さて、私にとって満足のいかなかった初来日の後、私の身辺は急速に変化していきました。
仕事も少しずつ忙しくなり、まがりなりにも食っていく算段がついてきました。その一方で現夫人(笑)と知り合い、女性ファンの涙の中(嘘)93年に結婚、同年には長男が産まれました。
自堕落でぐうたらで、気弱なくせに生意気で、熱しやすく冷めやすい私も、不思議なことに何とか家庭を持ってやっていけるようになっていました。
「働くことそのもの」に向いていない私も、何とか世間的にはイッチョ前になってきたわけです。
しかし、結局しょせんはストーンズおたく。94年を境に、また“あの道”を歩き出すことになります。いや、ストーンズはずっと聴いていたんだけどね。
初来日の頃には会社にストーンズ・ファンなんか1人もいなかったのに、どういうわけか、後輩に続々と洋楽ファンが入り始めました。
ソウル好きでシャイな露出狂・K君(「2. ストーンズは来日しない?」で「tadaさん、おたくですね」と言った奴)や、酒と女とストーンズとブルースをこよなく愛するH君、酒とバクチとスポーツと洋楽に溺れるH君、内に熱い闘志を秘める冷たい人間S君……ほかにもまだまだいます。よく集まったというくらい、洋楽好きの後輩が揃ってきました。
そうこうする内に「洋楽カラオケ大会」なんてものが恒例開催されるようになります。洋楽ばかり4時間以上も歌い倒すという、レッド・ツェッペリンも真っ青の狂気の祭典です。
一方、ストーンズの方も重大な変化がありました。
1963年から30年にわたってストーンズの低音部を支えてきたベーシスト、ビル・ワイマンが、レコードデビューからちょうど30年目の1993年、突然ストーンズを脱退したのです。
メンバーのたび重なる説得にもかかわらず、ビルは脱退の意向を変えませんでした。
音楽的な野心が高いビルは、ストーンズの長い活動の中で、自分の書いた曲がたった1曲しか採用されなかったことに、強い不満があったようです。
ほかにも、「Jumpin' Jack Flash」のリフは彼が考えたにもかかわらず、クレジットは“ジャガー/リチャーズ”のみだった(真偽のほどは不明)とか、スタジオにいったらキースがベースを弾いてレコーディングが済んでいたとか、ミックやキースばかり金の都合を受けて自分は後回しにされたとか、自伝「ストーン・アローン」に綿々と書き綴ってあることからもわかりますが、グループへの不満は相当なものだったようです。これが本当だったら、ひどい奴らだよな、ストーンズって。いや、ミックとキースって(笑)。
ファンク的なベースは苦手だったものの、ロックンロールでは味のあるラインをバシバシ弾いていただけに、脱退は非常に残念でした。
果たして、ビル抜きでストーンズの音楽が成立するのだろうか……。こんな不安も当然のようにありました。
その後、マイルス・デイビスのバックなどで活躍していた、ダリル・ジョーンズというベーシストを準メンバーとして迎え、ニューアルバムのレコーディングに入ったというニュースが報じられたのです。
私はジャズを聴かないのでよくわからないのですが、もちろん、マイルスがものすごい人だということくらいは知っています。ジャズの奴なんか入れて大丈夫かよ、と思う反面、マイルスが使ったほどの奴なら……と、期待と不安が相乱れました。
さあ! お待ちかね! 94年、ストーンズのニューアルバム「Voodoo Lounge」が発売されました。
さっき言った“94年”というのは、そういうことなのです。80年代に入ってから、ストーンズのアルバムは数年に1枚ですから、待ちに待ったアルバムです。
前作のことがあるので、このアルバムがよい出来かどうか、凄く不安でした。しかも、よく知らないながらもダリル・ジョーンズへの不安もありました。
発売日前日に速攻で買うとまっすぐ帰宅し、すぐにCDプレイヤーにブチ込みました!
……
ダガダガダッダ♪デレレーン
OK! もうOK! 最高!(笑) 1曲目の「Love Is Strong」のイントロで、もうわかりました。新参者・ダリルもなかなかいい味です。もっとも、やはりベーシストが変わるとサウンド全体が変わるなぁというのは正直なところですが、それでもストーンズはストーンズの音を出しまくっていました。
この「Voodoo Lounge」は、一般的には「1曲1曲はいいのだが、まとまりがない」として評価の低いアルバムです。でも、私としてはあまり「アルバムのコンセプト」とかいうものに、楽曲の質ほどの意味を感じていないので、まったく問題なしです。逆にまとまりのない方が楽しんで聴けるような気がします。ベスト盤とか好きだし。
恒例のワールド・ツアーも、「Voodoo Lounge World Tour」としてスタート。記者会見では(確かロン・ウッドが)「来年春には日本にもまた行く」と言っています。
よっしゃ! よくよく考えりゃ、もう初来日から5年もたっています。私は喜び勇んで情報集めを始めました。しかし…… 今回は情報の集まりが悪いのです。友人関係も、この年になると集まってストーンズを聴いたりする機会も減るようで、情報の流れが悪いのです。コネ関係も今イチです。後輩のH君(酒と女とブルースを愛する方)からの情報が一番鮮度が高く、しかも価値のある情報でした。
けっこう漫然と日々が過ぎていきます。そのくせ焦りばかりがつのっていきます。まだ長男も1歳になる前なので、日々の生活もけっこう大変(家内は怒るかもしれませんが)でしたから、時間が鬼のように早く、そのくせゆっくりと(わかるかなぁ、この感じ)過ぎていきます。
ボケボケと過ごしている内に、突然情報が入りました。日付はちょっと覚えていないのですが、チケットの発売日その他の情報です。
苦労の割にろくな席が取れなかった初来日時の反省から、今回はコネを全面活用する作戦で行きました。そりゃもう、思いつく限りのコネを使いましたよ。とにかく取れるだけ取りまくって、余ったら売るなり譲るなりしようという作戦です。
それが……いわゆる業界筋のコネだとろくなチケットがとれないのです。ひどい場合は2階席になる始末。そんな……天下の○○○や△△△が、何でこんな席しか取れねえんだよ! な〜んてことはおくびにも出さず、丁重にお礼を言う私。
2回目の来日ともなるとちょっとぜいたくになってきており、「一度はアリーナでみたい」という気持ちが押さえ切れないのです。う〜ん、どうしよう。
いや、しかし、アレですね。朗報は思わぬ方からやってくるものです。後輩のH君(バクチ好きの方)が、あっけなくこういったのです。
「ハハハァ(乾いた笑い)、tadaさん、アリーナ取れましたよ。最前。ハハハァ」
へえ、取れたんだ。よかった……って何!? アリーナ最前? ホ、ホントかよ!
「ええ。あのですねえ、俺の親戚に○○で××やってるのがいて、けっこうあっけなく取れるんですよ。実は初来日の時も、俺最前のど真ん中で見たんです。ハハハァ」
う、うわあ。え? ホントにいいの? これ。
思わず「H、一生感謝するよ」と言いました。もちろん、今も感謝しています。
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チケット獲得に泣いた皆さん、許してくれ。俺はストーンズをできるだけ前で見るためには、少々汚い手だって使うんだ。「ちょっとストーンズでも見たいから」程度でコネを使ったわけじゃない。まあ、このサイトを見りゃわかるとは思うけど。
私は、せっかく最前で見られるんだから、何かスタンドでは絶対にできないことをやりたいと考えました。
そこで! 「キースにプレゼントをしよう!」と決めました。おい、そこ! 笑うなよ! 人が真面目に考えてんのに!
以前に読んだ雑誌で、キースが使っているギターの弦が「アーニーボール」の「レギュラー・スリンキー」であると書いてあったことを思い出した私は、「俺が弦をあげれば、それを使って弾いてくれるかも知れない!」というアイデアに行き当たりました。
とにかく3月6日の初日、足取りも軽くドームに向かいました。
パンフを買い、おトイレを済ませた後、客席へ。
前回よりも「ものめずらしさ」で来ている客は減っているように見えましたが、年齢層の幅広さは相変わらずです。若造に混じって、どうみても「その辺のオバチャン」という感じの人が連れ立って見に来ています。
そりゃそうだよな。ミックもキースもお袋とタメだし。ファンだってオバチャンがいてもおかしくないんだよ。それにしてもオバチャンたち、本当に楽しそうだな。キャベツ刻んだりとか、子供に「宿題しなさい!」って言ったりとか、ダンナの上着のポケットからピンサロのマッチが出てきて怒ったりとかしながらも、ストーンズのこと考えているんだよな。凄いことだぜ、これは。
BGMは、前回よりも新しめの音が減り、マディ・ウォーターズなどのブルースが増えていたと記憶しています。
今度のストーンズはどうなんだろう? 前回はまいったからなぁ……もしもあんなだったら、どうしよう。でも、アルバムはスゲエよかったからなぁ。期待できるような……いや、期待しすぎてガッカリすんのもいやだし……とこのような、揺れる乙女心のような心境で待っていたわけでございます。
しかし、今回もステージがバカデカイ。もうこのバカデカイステージそのものが、ストーンズの芸のひとつになってきた気がする。前回の時も気になったんだけど、このステージ、ツアーが終わったらどうしてるんだろう? だって、ちょっと手を加えれば人が住めるような建造物だもんねえ、ホント。容積的には下手なマンションよりもでかいんだから。
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これがそのステージ(のおおざっぱな図)! もっとうまく描けるよう、精進します。押忍。 |
客電が落ち、打ち込みっぽいブードゥー・ドラムの音が鳴り響きます。「ストッコトントン」と「ボンボンボンボコ」と「ドダッドダン」が同時に鳴るリズムです。時折、ボンゴやら何やらの連打が入ります。
だんだん、リズムの形が整ってきます。混沌としていたリズムが、「ダンッダンッダンッッダンダンッ」というリズムに収れんするような形です。すると……
「ダンッダンッダンッッダンダンッ」。生ドラムの音がシンクロします。場内が「うぉおおおおおおおお!」という歓声で満ちあふれます。
ミックだ! スーッと出てきた! そして、いきなり歌った! 「♪ I wanna tell you how it's gonna be〜」
ここでバンドが一斉に演奏を始めた! 出だしでミックのボーカルがシャープしていたことに気づくが、ストーンズでは大した問題ではない。
ツアー用のバンドの人数を減らしているので、音は全体にシンプルで、激しい。
おお! カッコイイ! 初来日の時とはエライ違いだ。うん! 今回は凄くいい!
そしてTumbling Dice。ああ、何でこの曲は心の琴線に触れまくるのだろう。美しくも下品で、はかなくもエネルギッシュな曲です。え? 何言ってるかわかんない? 聴きゃわかるよ、聴きゃあ。
ミックお得意の日本語MCも爆発! 「Voodoo Loungeへ、よぉこっそお……またこれてうれしい」
「りーくぇすとぉ、あ〜る〜?」(ちなみに、この後は必ず「I Go Wild」でした。だったら思わせぶりにきくんじゃねえよ)
「つっぎは、すろ〜でぇ、いくぜ」
ああ、とにかくよかった! これぞストーンズ! まったく、何て凄いバンドなんだろう。もう50過ぎだってのに。
しかし、私はこの初日の後どうしたか、思い出せません。どうしたんだっけな……。まあ、飲んだとしても特筆すべきことはなかったんだろうな。
次は9日。この日は高校時代に参加したバンドのドラマー夫妻と見に行きました。こいつは私のサソリ固めに1分半耐えた後、跳ね返すほどの脚力の持ち主です。関係ないけど。
もう何回見ても演奏はいいはずだと思った私は、この日くらいはちょっと落ち着いてみようと決め、キース、ロニー、そしてミックの使用したギターを曲目別にメモしました。ところどころ興奮してメモを忘れましたが、まあ、その辺はご勘弁を。
演奏はもちろん最高。それ以外で印象に残っていたのが、「Let It Bleed」の途中でアコースティックギターを抱えたミックが歩き出したらシールド(ギターとアンプをつなぐ電線です)が断線したらしく、「ブビ〜〜〜〜」とノイズが出て、ミックがむっとしたこと。そして、公演がはねた後に3人で行った喫茶店で、友人の奥さんの方が「ミックの英語は聞き取りやすくて、ほとんど何を言っていたのかがわかった」と言ったこと(おお、英語がわかる妻か!)でした。
なお、我が後輩、女好きの方のH君は公演のある日には必ずドームに出向き、ダフ屋からチケットを買うか、ドームの外で漏れ聞こえてくる音を聴くか、という日々だったようです。恐ろしい奴だ。
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購入したのは、やはりアーニーボールのレギュラー・スリンキーという弦です。これを5セット買い、テープ止めしてからリボンをつけ、キースから目立つようにしようと思いました。
しかし、よく考えたらリボンなんて代物は買ったことがありません。
会社の女性社員に相談し、新宿の「おかだや」(文字表記失念)に行って、銀鼠色と言うんでしょうか、グレーがかった光沢のある緑のリボンを購入しました。
まず、前回までで、キースが公演中にどう動くのかがだいたい把握できました。
最大のチャンスは、アンコール前の「Brown Sugar」の時、ステージ向かって左の通路にやって来る瞬間です。その時に、意地でもキースの前にプレゼントを差し出そうと決めました。
当日、一緒に行くメンツ(K君、女好きのH君、バクチ好きのH君、汗かきの小心者T君)は既に出来上がった状態で、メンバーに見せるプラカードを作るだけで昼休みが潰れる始末。そりゃあそうだよな。自分とストーンズの間に他の観客がいないなんて夢みたいなことだもん。
私は、奴らの前にプレゼントの包みを出し、「これ、Brown Sugarの時キースにあげるんだ」と宣言しました。しかし、みな「うまく行くといいですね」「俺も何か買おうかなあ」と口々に言う中、K君ひとりが、「こんなの届くわけないじゃん」と冷めた口調でつぶやいたのです。
「届くに決まってんだろ!」
「だってさあ、客席とステージの隙間ってけっこうあるし、そおんなキースが来るところにちょうどよく投げられないって。みんな、冷静になれよ」
「てめえ、見てろよ。絶対に渡してやるからな」
ドームが近づくにつれて、だんだん緊張してきました。これから起こることは、現実なんだろうか。いざ席に行ったらダブルブッキングで、結局違う席に……なんてことにならないだろうか。日にち、間違えてないだろうか。いざという時に下痢したりしないだろうか……。
まだまだ冬だってのに冷や汗までかく始末です。
ドームには、いつもと違うゲートから入場しました。どうも、チケットが本物なのは間違いないらしい。いつもスタンドに入る時とはちょっと違うゲートから。
スタンドの階段をズ〜〜〜〜ッと降りていきます。
……ついに、ここまでたどり着いた……。初めてアリーナに降り立つことができたのです。下から見上げた客席はもの凄い人数で溢れ返っています。おお、何か優越感がわいて来るなあ。心なしか、スタンドの連中がジェラシーのこもった視線で俺を見ているような気がする。
はっはっは。悪いな、君たち。俺、アリーナ席っていうだけじゃなくて、最前なんだ(笑)。まあ、10年以上ファンなんだからさ、許してくれよ。
ところが、Aブロックの3列の1番って……え? これ、確かに最前列だけど……一番左端ってことは……まあ、下の図を見てください。最前ったって、ドームの場合、下手をすりゃ中野サンプラザの最後列よりも遠いことがあるわけです(笑)。
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それでも最前は最前だ! |
やはり最前は最前。私とストーンズの間にあるのはフェンスと空間だけ。邪魔くさいスタッフはいるものの、まあ、しょせんはストーンズで甘い汁を吸うことを考えているような連中ばかり。気にすることはねえですから。でなきゃ、あんな表情であんな視線を観客に向けやしないだろう。
ああ、凄いなあ。長年ファンをやっていて、こんな日が来るなんて。「来日不可能」とまで言われたストーンズが、2度目の来日。しかも、アリーナ最前。これで運をぜんぶ使い果たしちゃうんじゃないだろうか。
いつものように「Not Fade Away」から東京最終日が始まりました。とにかく今回のストーンズは凄い。圧倒的な存在感で、圧倒的な音の“威力”があります。それでいて遠い異国のファンが熱狂するのに感謝するようなかわいいところもあって、本当に良かった。
そして! やはりミックやロニーが時々通路の方までやって来るのです! ほんの3〜4メートル先に、モノホンのストーンズがいるのです。あんた、これが興奮せずにいられますか! 言ってみりゃ彼らは私の神様みたいなもんなんだから。フェンスによじのぼって涙をボロボロ流しながら叫びましたよ。
でも、よく考えたら、変な東洋人が涙を流しながら「ミ〜〜〜〜〜ック!」とか絶叫してたら、気持ち悪いよね(笑)。
そんな俺たちがフェンスによじ登るたびに、警備の奴らは「降りてくださあい」とか言いやがんの。何て無粋な奴らだろう。
面白かったのは、ミックの「り〜くえすとぉ〜、あ〜る〜?」の時でした。我々は何度か来ていたので「ああ、『I Go Wild』か」とわかりましたが、この日しか来ないT君は本気でリクエストができると思い込み、叫びました。
「友を待つ〜!」
おい、気持ちはわかるが、そりゃ邦題で、日本語だよ(笑)。ストーンズは邦題なんか知らないって(笑)。
次はちょっといい話を。
何やら、ミックが英語でMCをやっています。どうも、この日が東京最終日だから特別にこの曲をやる、みたいなことをいっているようです。
エレピを持ち出して、ミックがちょこんと座りました。そして始まったのは、「Memory Motel」!
このところストーンズのバラードで傑作と言えるのは、ほとんどキースがボーカルを取った曲です。どうも「Angie」以降、ミックの歌うバラードは小手先の節回しばかり使った甘ったるい曲ばかりで、好きになれませんでした。
でもこの曲は違う! 何てことのない、過去の女性の思い出についての歌詞です。延々と循環コードに乗せて単純なメロディーが続きます。でも、いいんだ! この曲は!
ああ、何て言ったらいいんだろう。ストーンズの良さを言葉で伝えようとしても、必ず言葉につまるんだ! 変な観念の入り込む余地のない音楽だからなあ。とにかく、迷わず聴けよ!聴けばわかるさ!というところでしょうか。
そして、ついにアンコール前の最終曲「Brown Sugar」に突入! 正直言って、気が気じゃありませんでした。キースが今日に限ってこっちの通路に来なかったらどうしよう(実際、キースはあまりこちらの通路には来なかったのです)。うまく投げられるだろうか。うまく投げてもシカトされたら、馬鹿みてえじゃん。警備員の奴らに見つからないように、サッと出してすぐに投げなきゃ。
おお、そうこうしている間に「Yeah, Year, Yeah, HOO!」のところが終わっちゃった(一応、一緒に歌い、HOO!でジャンプしました)。あ、あ、あっ! キースだ! こっちに来る!
キースは5弦ギターを抱え、ニコニコと笑いながら弾いています。のっしのっしという感じで歩いています。
よっしゃ! 今だ!
私の投げたプレゼントの行方を、仲間の連中はみんなで見つめていました。
銀鼠色のリボンがひらひらと揺れているのが、妙に長く感じられます。ギター弦の入ったビニールのケースがクルクルと回転する様子まで、よく見えます。
ストン、あるいはドスン!という感じで、ギター弦は張り出し通路に落ちました。全力投球だったので、勢いのついたギター弦は、跳ねながら勢いよく転がっていきます。
おお! いいぞいいぞ! ちょうどキースの目の前に転がっていく!
キースは私の投げたギター弦に気づくと、やや右に体を傾け、絶妙なタイミングではっしとつかんだのです!
うおおおおおおおおおお! やったあああああああ!
フェンスをよじ登った私は、またしても涙目で両拳を天に突き上げ、「キ〜〜〜〜〜ス!」と思わず叫んでいました。。仲間連中も、えらい喜んでいます。さすがのスタッフも、降りてくださいとか言える雰囲気じゃなかったのか、何も言われませんでした。

おお、その間にキースは目の前に! 通路終端の何かの出っ張りの上にギター弦を置くと、ギターをかき鳴らし始めました。我々は全員フェンスによじ登り、キースに1センチでも近づこうと、手をさしのべました。
今思い起こすと、その時のキースはジャンジャカジャンジャカとコードを弾いていただけなんですよね。それでも観客を興奮させるんです。もう、テクニックだの何だのという次元を遙かに超越しているわ。変なわけのわかんねえ57連譜とかをムキになって弾いてる奴が、メチャメチャうまいギターソロを弾くよりも、キースがコードをジャラ〜ンと鳴らせば、そっちの方が凄いんだから。
ひとしきり気分良く弾いたキースは、律儀にもギター弦を再度拾い上げると、またものっしのっしと元来た道を引き返していきました。
アンコールの「Jumpin' Jack Flash」が大興奮のうちに終わり、またも今まで知らなかった通路から、ドームを出ました。
H君(バクチ)の「tadaさん、飲みたいでしょ、ハハハァ(乾いた笑い)。お祝いと行きますか、ハハハァ」の声に呼応して、飲み屋を探します。
水道橋なんて大して広くもない街に、イキナリ5万人があふれ出すんですから、どこも満員。それでも、みんな収まりがつかずにウロウロと店を探します。
この時、ある飲み屋とのつきあい(?)が始まりました。
別に、ちょっと汚いだけで、まずいわけでも高いわけでもないのに、いつも必ず席があいているんです。不思議なことに、いつも時間がえらい経ってから混んでくるので、評判が悪いってわけでもなさそうです。これ読んだ人が評判を広めて、みんな入れると思って集まっちゃうといやなので、あえて店名は伏せますが。
その後もドームで何かあるたびに、そこに寄るようになりました。
「友を待つ〜!」のT君曰く、「tadaさ〜ん、良かったよねえ。でもさ、でもさ、よく考えたら俺もあの弦さわったんだよね! 俺がさわったものをさあ、キースが持ってると思うと嬉しくてさあ」
すると、「届くわけないじゃん」と言ったK君が、頭を抱えて「ああ〜〜〜! 失敗したあっ!」と叫びました。「どうせ届くわけないと思って、さわんなかったんだよなぁ。あああああああ」
「まあ、俺はさわったけどね」とえばるT君。2人のH君も「俺もさわった」「Kさんさわんなかったの? そりゃいかんなあ!」と追い打ち。K君は意気消沈しています。その後もしばらくはこの話をすると意気消沈していました。
店員のおばちゃんに、「肉じゃがある?」ときくと、「ないです」との答え(ちなみに今はある)。で、「ええっ!? ないの? おばちゃん、ミック・ジャガーって知ってる?」と言ったら、そのおばちゃん、見向きもしないで皿をさげながら「ハイハイ」だって。そうだよね。世間様は俺とは関係なく動いてんだよね。キースにプレゼント渡したくらいで世界征服でもしたような気になった私が悪うございました。
結局電車はなくなり、最後に残った私と2人のH君は、ストーンズナンバーを大声で歌いながら時折走ったりしつつ、お茶の水の向こう側まで徒歩で行き、朝まで洋楽のカラオケを歌いまくりました。
これが私の結婚後、初の朝帰りでした(苦笑)。なお、私が贈った弦(1弦が「.010」のセット)をキースが使っていたのは数年前までの話で、当時すでに特注の「.011」というぶっといセットに変わってたそうです。たぶん、あの弦は誰かにあげちゃったんだろうなあ……






