ヨーロッパ称号対照表(抄)

ヨーロッパの紋章と切っても切り離せない関係にあるのが、称号。紋章図には身分を示す冠が描かれていたり、身分によって使える色が制限されていたりします。紋章は時代が下がるにつれて、身分を表す標としての役割が強まっていきます。
本サイトの紋章説明でも、王国とか公国といった、君主の称号による呼び分けをしていますし、保有者の位階が上がると、紋章盾に載せられる冠も変わっていく様子を描いています。

ところで、このヨーロッパの貴族の称号。当サイトでも王とか公爵とか簡単に書き綴ってしまいますが、原語にあたると意外とめんどうです。
国によって呼び名が微妙に違うのはもちろんですが、その国独自の称号があったり、自国と他国の称号を呼び分けていたり。


そこで7カ国語+ラテン語の称号をまとめてみました。ラテン語は昔のヨーロッパの共通語。各国語の呼称はラテン語の名称に対応します。とはいえ、皇帝や侯はローマの官職から、一方、公や伯はゲルマン民族の軍事指揮官やフランク王国の役人の職位から、というように称号の由来はさまざま。ですから、全ての称号に最初からラテン語名があったわけでもなさそうです。


さて、表をご覧になると、たぶん「???」となると思います(苦笑)。そうです。日本語の訳語がちょっと変。
日本語の訳語の基となったのは日本の華族制度で使われた爵位。華族制度は明治政府によって作られた制度。特権階級の利益を守ることが制定の大きな目的ですが、明治政府の特権階級を西洋の貴族階級に対応させる(西欧諸国と日本は同等なのだとアピールするため?)という一面もあったと思います。

それには、西欧と日本の爵位に共通の理解が必要です。つまり、彼我の爵位の対応付けが必要となるわけのですが、日本の華族制度の階級は五つ。いかんせん呼称の数が少なすぎます。それでもなんとか東西の爵位を対応させた先人の苦闘の跡がうかがえるようです。

このような経緯の他にも、わが国の西洋史研究の学史的な問題点もあるのかもしれません。門外漢の私の眼には、各国史の研究が進む一方、統一的な術語(研究に用いる用語)を整備する作業が少々なおざりにされたように映ってしまうんですけどねぇ…。本当のところはどうなんでしょ?




各国語対照表(未完成です)


色分け=男性の称号女性の称号   ドイツ語のウムラウト付き文字は分解し a"=ae  u"=ue o"=oe と表記してます

日本語
ラテン語
英語
ドイツ語
フランス語
イタリア語
オランダ語
スペイン語
スウェーデン語

皇帝
女帝・皇后

Imperator

Emperor
Empress

Kaiser
Kaiserin

Empereur
Impe'ratrice

Imperatore
Imperatrice

Keizer
Keizerin

Emperador
Emperatriz

Kejsare
Kejsarinna


女王・王妃

Rex
Regina

King
Queen

Koenig
Koenigin

Roi
Reine

Re
Regina

Koning
Koningin

Rey
Reina

Kung
Drottning

オーストリア大公
女大公・大公妃

Archdux

Archduke
Archduchess

Erzherzog
Erzherzogin

Archiduc
Archi-
duchesse

Arciduca
Arciduchessa

Aartshertog
Aartshertogin

Archiduque
Archiduquesa

A"rkehertig
A"rkehertiginna

大公
女大公・大公妃

Magnus Dux

Grand Duke
Grand Duchess

Grossherzog
Grossherzogin

Grand-Duc
Grande-
Duchesse

Granduca
Granduchessa

Groothertog
Groothertogin

Gran Duque
Gran Duquesa

Storhertig
Storhertiginna

大公(東欧の)
女大公・大公妃

Grossfuerst
Grossfuerstin

Grande-prince
Grande-princesse

Grootvorst
Grootvorstin

Storfurste
Storfurstinna

選帝侯
選帝侯妃

Elector

Elector

Kurfuerst
Kurfuerstin

E'lecteur
Electrice

Elettore

Keurvorst

Elector

Kurfurste


女公・公妃

Dux

Duke
Duchess

Herzog
Herzogin

Duc
Duchesse

Duca
Duchessa

Hertog
Hertogin

Duque
Duquesa

Hertig
Hertiginna

王子・公子・侯子
王女・公女・侯女

Princeps

Prince
Princess

Prinz
Prinzessin

Prince
Princesse

Principe
Principessa

Prins
Prinses

Pri'ncipe
Princesa

Prins
Prinsessa

侯・小国の公
女侯・侯妃・公妃

Fuerst
Fuerstin

Vorst
Vorstin

Furste
Furstinna

帝国諸侯・諸侯
帝国諸侯妃

Sacri Romani Imperii Princeps

Imperial Prince
Imperial Princess

Reichsfuerst
Reichsfuerstin

Prince du Saint-Empire
Princesse du Saint-Empire

Principe del Sacro Romano Impero
Principessa del Sacro Romano Impero

 

 

 


女侯・侯妃

Marchio

Marquess
Marchioness

Marquis
Marquise

Marquis
Marquise

Marchese
Marchesa

Markies
Markiezin

Marque's
Marquesa

Markis
Markise

Markgraf
Markgraefin

Markgraaf
Markgravin

Markgreve
Markgrevinna

辺境伯
女辺境伯・辺境伯妃

Margrave
Margravine

Margrave

 

 

方伯
女方伯・方伯妃

land count , Landgrave
Landgravine

Landgraf
Landgraefin

Landgrave

 

 

 

 

宮中伯
宮中伯妃

Comes palatinus

Count Palatine

Pfalzgraf
Pfalzgraefin

Comte Palatin
Comtesse Palatin

Conte Palatino
Contessa Palatino

 

 

 

御猟場伯
御猟場伯妃

Forest Count

Wildgraf
Wildgraefin

 

 

 

 

 

ライン(ガウ)伯
ライン(ガウ)伯妃

Rhine Count

Rheingraf
Rheingraefin

 

 

 

 

 

城伯
女城伯・城伯妃

Comes castellum

City Count , Burgrave
Burgravine

Burggraf
Burggraefin

 

 

 

 

 

帝国伯
帝国女伯・帝国伯妃

Sacri Romani Imperii Comes

Imperial Count
Imperial Countess

Reichsgraf
Reichsgraefin

Comte du Saint-Empire
Comtesse du Saint-Empire

Conte del Sacro Romano Impero
Contessa del Sacro Romano Impero

 

 

 

伯(大陸の)
女伯・伯妃

Comes

Count
Countess

Graf
Graefin

Comte
Comtesse

Conte
Contessa

Graaf
Gravin

Conde
Condesa

Greve
Grevinna

伯(英国の)
女伯・伯妃

Comes

Earl
Countess

Graf
Graefin

Comte
Comtesse

Conte
Contessa

Graaf
Gravin

Conde
Condesa

Greve
Grevinna

副伯・子(爵)
女副伯・女子爵・子爵夫人

Vicecomes

Viscount
Viscountess

Vizegraf
Vizegraefin

Vicomte
Vicomtesse

Visconte
Viscontessa 

 

 

 

帝国男爵
女帝国男爵・帝国男爵夫人

 

Imperial Bron
Imperial Baroness

Reichsfreiherr
Reichsfreifrau
, Reichsfreiin

Baron du Saint-Empire
Baronnesse du Saint-Empire

Barone Imperiale
Barones Imperiale

 

 

 

男爵
女男爵・男爵夫人

(Liber)Baro

Baron
Baroness

Baron
Baronin ,
Baronesse

Baron
Baronnesse

Baron
Barones

Barone
Baronessa

Baro'n
Baronesa

Baron
Baronessa

Freiherr
Freifrau , Freiin

Friherre
Friherrinna

領主
女領主・領主夫人

Dominus
Domina

Lord
Lady

Herr
Herrin , Frau

Sire ,
Seigneur
Dame

Signore
Signora

 

 

 

准男爵
女准男爵・准男爵夫人

 

Baronet
Baronetess

 

 

Baronetto

 

 

 

帝国騎士・直属騎士


 

 

Reichsritter


Chevaliers
bannerets

 

 

 

 

騎士

 

Knight

Ritter

Chevalier

 

 

 

 

..............................

 

付記:
神聖ローマ帝国の「男爵(Freiherr)」は15世紀に登場した新称号です。
子爵の身分は神聖ローマ帝国・ドイツにはなく、外国の称号の訳語としてだけ存在します。
英語などの「Margrave、Landgrave、Burgrave」などの名称は、神聖ローマ帝国の称号の訳語として後世に作られたものです。

雑記

悩めるプリンス(なんちゅうタイトル…^^;)


「プリンス(ラテン語でPrinceps)」という称号は厄介です。
現在、アンドラ、モナコ、リヒテンシュタインの君主が「プリンス」を名乗り、これらの国々は「プリンスの国(Principality)」と呼ばれ、日本では「公国」と訳しています。

ところが、リヒテンシュタインの称号は自国語ドイツ語では侯爵(Fuerst=フュルスト)。同国政府発行の冊子(日本語版)にも『リヒテンシュタインは侯国で、君主は侯爵』と記されています。(注:私が見たのは1980年代発行の冊子で、国会図書館で見つけました)

となると、やっぱりプリンスは侯爵?
実際、ドイツ語のフュルストは侯・侯爵としか訳されませんし、フュルストはプリンスのドイツ語の対訳として導入された歴史があります。
けれど、モナコを侯国と書くとイメージがあまりに違いすぎてしまいます。
やっぱり、プリンスは公爵…?


それでは、もう一つ例を挙げてみます。
昔イタリアにあったマッサ=カラーラという国。マッサとカラーラという二つの国の連合体で、現在のマッサ=カラーラ県がその旧国土にあたるそうです。
この国の君主は、ですから二つの国の君主の肩書きを持っていました。そして両国の君主の称号は時代と共に変化しています。

こんな具合です。

   1467年 マッサ侯(Marchese di Massa)とカラーラ侯(Marchese di Carrara)
   1568年 マッサ公(Principe di Massa)とカラーラ侯(Marchese di Carrara)
   1663年 マッサ公(Duca di Massa)とカラーラ公(Principe di Carrara)

あらあら…。プリンスを「公」と訳すと、「マッサ公はマッサ公に昇格」になってしまいます。
けれどもプリンスを「侯」とすると、やっぱり「マッサ侯はマッサ侯に昇格」に。うーん困った。


……もしや、「プリンス」を最初に「王子」と訳しちゃったんで、君主の称号にもあることをうっかり忘れてしまったのでしょうかね…?

最初に書いたように、そもそも日本語の爵位の名称が不足しているのです。にもかかわらず、少ない用語で沢山の称号を説明しようとするから、どうしても無理が出てきてしまいます。
同じことは「侯」と「辺境伯」の関係にも見られますし、今となってはいかんともしがたいのかもしれません。

しかし、呼び名に困ったからといっても、「プリンス」の定義が不明確なのではありません。ただ、日本語で理解するためのうまい呼び名が見つかっていないというだけなのです。

では、「プリンス」とはいったいどんな地位だったのでしょう。

(続く)

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