私とあなたとストーンズ私とストーンズ > 第36話
やばい。やばいッス。ローリング・ストーンズがまたヨーロッパを回り始めてしまいました。前年の渡英で「これでもう海外に見に行くことはないな」と思っていたのですが、ふとしたきっかけで、三度目の渡英へ。
 いつだったかなあ、ストーンズのヨーロッパ2巡目が噂に上ったのは。
 もちろん、すぐに「来日はなさそうだし、行きたい」と思いましたよ。
 しかし、しかしですね、私も家族を抱える身です。いくら何でも2003年と2006年に3回も海外に行かせてもらっておいて、また行かせてくれとは言い出せませんでしたよ、さすがに。共働きなので、金があれば行ってこられる、という家庭環境ではありません。
 言わば自主規制的に「もう海外に見に行くのはやめよう」と、一応は決意していました。

 ところが、rollingstones.comからは容赦なく「3月22日にプレス発表があるよーん」とメールが。しかも、それがリアルタイムでネット配信されるっつうんですよ。日本時間深夜1時に。
 うう、行きたい。でも、行くべきじゃないんだろうなあ……

 行こうが行くまいが、とにかくリアルタイムでストーンズが何かを配信するってんだから、そりゃ見ないといけません。でも深夜1時からとなると、翌日仕事なのに夜更かしするわけにはいきません。一度寝ないと。
 というわけで、妻に「今日の夜中1時にストーンズのツアー発表があるから、一回早めに寝る」と何の気なしに言ったところ、

「あ、またやるんだ。行ってきたら?」と思わぬ事を口にするではありませんか!

 俺としては「発表を見たいから、一度寝る」ことだけを言いたかった。これ掛け値なしに本当です。
 そこに「行ってきたら?」という想定もしていない反応ですよ。すっかり動転しました。

「え? えええ? 行っていいの?
「いいよー」

 な、何と太っ腹な妻だろう!
 ……ストーンズに関してはあきらめてるだけなのかも知れないけど。

ミック記者会見
リアルタイムで世界中の記者の質問に答えるミック
 でも、そうかあ……行っていいのかぁ。
 当然、深夜のプレス発表を見る目にも力が入りましたよ。目から血が出そうな勢いで見ました。何を言っているかは全体の1%くらいしか理解できませんでしたが。

 そしてチケット発売前日の3月28日、夕食前の家族会議で承認が下り、晴れてロンドンに行ける身となりました。
 例によって友人達と連携をしまくり、チケットを確保!
 今回の遠征布陣はKちゃん、Mちゃん、Fちゃん、H君と私の5人編成。Hちゃんは家庭の事情、S氏はいろいろで不参加となりました。
 T氏は直前まで迷っていましたが、ちょっとキースに聞かせたらハッ倒されそうな理由で不参加でした。武士の情けで理由は書かないでおいてあげよう。

 今回も「2週間前までに届けるからさ。それまで問い合わせ、すんなよ。もし1週間前までに届かなかったら連絡してねー」とメールに書いてあったので、とくに苦情メールのやり取りもなし。
 ただし、追加公演が25日にあるという噂(実際には26日に)があったので、それも行くとなると、1週間前じゃとても間に合いません。場合によってはまたしても苦情メールを応酬してやる。いまだに英語は苦手だけど、苦情メールだけなら得意中の得意だぞ。なめんじゃねえぞコラ。

 26日に同じO2アリーナでの追加公演が発表されるや否や発売され、大急ぎで連絡を取り合って押さえるというすったもんだもありましたが、何とか全員のチケットが確保できました。
 が、Kちゃんが家庭事情で一度渡英を断念。その後事態の好転で行けることにはなったものの、日程短縮で21日渡英、25日帰国の強行日程に。大変だったけど、少なくとも行けてよかったよね。

 そして、私の押さえた23日分は、8月9日にチケットが到着。しかし、またも普通郵便でした。もし不達になったらどうすんだよ……

 今回の日程は、20日出発の28日帰国。7泊9日です。
 さすがにビジネスで往復できるようなマイルは貯まっていないので、ここはプレミアム・エコノミーで行くことに。中性脂肪とコレステロールの値の高い私は、家内から長距離のエコノミーが禁止されているので。
 ホテルも色々考えるのが面倒で、もう即決定です。
 実は私も家庭事情で色々あったのですが、キャンセルするならそろそろ、というタイミングで状況がやや安定してきたので、もろもろ手配の上で粛々と準備を進め、当日を迎えました。

 電車で成田に着いたら、取るものも取りあえず喫煙室へ。遠い目で煙草を吸いながら、飛行機の中で煙草が吸えた遠い昔を思い出します。そういえばシートに灰皿ついてたよな。
 昨年の渡英の際には、テロ警戒でeチェックインが使えなかったのですが、今回は空港に向かう電車の中でiモードでチェックインし、その携帯電話を自動チェックイン機にかざし、パスポートを読み取り機に置いたら、何といきなり搭乗券とラウンジ利用券が出てくるではありませんか!
 すごい。テクノロジーというのは凄い。でも、何か悪さできちゃいそうで怖い、と感じるのは私だけでしょうか(いや、そうではない=反語)。

 H君と合流後も、また喫煙室へ。別ターミナルから出発するFちゃんとMちゃんと連絡を取り、出国手続き。まずは2人ともタバコを購入。免税ですからね。喫煙者の基本です。
 間抜けなことにデジカメを家に忘れてしまった私は、仕方なく電気店で買うことに。免税……なのかな? まあいいや。
 そんなわけで時間をすっかり浪費した私は、せっかくのラウンジがわずか10分しか利用できませんでした。そそくさとタバコを吸いながら紅茶を飲んでおしまい。
 今度こそ、うどん食いたかったのに……

 プレミアム・エコノミーでは優先搭乗ができないので、列に並んで搭乗を待っていると、テレビのニュース画面には炎上する中華航空機が……。おいおい、空港の出発ロビーで流すニュースじゃねえだろ! おっかねえなあ。

 やっと順番が来たので機内に入り、4年ぶりのプレミアム・エコノミー席に行ってみると……あれ? 思ったより幅が狭いな。けっこう広い印象があったんだけど。それとも、俺が2003年に比べて太ったか?
 まあ、座り心地は悪くないし、ヘッドレストも座高の高い私に合わせられるのですが、リクライニングの角度はおぼろげな記憶よりもやや浅いような……。
 2003年には、恐らくこの席は十分快適だったのでしょう。でも、今の私はヘルニア病みです。これからの12時間を思うと、そこはかとない不安に駆られました。

 しかも、ロンドンの気候に合わせたんだか何だかわかりませんが、機内がやたらと寒い!
 乗務員さんにお願いして毛布をもう1枚もらい、マスクと昨年の渡英時にガメたアイマスクをかけ、全身くまなく毛布で覆い、ミイラ男のような姿でひたすら寝ようとしました。
 が、なかなか眠れません。長時間になると、装着したコルセットの圧迫も、けっこうな負担になります。かといって、リクライニングの角度から言って、長時間外しておくのはまず無理。
 ロンドンに着いた頃には這々の体でしたよ、ええ。

 手ぶら便(前日までに宅配便が荷物を取りに来て、次にご対面するのは到着空港というサービス)を使ったら、荷物が優先扱いしてもらえるようで、入国して荷物を取りに行ったらもうクルクル回ってました。
 こりゃいいや。実は荷物待ちが苦手なので。あのひたすら時間を浪費している感じが本当に嫌です。喫煙もできねえし。
 H君が来るのを待ち、一応今後のことを協議。

 空港まで迎えが来るH君を残し、とにかく外へ。もちろん、12時間ぶりの喫煙が目的です。何せイギリスは07年7月から屋内公共スペースは全面禁煙ですからね。悪法も法なり、郷に入れば郷に従え、です。
 外の喫煙所はかなり混んでいました。でも、路上が禁煙じゃないので、現地人らしき人は喫煙所なんか気にしないで、その辺の路上で吸っています。歩きタバコさえチラホラ。さすがにそりゃどうかなあ……。
 路上禁煙が多い日本と、路上フリーのイギリス。どっちが嫌煙者にやさしいかは、何とも言えないですねえ。

 「Heathrow Express」の表示が見当たりません。が、「Train」の表示が何となく記憶と合致するので、迷わずそちらへ。何でも直通以外の電車も乗り入れるようになったとかで変わったようです。
 スーツケースをゴロゴロと引きずって地下道を行き、エレベーターで切符売り場に。ヒースローエクスプレスの切符を買い、間もなくやってきた列車に乗り込みます。
 日本で普通のやるように、降りるホームを想定して車両を選んだりなんかする自分に、ずいぶんロンドンにも慣れてきたものだとしみじみしました。
 ええ、もちろん家族の絶大な協力あってのことですが。

 パディントンの駅で、オイスターカードをゾーン3までのトラベルカードにしてもらい、地下鉄で3駅先のハイ・ストリート・ケンジントンへ。
 歴史ある駅のパディントンは階段が多く、腰痛持ちがスーツケースを運ぶにはあまり適してません。サークル線の右回りの方のホームとは接続がよく、ノー階段で行けますが、左回りのホームに行くには階段2つを超える必要がありますので、ロンドンに行かれる方はご注意ください。

 ハイ・ストリート・ケンジントンに着いたら、駅直結のマークス&スペンサーの3階(2nd floor)の両替所へ。もはや行きつけの両替所の感があります。オイスターカードで乗り降り自由の場合、ここのマークス&スペンサーは本当に便利です。駅直結だし、トイレもあるし。
 やっとポンドの現金を手にして、一路ホテルへ歩きます。
 ホテルでは、何とも無愛想なおねえちゃんが書類を出し、鉛筆で数カ所に○をつけて、「ここを記入しろ」とほざきました。
 客に対して何て言いぐさだ! お前は客商売という自覚があるのか!……と思ったものの、それを伝える英語力を持たない私は、粛々と記入し、チェックインを済ませました。

 ふううう、疲れた。
 ん?
 ……
 ……ああっ!
 実は私の利用した予約サイトでは、このホテル、ダブルとシングルが同じ値段だったのです。だったら、でっかいベッドでゆったり寝たい、というわけでダブルを予約したのですが……
 これ、シングルベッドを2つくっつけただけじゃん(泣)。これじゃあ、結局シングルで寝るのといっしょじゃねえかよ……

いんちきダブル
これではシングルと同じではないか!

 ただでさえ疲れているってのに、更に気力をそぎ落とされました。

 というわけで、近所のスーパーにMちゃんFちゃんと出かけ、2人の部屋にお邪魔して夕食を取ったら、部屋で荷物をほどいて爆睡しました。

 そして翌朝、事件が起きました。
 実は渡英前から咳が少々出ていたのですが、このというのがヘルニアの大敵。意外なほど腹筋と背筋に力が入るので、パキッといっちゃうことがあるのです。
 すでに1回、私は咳が原因で症状が悪化し、ブロック注射のお世話になっています。

 もう想像がついたでしょうけど、やっちゃったんです。ロンドン到着の翌日、しかもストーンズのロンドン初日のその日に(泣)。
 最近、けっこう腰の調子が良かったので、うっかり体勢を整えないまま咳をしたのが運の尽き。

 パキッ、と来ました。

 ううっ! イテ、イテ、イテテテテテ!
 や、やばい。
 取りあえず、横になって痛みを堪え、やや動けるようになったところで座薬を使用しました。

 そのまま横になること約30分。
 一応は痛みがひいていきました。その隙に保険の証書を確認し、持ち歩きバッグに入れました。これでいつ痛くなっても電話できます。
 次に、往路のマイルがもうついているはずなので、航空会社に電話し、復路の便をマイルでビジネスにアップグレードしました。とてもじゃないけど、往路と同じだったら成田に着いた頃には歩けなくなっちまう。
 プレミアム・エコノミーでも普通のエコノミーと同じだけマイルが必要とのこと。何だかすげえ勿体ない気がするんですが、背に腹は替えられません。

 痛みが何とかひいたところで、ラッセル・スクェアに宿を取るH君を誘い、昨年に続いてArchway Tavernに昼飯を食いに。
 H君、何でも旅行代理店とのトラブルをいくつか抱えており、まずいきなり全館禁煙のホテルに入れられてしまったとのこと。しかも湯沸かしポットを使ったら、大量の赤錆が出たらしく、エライ剣幕でした。

Archway Tavern
1年ぶりのArchway Tavern(H君撮影)
 Tavernに着くと、感激したH君は写真を撮りまくります。そりゃそうだろう。キンクス・ファンにとっては憧れの場所だもんなあ。
 昨年に行った時に食ったロースト・ビーフが絶品だったので、非常に楽しみだったのですが、店員のニイチャンに聞くと、何とやめちゃってました

 思わず日本語で「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜?」ですよ。
「何か食う物ないの?」と聞くと、「ナッツしかない」とのこと。
 しょうがねえ。じゃあナッツちょうだい。黄色い方。

 しかも、パブもまた“屋内の公共スペース”、つまり全面禁煙です。まったく、世の中狂ってる。クソ寒いのに、外のテーブルに出て煙草を吸いながら、ナッツを肴にギネスを飲みます。

Bさんと私
地元民のBさん。プライバシーのため、モザイクを入れてあります。
(H君撮影)
 おかわりをしに店に戻ると、地元のおじいさんから声をかけられました。
 我々がiPodでMuswell Hilbilliesのジャケを見せ、ここに来た理由を説明すると、ジャケの撮影アングルやらキンクスが昔出演したパブやらユーリズミックスのスタジオやらデヴィッド・ボウイの出没ポイントやらを教えてくれました。行かなかったけど。
 常連さんのようで、訪れる客ほぼ全員と挨拶しています。

 3人で外に出て喫煙しつつ飲んでいる時、おたがいのタバコを交換しましたが、おじいさん、やはり禁煙政策についてぼやき始めました。

「7月に法律が変わった時は暑くて、外で汗かきながらタバコを吸ったもんだよ。それが今ではブルブル震えて鼻水たらしながら吸わなきゃいけないんだからな」

「イギリスのタバコは国内で買うと高いんだ。キチガイじみた税金のせいだよ。このタバコなんか4ポンドだぞ。1本20ペンスだ」

 我々が、俺たちのはだいたい1箱1ポンド30だと言うと、うらやましがってました。

 ひとしきり日英両国の喫煙事情について語った後、夜に備えて体力を蓄えるため、ホテルに引き上げ。
 トシのせいかフライトの疲れが残ってる気がするし、腰もやっちまったし。とにかくできるだけ横にならないと。

 軽く昼寝をして目が覚めたら……痛い。歩くと響くよ……。
 でもとにかく会場に行かなきゃ。そのためにはるばるロンドンまで来たんだからさ。ホテルで寝るために来たんじゃねえんだから。
 まあ、無茶しなきゃ問題ねえだろう。最悪、おとなしく見たっていいんだから。
 いざとなったら、保険会社に電話すりゃ、ブロック注射くらい打ってもらえるよな。

 諸事情あって21日当日の着となるKちゃんの到着を待ち、ロビーで待ち合わせて出撃です。
 うーん、ちょっと早歩きはきついかも。
 同行の皆様の気づかいをヒシヒシと感じつつ、止まりまくるサークル線からジュビリー線に乗り継ぎます。
 平日だったので、仕事帰りのラッシュとかち合ったようで、電車内はスーツを来た人がたくさん。日本ではクール・ビズ時期の真っ最中ですが、ロンドンでは上着を着てちょうどいいかも。

 ロンドン・ブリッジの駅を通ったりすると、「ああ、これで3度目のロンドンだというのに、ロンドン・ブリッジとかマダム・タッソーの蝋人形館とかには行ったことがないなあ」と感慨が。いや、もちろん行きたいわけじゃないんですけど。

 さあ、電車はノース・グリニッチの駅に到着! 駅の出口を出るとすぐ、今回の会場O2アリーナが見えてきました。

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