香港公演翌日、「ストーンズに会えるかも」という期待を胸にバーに出かけた我々を待っていた、想像を絶する地獄とは?

 翌朝(……いや昼か)、近所にメシを食べに行き、新聞を山ほど買い込んでホテルに戻り、読みまくりました。
香港の新聞 いやあ、おもしろい。「米積加 剥衫 露臍毛」(笑)。本文の文脈で「米積加」は「ミック・ジャガー」だとわかったんですが、「臍毛」とは何だ「臍毛」とは(笑)。
 ちなみにストーンズは「滾石樂隊」。滾石は「ロック」という意味でも使われているようです。平気で「滾石4老碑」とか書いてやんの。台湾では「滾石合唱團」でしたけどね。
 ……しかし入力がめんどくせえな。読みがわかんないから“手書きパレット”が大活躍だよ。ちなみに皆さんが「滾石」を入力されることがあったら、“たぎる”を変換すると「滾る」になります。参考までに。
 記事の内容は、まあ、初来日の時の日本のマスコミとおんなじようなことですね。長年にわたって人気を保つ年食ったバンドが、やっと香港に来たと。で、昔は反抗の象徴みたいな存在だったと。パフォーマンスは年齢を感じさせない元気さだったと。おまけに芸能人は誰がいたかと。
 ホントに90年の日本のマスコミと同じでしょ。

上海ガニ その夜、我々は再び集結し、まずは私の滞在先の地下のレストランで上海ガニを味わい、ストーンズの滞在先に突入を決行することになりました。当然、見るからに追っかけっぽいベロマークが入った服装は禁止です。
 まずは宿泊客の振りをして、ロビーを我が物顔で歩きつつ、ホテル内の施設をチェックしました。検討の結果、1階のワインバーが狙い目だと判断し、高そうなその店に入りました。
 客はまばらで、ピアノ、ウッドベース、ボーカルのトリオがジャズナンバーをやってます。ドレスコードを心配したんですが、すんなり入場できました。

 うん、こりゃいけるぞ。ファンが大勢いるところになんか、メンバーが来るわけないもんな。他にもファンはいるかも知れないけど、正体を隠してるし。うまくすりゃ、誰か来るかもしんない。
 高い酒(と思い込んでただけで、お勘定はビックリするほど良心的でした)をチビチビ飲みながら、あたりを伺います。商談をしているらしいグループ、デートをしているらしい人、まあ、普通の高級風なバーです。
 テーブルの真ん中には小じゃれたキャンドルなんかがある店です。
 本気で期待はしないまでも、そりゃここなら来るかも知れないな、などど期待が盛り上がって来……たのはつかの間でした。

 甘かった。いやあ、ホントに甘かった。
 頭の悪そうな外人集団ベロマークだらけの服装でガヤガヤとバーに入ってきたのを見た時、しみじみそう思いました。世界中どこに行っても馬鹿はいるもので、こんな格好で飲んでる奴がいる店に、メンバーが来るわけないという自明の理を理解できない人間というのは、どこにでもいるんだなと。
 しかも静かなワインバーだったのに、メチャクチャ大声で話し、下品に笑いやがります。死ね、ホントに死ね、この猿ども!

 店内の“ベロ率”は急速に上がり始め、あっという間にソファは満杯。すると奴らは平気でカウンター周辺で立ったまま飲み始めました。
 カウンター周りが一杯になると、通路だろうが何だろうが立ったまま飲んでます。もう、そこらじゅうベロだらけ。もともと店内にいた客は、何が起きているのか理解できないようです。でっけえ声で下品に話すもんだから、うるさくてうるさくて、もう顔を寄せ合わないと会話もできません。
 それでもしばらくは誰かが入口に来るたびに視線を走らせていたんですが、もうやめました。ひょっとして、サポートメンバーの誰か(ハッキリ言えば、ボビー以外のホーンセクション3人。この人達ばかりは、町で会っても絶対わかりません)が来てたのかも知れませんけど、これじゃどうにもなりません。

 これが何でもない飲み屋だったら、むしろこっちから話しかけて一緒に盛り上がりたいところです。
 しかし、しかし! 俺たちがここで何をやっているのか!
 ストーンズを待ってるんじゃないのかよ!?
 おまえらだって、飲み屋なんて山ほどある中でここにわざわざ来てるってのは、ストーンズの滞在先だからじゃないのか?
 馬鹿だ。おまえら馬鹿だ。
 フツーに考えて、来たらもみくちゃにされるとわかっている場所に、来ると思うか?
 クソ馬鹿ども! 死ねコラ!
 この低能! ノータリン! ああ、もう台無しだ……

 ハコバンのジャズトリオも、時ならぬ客の多さにとまどっています。でもまあ、ジャズが基本なんだから、ジャズをやりますわね。ところが奴らと来たら、そんなもんにはお構いなしに笑うわしゃべるわ……。だんだんトリオがかわいそうになってきました。曲が終わっても拍手もなし。
 我々は日本人の律儀さを発揮して、ちゃんと拍手したもんで、歌手の白人のオネエチャン、ベースのラテン系の兄ちゃん、ピアノの中国人の兄ちゃん(何かヘンなトリオ)がこちらに愛想笑いを送る始末ですよ。
 そのうち、どうやらここにいる連中がロックファンらしいというところまでは気づいたようです。しょせんハコバンとはいえ、さすがにプロとしての危機感を感じたのか、迎合的にロックをやろうとするのですが、ビートルズが中心です。「Micheal」「And I Love Her」「Let It Be」しまいにゃ「Imagin」……とやるんですが、連中は最初だけ「おお、がんばってんな」的反応をした後は結局ガヤガヤです。
 これはどうも違う、と気づいたようで、色んな曲(しまいにゃ「Stand By Me」や「Every Breath You Take」まで)をやるんですが、反応はやっぱり一緒。
 偶然なのか真相がわかったのか、トリオは「Tell Me」をやりました。その瞬間、店内は豹変しました。もう大合唱(笑)。さすがにハコバンも「こいつらストーンズ・ファンだ」とわかったようです。しかし、悲しいかな彼らはストーンズのレパートリーがないようなんです。
 歌本を見て、何とか(恐らくまったく初めての)「Satisfaction」を演奏して盛り上がったっきり、だんだんと元の木阿弥に……

 そうこうするうちに、ひときわ馬鹿でかい声で携帯電話に向かって話しながら歩いてくる奴がいます。
 ……
 ミケ・ワンチャイでした(笑)。
 奴はね、典型的な“よくないストーンズファン”でしたよ、ええ。しょっちゅう電話で話したり店内の知り合いの間を挨拶してまわったり、それはいいですよ、まあ。仕方ない面もあるでしょう。
 ただ、電話に向かってアホみたいにでかい声で「Rock'n rooooooll!!!!」だの「Let's spend the night together!!!!」だの叫ぶのはやめて欲しい。知らない人が見たら、ストーンズ・ファンはそんな奴だと思われちゃうじゃないか(泣)。
 頼む。頼むからやめてくれ。

 もはや高級(そうな)バーはベロンチョ軍団の馬鹿騒ぎ会場になってしまいました。
 絶望的な気持ちで、ふと入口を見ると、何とバーナード・ファウラー(バックボーカル担当のサポートメンバー)がいるではありませんか。
 おおっ!これは!
 これは期待できるか? バーナード自身はまあ、どうでもいいんだけど、メンバーが来てくれる可能性が0%から8%(推定)になった気がしました。

 ……が、甘かったです。バーナードは店の前でしばらくたたずむと、そのまま出て行ってしまいました。
 部屋に戻って、「今、バーには行かない方がいいよ。ベロマークのTシャツを着た連中で大騒ぎだよ」と伝えたに違いありません。
 そりゃそうだろうね。ストーンズの身になって考えりゃわかるもんね。こんな状況に、わざわざ巻き込まれに行こうなんて、思うわけないもんな。
 それにしてもミケ・ワンチャイとその一党が腹立たしい。おまえらのせいだ。てめえらさえ来なければ、バーナードが「いい感じのバーだよ。飲みに行かない?」なんつって誰か連れてきたかも知れないのに。
 ダメで元々と思ってはいたけど、こりゃあんまりだ。死ね、頼むから死んでくれ。

 その後もドンチャン騒ぎが続き、もはやジャズトリオに耳を傾ける人はいません。あまりに不憫なので、「The Nearness Of You」をリクエストしました。これなら、いくら何でも一応はストーンズ・ファンでも聴くだろうと。
 しかし、どうもボーカルのオネエチャンが知らないようで、いきなりピアノとベースだけで始める始末。しかもオリジナルのコード進行で。
 キースがやってるのはかなりコードが単純化されており、オリジナルに比べて使うコードの数も半分以下。ストーンズ・ファンの大多数はオリジナルなんか聴いてないはずなので、これでは何を演奏しているかすらわからないはずです。
 せめて、歌が入れば奴らにもわかったのに……。案の定、だ〜れも気づいてません。

 ところが、偶然ですが客の中にトロンボーンを持ってる奴がいて(ローディ?)、アドリブで演奏に参加したのです。これでどうにか店内は盛り上がり、一応は喝采の中でバンドはステージを去りました。
 ま、リクエストした私の顔も立ったというわけで。

 これ以上いても、恐らく誰にも会えないだろうと判断した我々は、店を後にしました。
 くっそー。何だかしまらねえ結末だな。

 翌日、帰国の挨拶にきれいどころ2人をたずね、とりあえず近所でお茶を飲むことに。いろいろとストーンズ四方山話をしていると、そこに白人の上品そうなオバチャンが通りかかり、突然、
 「Twickenham?」と声をかけてきました。
 ???
 何で? あ、そう言えば俺、イングランド限定Tシャツを着ていたんだ。
 あわてて「Wembley!」と答えました。
 するとオバチャン、「私もウェンブリーに行ったの。アストリアにもトゥイッケナムも行ったし、オランピア、サーカス……」とヨーロッパを回った自慢話を始めました。
 こちらのFちゃんはトロント、クリーブランド、東京、横浜、大阪と行っているし、Mチャンに至っては更にボストン、MSG、ピッツバーグ、シドニーと行ってるんですが、本人達が黙ってる以上、何か俺が自慢げに言い返すのも何なので、黙ってました。
 しかし、オバチャンもヨーロッパ(北欧のどこかだったような)香港まで来るとは、馬鹿だよなあ……あれ?

 その後、FちゃんMちゃんにつきあってもらってお土産を買った後、9日(この日)も見ていく2人と別れ、空港に向かいました。もちろん「Silver Train」を聴きながら。
 空港では、搭乗口までの異常な遠さを計算に入れず、お土産を買うのに時間をかけすぎました。
 「こりゃ余裕だな」と搭乗ゲートに向かったものの、目標のゲートにいつまでたっても着きません。うわ、こんなに遠いのかよ! 結局クソ思いお土産を抱えて走る羽目になり、這々の体で搭乗したのは離陸の5分前。
 ロンドンの時のようにしみじみとする暇もなく、バタバタのうちに機上の人になりましたとさ。

FちゃんMちゃん、入り待ち成功!

 私と別れた後、買い物をするか入り待ちをするかで悩んだ2人は、結局「後悔はしたくない」と結論、Tamar Siteの関係者入口近くで入り待ちをすることに。
 ところがそこで待っていたのは前座に出るヘンな現地のバンドのおっかけどもで、ストーンズ目当てなのは数人しかいなかったそうです。
 18時過ぎから延々と待ち続け、9時近くになって疲れてきたところに、何とメンバー1人1人が乗ったリムジンが次々に到着! ミックとロニーには手を振ってもらえたそうです
 足かけ2年にわたるLicksツアー、最後の最後に最高の思い出になったようです。

訃報

訃報 余計なことは言いますまい。8日に買った新聞に載っていた訃報です。
 悪いけど、笑わせてもらいました。

ヘンな日本語

すんごい注意事項 ホテルの洗面所の鏡に貼ってあった注意事項です。
 海外ではよくあることですが、何とも珍妙な日本語です。
 恐らく、日本語の手書き原稿を日本語を知らない奴が写植打ちしたので、こうなるのでしょう。

 さて、Licksツアーも終わりました。次のツアーはいつ始まるんでしょうか。
 2004年1月末現在、いろんな噂は聞くんですが、確定情報はまだ入っていません。
 とりあえず、いつの間にか20数公演分のブートを曲目別に並べ直し、公演別の聞き比べをやっています。でね、演奏がすげえ良かった日がいくつかあるんですが、中には意外な……いや、後は次回のお楽しみといたしましょう(笑)。

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