ついに子連れでストーンズを見に行くことに。ビビリ屋の我が息子は、果たしてドームでのコンサートに耐えられるのか!

 前回、上のガキをストーンズのコンサートに連れて行くことになったと書きましたが、今回はその時の話です。

 連れていってやると話したその日から、もう奴の頭の中はストーンズで一色でした。
 ある日、ポーっと何かを考えている風だったので、「どうした?」ときくと、「あのさあ、ミック・ジャガー、僕が来たの、わかるかなあ?」ときたもんだ(笑)。
「わかるわけねえじゃん。お前、会ったことねえだろ?」
「うん、そうだけど……わかんないかなあ」
「だって、5万人くらい集まるんだぜ。もしミックがお前のこと知ってても、見えないよ」
「そうかあ……」
 一時が万事、この調子でした。
 保育園に行くと、保母さんから「○くん、お父さんとローリング・ストーンズ見に行くんですってね」と言われ、近所のお母さんからは「○くん、ミック・ジャガーに会ったらよろしく言っといて」と言われる有様。挙げ句の果てに、私の母に「おばあちゃん、ミックとキースはおばあちゃんと年が同じなんだよ」と電話までしていました。
 「そうだよ。ばあちゃん学校が同じだからよく一緒に遊んだよ」
 「ええっ!? じゃあ、会ったことあるの?」
 「毎日会ってたよ」
 いやあ、この年になるまで、母がダートフォード小学校出身だとは知りませんでした(笑)。

 「おとーさんストーンズのCD聞かせてくだしゃい」
 「東京ドームで“えにばでぃしんまいべいび(「Anybody Seen My Baby?」のことです)”やってくれるかな?」
 「ぶらうんしゅがーでは、いぇーいぇーいぇーふー!ってやるんだよね」
 この3つのせりふを毎日毎日聞かされました。
 そろそろ3月14日が近づいた頃、私の留守中に、家内に突然「お母さん、お金ちょうだい」と言い出したそうです。
「え? 何に使うの?」とたずねると、
「Hちゃん(バクチ好きのH君)とHくん(ブルース好きのH君)にジュースを買ってあげるんだ」とのこと。
 何てやさしい子だろう! え? 親馬鹿? そうかもね(笑)。

 ところが、うちのガキには大弱点があります。それは“大音響に弱い”という致命的なもので、カラオケボックスの音に耳をふさぐ始末(笑)。これがあのドームの反響付きの大音響にふれたらどうなることか……。
 そこで家内が一計を案じ、ガキ用のイヤー・ウィスパーを買ってきたのです。着用の練習を何度も繰り返しつつ、願わくばこれを使う羽目になりませんように……と祈ったものです(笑)。

 さあ、3月14日! 家内にホワイトデーのプレゼントを済ませた我々は、地下鉄を乗り継いで、一路水道橋へ向かいました。もう、奴は緊張しています。
「ミック、僕が来たのわかるかなあ……」と、すでに結論が出たはずのことを繰り返しています。
 ドームの外の売店で、ベロマークのキーホルダーを買い与え、家内用にTシャツを買った我々は、いよいよドーム内へ。

 ドームがあんまり広いのに、ガキも少々驚いている様子です。
「おとーさん、ストーンズはどこに出てくるの?」
「あそこだよ、あそこ。あれがステージなんだよ」ステージを指差すと、
「ステージって何?」
 ……そうか、こいつステージって言葉を知らないんだ。
「ステージってさ、ストーンズが出てきて、歌ったりギターを弾いたりするところだよ」
「あれのどこでやるの?」どうも、あの物体こそステージであるという考えがないようです。多分、今まで見てきた劇場型のステージとの違いが理解できないのでしょう。
「あの真ん中に白いところがあるじゃん。あそこに出てくるんだよ」
「ふう〜ん」全く分かっていない様子です。
 そうこうする内にH君×2が来場。久々に会う二人に緊張し、「こんにちは」と言うのが精一杯です。
「えにばでぃしんまいべいび、やってくれるかなあ」 「こないだはやんなかったよ」と私。 「ハハハァ、どうかなあ? どっちでもいいけど、俺は」とH君(バクチ)。 「やるといいね」H君(ブルースと女)。
「やらないかもしんないけど、ガッカリすんなよ。ブラウン・シュガーだってやるしさ」とフォローするも、ガキは納得が行かない様子。

 客電が落ちました!
 できればゆっくり座って見たかったのですが、前の席の連中が波が立つように立ち上がり、結局あっという間に総立ちに。ガキは「見えない! 見えない!」と言いながら、両腕を差し出しています。
 そうか……結局だっこする羽目になるのか……。覚悟を決めた私は、すでに17キロになっていた我が息子を、右腕で抱き上げました。……重い!
 ごうわああああんという音とともに開くカーテン。
 姿を現したスクリーンには、混沌とした映像が映し出されています。
「か、怪獣が来る……」思わず脱力しそうになりました。
「大丈夫だよ。こないだもああいうので始まったけど、怪獣来なかったから」
「ほんとう?」
 ああ、ストーンズのライブ会場で交わされる会話とはとても思えない(笑)。
 ビビリ屋の我が息子は、「おうあ〜〜」の奇声でビクン。光が迫ってくる映像でブルブル、花火のドカンでビクン。何なんだ、こいつ。ここまで臆病だとは思わなかった。

 それでも、キースがステージに登場すると、
「あっ! キース・リチャーズだ!」
 「Satisfaction」が始まると、よく知っている曲だけに、だんだんと体を揺するようになりました。でも、これがまた腕の負担になって、つらいんだ……。
 しかも、ちょうどこの頃、例のポケモン癲癇さわぎがあったので、マグネシウムがバシバシ焚かれるところでは、左手でガキの目の上にひさしを作らねばならず、動くガキを右腕一本で支えるのですから、エライきついものがありました。

 曲は『Bridges To Babylon』収録の「Flip The Switch」に。この曲はガキのフェイバレットで、もう毎日耳にタコができるくらい歌うもので、さぞかし喜ぶと思ったら、表情を曇らせています。
「どうした? お前、これ好きじゃんか」ときくと、
「何でキースはCDと違うふうにギターを弾くんだろう。ミック、ガッカリしてないかなあ?」と、口を尖らせています。
 ストーンズに限らずみんなそうだと思うのですが、よくレコードとライブでアレンジが違ったり、微妙にラインを変えたりすることはよくあるじゃないですか。このツアーでのキースは「Flip The Switch」のイントロを確かにCDとは変えているのですが、それが我が子には気に入らなかったようです。(後日、K君にその話をしたら、爆笑した上で、「でもホントそうかもしれないよ。“俺が考えたリフを勝手に変えるなよ”って思ってるかもしれないじゃん」だそうです)

 ドームにベースのイントロが流れます。
 ガキの好きな「Anybody Seen My Baby?」が演奏されました!
 ポカ〜ンとして聞き入る我が息子。
 曲が終わると、一言。「僕が来たから、えにばでぃしんまいべいび、やってくれたのかなあ?」
 さすがに「そんなわけねえだろ」とも言えず、
「きっとそうだよ!」と答える私。いつか大きくなった時、この話を蒸し返して笑ってやろう(笑)。

 しかし、調子のよかったのはここまで。途中でついにイヤー・ウィスパーを着用し、大音響に耐えていた奴も、「Miss You」の時に「つかれた。おろして」と言い出しました。
 まあ、無理に見せてもしょうがねえ。席に座らせてやりました。正直言って、俺も腕が痛かったし(笑)。
 しかし、そうなると何も見えないので、つまらなそうにしています。時々、私にちょっかいを出して、イヤー・ウィスパーを付け直させたりします。しかもいい時に限って。
 ガキの表情は曲が進むごとに曇っていき、ついに「来なきゃよかった」とぬかしました。
 さすがの私もこれにはブチ切れ、パカーンと頭を引っぱたくと、「じゃあ、帰れ!」と怒鳴りつけてしまいました。ああ、大人げない父を許してくれ。でも、今はストーンズの演奏中なんだ。
 ブルース好きの方のH君が気を使い、ガキの頭をなでたりしてくれます。

 あっ! 大事なことを書くのを忘れていた! 実はそのH君、今回のツアーで「Tumbling Dice」が演奏されるたび、眼鏡を外してハンカチで目をぬぐっていました。私もこの曲ではグッと来る方なのですが、さすがに今回のツアーでは感涙にむせぶことができませんでした。ガキも私をつっついて、「H君、どうしたの?」と聞いてきます。返答しようがないじゃん(笑)。
 あっ、ちなみに「Tumbling Dice」ったって、コムロの彼女の曲じゃないよ! 本家本元の「Tumbling Dice」! 何でこういう印象的なタイトルを平気でパクるのか、理解に苦しみます。日本の曲って、こんなのばっかりですよ。タイトルをまんま使うのは当たり前。タイトルが違うと思ったら歌詞、でなかったら曲、よくてアレンジと、パクリまくりです。こんなんで、自国の音楽文化を誇る気になれるわけがないじゃありませんか。

 ガキのあまりの落ち込みぶりに、もはや途中退場も辞さないと思っていたのですが、意外にも奴は復活しました。
 センターステージに移るための橋がかかりはじめた時です。演奏中でないにもかかわらず、まわりが歓声を送っているのが気になったようです。
「ねえ、どうしたの? どうしたの?」私のシャツのすそを引っ張りながらきいてきます。
「ん? 橋が出てきて、真ん中のちっちゃいステージのところにかかってるんだよ」
「見せて! 見せて!」
 ……腕も回復してきたことだし、まあいいか。
 抱き上げると、まさに橋は真ん中に差し掛かるところ。
「あれなに? あれなに?」
「橋だよ。あれが真ん中のちっちゃいステージにくっつくから、見ててごらん」
 ぷひゅーん、とかいって、橋がかかりました。
 軽快なブラスのBGMに乗って、ストーンズのメンツがセンターステージへ。
「すごい。近くなったね」双眼鏡を覗きながら、ガキは興奮気味です。でも、こうやって両手を離されると、支える方としてはつらいものがあります。

 その後は奴もすっかり調子を取り戻し、遠慮気味ですがノッて体を動かすようになりました。
 オーラスの「Brown Sugar」でも、蚊の鳴くような声で「いえー、いえー、いえー、ふー」と言っています。まあ、いいだろう。
「ばいばーい!」ストーンズに挨拶するガキ。「次はいつ来るのかなあ?」
「どうかな。3年くらいしたらまた来るんじゃない?」
「ぼく、その時何歳?」
「7歳。もう小学生だよ」
「ええっ!?」何をそんなに驚いているんだ、こいつは(笑)。

 人の波にもまれて外へ出ると、当然真っ暗。H君×2に付き合ってもらい、自動販売機でガキがジュースをおごりました。というより、おごらせてもらいました。
 何とバクチのH君は翌日の朝5時おきで釣りに行くと言っています。何てタフな奴だ……。ブルース好きのH君は、後楽園の本屋でストーンズ書籍を漁るとのこと。恒例の飲みも、今回はナシ。もっとも、ガキを連れて一晩中飲むのもムリだし(笑)。
 どの道、私はもうヘトヘトのヘトでした。これから電車で帰る体力はもうありません。約7,000円の出費を覚悟し、タクシーを使うことにしました。
 とりあえず水道橋の駅前まで歩き、タクシーを拾おうとしても、なかなか拾えません。それもそのはず、ずいぶん先の道で、若い奴らが片っ端からタクシーを拾っているではありませんか。
 畜生、いい若いもんがタクシーなんか乗りやがって! とにかく奴らよりも先に行かないと、タクシーは拾えません。ガキをせかして奴らの向こうに小走りに移動しました。
 それでも、次から次へと我々の前に人が現れ、タクシーを拾ってしまいます。その先へ、その先へと移動すると、駅から軽く200メートルは離れる羽目になりました。

 ここで、ちょっといい話(笑)。
 タクシーが数台やって来て、「やっと乗れる……」と安堵しかけたその時、3人の外人さんが目の前に現われ、手を振りはじめました。
 てめえ! この鬼畜米英! お前らはマナーってものを知らねえのか! なんてことはおくびにも出さず(いや、出せず)、ガキに「もう少し待つか……」と言った瞬間、外人さんのひとりが我々に気付き、一番元気に手を振っている仲間を制止して、こう言ったのです。
「He takes a little kid. So we must ride next car.」だいたいこんなようなことでした。
 おお、何ていい奴だ(笑)。
「Thank you!」私の話せる数少ない英語で礼を言い、我々はタクシーに乗ることができました。
 タクシーの中で、ガキはあっという間に眠りにつき、家の前で金を払い終わるまで爆睡していました。
 運転手さんに「今日は何があったんですか?」ときかれたので、「ローリング・ストーンズのコンサートです」と言うと、「どこで?」と来たもんだ。この水道橋界隈で、こんな人数を収容できる会場が、ドーム以外のどこにあるんだよ!
 ああ、やはりストーンズは“誰でも知っているバンド”ではないんだと実感しましたわ。

 翌日、家内が「またストーンズ見に行きたい?」と聞くと、
「う〜ん、もういいや」だって(笑)。クッソ〜!

この日の曲目はこちら

戻る 次へ
PowerBook日記どこでもドア奇譚