その頃、ストーンズファンの間で、一番の悩みの種は、「ストーンズは来日しない」と言うことでした。正確に言うと、法律的に「入国できない」のです。日本の出入国管理法では、過去に麻薬がらみで有罪になった人間は、たとえ軽微な罰金刑であっても入国を許可されないのです。例外は、法務大臣の特別認可のみ。
ご丁寧にも、ミック・ジャガーもキース・リチャーズも、ちゃーんと有罪判決を受けていたので、法律が杓子定規に守られるならば、永遠に日本に入れないのです。
事実、72年に一度来日が決まり、チケットまで発売されていたにもかかわらず、日本政府は入国を拒否、公演全日程キャンセルということがありました。ミックは、日本大使館にスーツを着て出向いて交渉したもののすげなく拒否され、「ありがとよ。ナマの魚でも食ってろ!」と捨て台詞を吐いて立ち去ったとのことです(笑)。
ストーンズのファンにコアなファン(要はオタク)が多いのは、この「来日不可能時代」を経験したからではないかと思います。実際にその演奏を目の当たりにすることができないので、それ以外の要素をできる限り吸収しようとするのです。
それを象徴する、こんなことがありました。91年頃、私がミック・ジャガーの顔を描いていた(私は何も見なくてもミックの顔が描けるという特技を持っています!)ところ、1つ下の友人が「tadaさん、それ、87年のミックですか?」ときいてきたので、「いや、85年だよ」と答えると、その友人は「……tadaさん、オタクですね」……もちろん、ミックの絵を見ていきなり何年のミックかを気にする時点でオタクじゃねえか、と指摘しました。
ストーンズ・ファンは、だいたいこのテのオタクか、わけもわからず精神論でストーンズを語る、「不良じゃなきゃダメだ」タイプに大きく分けられます。
私もご多分に漏れずオタクなので、高校生の頃にはストーンズのレコードをすべて集める作業に入りました。ろくに金もない大学生だったので、アルバイトをしました。で、給料をもらうと、部屋に帰る前に全部レコードに化けるわけです。主に肉体労働(一番楽しかったのはプロレスのリング組立でした)をやっていたのですが、このような状況ではろくに金をためることもできないのは当然でした。
特にひどかったのが、残り10枚を切ったころの生活でした。ある日突然、「ストーンズのレコードはすべて廃盤、今後は全部CDに」とのニュース! 驚いたの何のって!
授業はもちろんすべてサボり、東京中を探し歩きました。細々と続けていたバンドの練習もすべて中止。生活は「金なしモード」に入りました。これは、金がないときに私が行った生活モードで、塩、もしくはゴマ塩、良いときはキャベツの千切りだけをオカズに飯を食うという生活です。で、浮いた金をレコードと交通費につぎ込むのです。
努力の甲斐あって、また近所のレコード屋のオヤジの協力もあって、日本で最後のアナログ盤、「DIRTY WORK」までの全アルバムを揃えることができました。そうなると待っているのは、日がな一日、ストーンズばかり聴く日々です。一刻も惜しいので灰皿はゴーフルの大きな空き缶を使い、飯は気が向いたときだけ食べました。学校へも行かず、単位がぼろぼろと落ちていきます。両親に申し訳ないなと思いつつ、抗しがたいストーンズの魅力にとりつかれていたので、あまり先のことは考えないようにしていました。
|
|
|
これが「テレキャスター/キース・リチャーズ・モデルだ」! |
しかし、どうもストラトでは今イチ盛り上がりに欠けます。勢いあまって「Fender Japan TELECASTER Keith Richards Model」というギターを購入してしまいました(笑)。右図参照
でも、こうした「ストーンズ的」なギターは、ギターの上達には決してプラスにならないので、良い子の皆さんはまねをしない方がいいと思います。
で、オタクの世界というのはネットワークが発達します。
つまり、レコード会社やプロモーターがメディアに流す情報ではなく、好きもの同士の横のつながりで、噂が広がっていくのです。
今ではストーンズはアルバムを出すたびに来日するので、最近ファンになった方にはピンと来ないかも知れませんが、かつてはアルバムが出るたびに「来日の噂」が広まったものです。
曰く、「ミックはもう入国できるがキースがだめ。かわりにジェフ・ベックが一時的にストーンズに入って来日するらしい」。曰く、「グアムでやるらしいので、ツアーが組まれるらしい」。曰く、「英国政府が圧力をかけたので、来日できるらしい」……馬鹿じゃないの?(笑)
よくもまあ、これだけいい加減な噂が広まったものです(笑)。一番傑作だったのは、「米軍の航空母艦を公海上に出して、そこでやるらしい」というヤツです。まあ、当時は真剣に信じてましたけど(笑)。
ほとんどは来日して欲しいあまり、「〜したらいいなあ」という願望発言に尾ひれが付いたか、頭のおかしい人がそう信じ込んで言いふらしたかでしょうけど……
とっくに解散しているビートルズのファンや、解散して間もないとはいえ来日をとっくに果たしていたレッド・ツェッペリンのファンに比べ、我々ストーンズ・ファン(ビートルズもツェッペリンも好きだけど)の屈折ぐあいがおわかりかと思います。
そんなこんなで過ごした大学時代のある日、またも噂が駆けめぐり始めました。
