から使われるようになりました。
「紫」は英・仏などで多く、ドイツでは非常に稀にしか用いられず、「橙」は英国の固有色とも呼べる彩色です。「深紅」もごく稀にしか用いられません。
なお、「橙」「深紅」は「暗紅色(murrey)」と混同されることが多く、三者はペトゥラ=サンクタの表示も含めて記述が一定していないような印象です(特に大陸諸国で)。
ここに挙げた以外の代表的彩色には、「ピンク/肌色」(人物の肌に使用され、フランスで多い)や「灰色」(スペインでは固有色。ドイツやイタリアなどでは金属色の銀色の意味で用いられます)があります。

他に、特殊な彩色として自然色があり、「ごく自然に、適当に」と指定されます。盾地ではなく具象図形(人物、動植物、建物など)や盾持ちその他のアクセサリに散見されます。実物に近い、違和感のない色で塗られるようです。


【金属色】(2種)
【原色】(7種)……基本は赤・青・黒・緑の4色です

or

or

Gold / Gelb

oro

gules

gueules

Rot

rosso

azure

azur

Blau

azzuro

argent

argent

Silber / Weiss

argento

sable

sable

Schwarz

nero

vert

sinople

Gruen

verde

ペトゥラ=サンクタ法による作画

purpure

pourpre

Purpur

purpora

tenne

orange / tanne

Braun

深紅

sanguine / murrey

sanguine

自然色

proper

naturel

Natur


【毛皮模様】

アーミン

ermine

hermine

Hermelin

ermellino

アーミノワ

erminois

Goldhermelin

ピーン

pean

Gegengoldhermelin

アーミンズ

ermines

contre-hermine

Gegenhermelin

contrarmellino

ポウタント

potent

vair potence

Krueckenfeh

vajo potenziato

カウンター・ポウタント

counter potent

contre-vair potence

Gegenkrueckenfeh

contoro vajo potenziato

雲形ヴェア

vair ancient

Wolkenfeh

ヴェア

vair

beffroi

Eisenhutfeh/
grossmustriges Feh

vajo

カウンター・ヴェア

counter vair

contre-vair

Gegenfeh

contoro vajo

交互ヴェア

vair undy

Wechselfeh

縦帯ヴェア

vair in pale

beffroi de vair en pal

grossmustriges Pfahlfeh

vajato in palo/gran vajo in palo

四色(色付)ヴェア

vair of four

Buntfeh


【ダマスク紋様】  紋章の無地の部分の装飾です。彩色や紋章図形ではありません。

菱形ダマスク紋様

diapered

diapre'

Rauten-Damast

蔓草ダマスクス紋様

diapered

diapre'

Ranken-Damast


ドイツ系の紋章に非常に多く見かける幾何学模様の装飾で、少数ながらフランスや英国の古い紋章にも登場します。具体的な彩色は表現できませんが、単純分割図形で彩色の違いを表したり、無地の味気なさを埋めるために用いられたのが起源のようです。パターンは作画者の嗜好によって様々で、通例、地色より若干暗めの色で描かれます。
ペトゥラ=サンクタ法が採用されると、彩色表現と紛らわしい菱形ダマスク紋様はやや廃れますが、蔓草模様は紋章図を華やかに見せるために盛んに使われました。ダマスク模様は現代の紋章図でも使われています。


コインに描かれたダマスク模様
ヒルデスハイム司教ヨプスト(在位1688−1702)

紋章図形(分割図形・幾何学図形・具象図形)


紋章図形の総称を英国紋章学ではチャージと呼びます。チャージは、分割図形・幾何学図形・具象図形の三種類にグループ分けされます。
このうち分割図形と幾何学図形は、一見同じように見えますが、両者は全く異なるルールから成り立っています。大まかに言いますと、以下のようになります。
分割図形は盾地を幾つもに分割して異なる色で塗り分けたもの。
幾何学図形は盾地に帯や十字などの幾何学的図形を重ねたもの。
具象図形はライオンや鷲など具体的な姿形をしたもの。実在空想を問わず何でもありです。ただし、向きとか姿勢が細かく決められていて、ルールに違反する図は認められません。また、ライオンなど実在の動物を描く場合、実物を忠実に模写したり写真で代用することは認められません。識別しやすいデフォルメされた図形で描かれることが求められます。

いずれのグループにも細かなルールがあって、それぞれの図形や姿勢には固有の名前が付けられています。

紋章図形の例

マーシャリング(紋章の組み合わせ)


結婚や相続などで領地が増えたり家が合同すると、紋章も組み合わせられます。紋章の組み方には法則があります。盾のどの場所に描かれるかによって、領土や称号の序列、それから家系の由来といったものが説明されるわけです。
おおざっぱに言うと、向かって左上が最上位で右下が最下位です。数十に分割された場合でも、おおよそこの原則に従って順番に組まれていきます。

下に代表的な組み合わせを載せました。丸数字は序列です。


ディミディエイションとインペイルメント

2個の紋章を組むために最初に考案された方法です。ディミディエイションは単純に図形を二分して組み合わせる方法。インペイルメントは図形全体を収める方法で、ディミディエイションの改良法です。
また、両者の折衷型もよく見かけます。

ディミディエイション
フランス&ナヴァール王
カペー朝
インペイルメント
フランス&ナヴァール王
ブルボン朝

クォータリング  本来は4分割という意味ですが、盾地を多数に分割することを総称します。

2個の紋章の基本的な組み方で、X字状に紋章を配置します。単純縮小で描けるため、元の紋章が識別しやすい利点があります。


ライン宮中伯
プファルツ>バイエルン

3個の紋章の基本的な組み方で、最も重要な紋章を2区画に配置します。イギリス王の紋章はこの方法で組まれています。

トリーア選帝侯
トリーア>プファルツ>バイエルン

3個の紋章を組む方法で、盾地を奇数に分割します。ヨーロッパ大陸諸国で奇数の紋章を組む時に使われます。

プファルツ選帝侯
プファルツ>バイエルン>帝国大膳長官

多数の分割

6分割(1)
6分割(2)
9分割
12分割

多数の組み合わせの基本です。紋章の重要度によっては、分割面の面積や区分け方が変わってきます。
既にマーシャリングされた紋章同士が組み合わせられると、区画はいっそう複雑になります。


特殊な序列

分割が進んだ時に、向かって左上が優位という原則を適用すると、重要な紋章が左上の隅に追いやられ、盾の目立つ位置には重要でない紋章が来るという、困ったことが起きてしまいます。

そこで、盾の中心列を最優位とし、向かって左隣を次位、向かって右隣をその次…というような組まれ方も行われました。
この組み方は、ドイツ系の紋章に多く見られます。ドイツ系の紋章では、盾の中心軸を向くように図形を反転させることがよく行われますが、それと関係するのかもしれません。

マインツ選帝侯
リッペ侯
ブラウンシュヴァイク公

インエスカッシャン

盾の中央に小盾を置く組み方です。小盾には領土全体を代表させる紋章・家系を表す紋章・職位や下賜された紋章などが組まれます。
ヨーロッパ大陸諸国では、最も重要な紋章が描かれることが多いです。

バイエルン選帝侯
帝国大膳長官>バイエルン>プファルツ

マーシャリングの例(ブルゴーニュ公)


14世紀後半から15世紀末にかけてのブルゴーニュ公の紋章の変遷です。

トゥーレーヌ公フィリップがブルゴーニュ公領を与えられた時からマーシャリングが始まります。
その後の百年間に、結婚や相続によって所領が拡大し、紋章も複雑になっていきます。
紋章の組み合わせ方は、結婚や相続相手の称号や家格、あるいは政治経済的な実勢を反映して一様ではありませんでした。
その中で一貫してフランドル伯の紋章が目立つ位置に組まれているのは、同伯領が当時、ヨーロッパ屈指の経済文化の先進地だったことに関係しているようです。
なお、ティロルはフィリップ美公の父マクシミリアン1世が相続したものです。有数の大銀山と広大な領地、そして帝国諸侯の地位を持つティロルは、ハプスブルク家にとって極めて重要な領土でした。
それに対し、リンブルク(リンブルフ)は13世紀末以来ブラバントと合同していたからか、フィリップ美公の代に取り外され、以後復活しませんでした。ブルゴーニュ公のマーシャリングは、称号のランクよりも実情に即していた、と言えるかもしれません。

クレスト(ヘルメット)の序列


マーシャリングで紋章に序列がつけらると、当然ながら、その紋章に付属するクレストにも序列が生まれます。ヘルメットは盾の上に一列に並べられるため、マーシャリングとは異なる順番付けが行われます。
すなわち、中央が最優位で向かって左が次位、向かって右が第三位というように、列の中央から外側に向かって順位がつけられています。


2個の場合
3個の場合
4個の場合

ブレーゾン(blazon)


上でも触れましたように、紋章は文章で説明することができます。ということは、紋章説明の文章から紋章図を書き起こせることも意味します。
当サイトで紹介している紋章図にも、ブレーゾンから書き起こしたものや、彩色を確認したものがあります。

ちなみに、こんな具合に記述されます(英語の場合)。

per fess sable and argent, two swords per saltire gules
(黒と銀で横二分割した盾地に、X字形に交差した赤色の二本の剣)


ブレーゾンは紋章を簡潔に説明する便利な方法ですから、紋章制度が廃止された国々でも健在です。
当然、それぞれの国の言葉で記述されますが、説明する順番はほぼ共通しています。
参考までに、同じ紋章のブレーゾンを英語・仏語・独語の順で載せてみました。

金地に赤色の斜め帯

Or a bend gules

D'or, a la bande de gueules

In Gold ein roter Schraegrechtsbalken

黒と金で10に等分割された盾地に葉花冠をあしらった緑色の斜め帯

Barry of ten sable and or over all a crancelin vert

Burele de sable et d'or, au crancelin de sinople, brochant en bande sur le tout

Von Gold und Schwarz neunmal geteilt mit schraegrechts uebergelegtem gruenen Rautenkranz

黒地に爪と(舌と)冠が赤の(左後片足立ちの)金色のライオン

Sable a lion or crowned and armed gules

De sable, au lion d'or, arme, lampasse et couronne de gueules

In Schwarz ein goldener, rotbewehrter und rotgekroenter Loewe


言語的な特性もありますが、英語の表記が一番簡潔です。ドイツ語は、日本語の紋章説明とほぼ同じ順番で、表記も日本語と同じくらい丁寧です。

なお、「左後片足立ちで右(前方)を向いたライオン( lion rampant )」は最もポピュラーな紋章図形のひとつのため、単に「ライオン」と呼ばれることも多いです。上のブレーゾンでも、各国語とも単に「ライオン」とだけ記述されています。

紋章冠

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