私とあなたとストーンズ > 私とストーンズ > 第18話
いわゆるロンドン名物……蝋人形館とかウェストミンスター寺院とか大英博物館とかには興味はないんですが、やはりブリティッシュ・ロックが好きな人間にとっては、ロンドンを訪れたら行かずにいられないところがあります。
私の場合はウォータールー駅がそうでした。
ザ・キンクスの名曲「Waterloo Sunset」で歌われている場所です。レイ・デイヴィスは少年時代、大病を患って長期入院していましたが、その病室の窓から見える風景と人を歌った美しい歌が「Waterloo Sunset」なのです。
歌詞の内容から言って、レイ・デイヴィスの入院先は以下の条件が満たされていないといけません。
1. 地下鉄のウォータールー駅が見える
2. 夕日が見える
3. テムズ川と、そこにかかる橋が見える
そうなると、恐らくその病院は河畔にある「セント・トーマス病院」であろうと見当をつけました。
しかし、今夜は特別な日です。
半年以上も待ちこがれた、ウェンブリーの日なのです。しかも、朝から雨まで降っています。
それと、今回はスケジュール的に“サンセット”の時間帯にウォータールーにはいられません。日のあるうちじゃ、どうもしまらない気がして。
これは休養して今夜に備えるのが得策か、とも思ったのですが、何せロンドンなんて滅多に来られる所じゃありません。決意を固め、ホテルを出て、ウォータールーに向かいました。
途中で自然史博物館に向かうS氏と別れ、ウォータールーにむかうべーカールー線の中、キンクスのことを想いました。ストーンズとキンクスは、デビューの時期はさほど離れていません。一応はビートルズ、ストーンズ、フー、キンクス、アニマルズが“5大ブリティッシュ・ビート・バンド”だなんて言われたことがあります。
ストーンズ目当てに世界中からロンドンに集まっているファンで、キンクスのことを一瞬でも思い出している人は、何人いたでしょうか。少なくとも、日本から来た俺はちゃんと思い出してたぜ、イギリスのキンクス・ファンの皆さん。
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| ウォータールー駅の西口を臨む |
デイヴ・デイヴィス(が弾いてるんだよね?)の単音のリフで、何度も何度も聴いた曲が流れ始めます。ああ、来てよかった、と心底思いました。
雨の中で外から駅を見ると、TGVのユーロスターが見えます。そのあたりはさすがに近代的な造りで、キンクスの曲となじまないのですが、それはそれでいいかな。駅の西側の陸橋を渡ってから振り返ると、元々の駅舎と思われる煉瓦造りの部分が見えました。
そのままセント・トーマス病院を目指します。
いやあ、ここの病室から、レイ・デイヴィスがウォータールーの町を……え? あ、あれ? ここから駅なんか見えないぞ。
あ、駅にもっと近いところにもういっこ病院が。……でもここからだと川が見えないよなあ……。
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| めでたく“レイ・デイヴィス入院先”に認定されたセント・トーマス病院。 |
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| もうひとつの病院 |
う〜ん……
……
……よし!
勝手に認定します。レイ・デイヴィスが入院していたのは、セント・トーマス病院です!(笑)
「Waterloo Sunset」を繰り返し聞きながらしみじみとしていると、川向こうにビッグ・ベンが見えました。これがその後の行動を決定づけます。
せっかくだから見るだけ見ていこうと、取りあえずウェストミンスター橋を渡りました。
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| Dirty old river。“テリー”と“ジュリー”が渡ったと思われる橋の上から。 |
ビッグ・ベンは軽く外から眺めて写真を撮っただけで、すぐに最寄りのウェストミンスター駅へ。ふと路線図を見ると、サークル線1本で江戸川……じゃなくてEdgware Roadに帰れます。
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| 73年ヨーロッパツアーのポスター |
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| 76年ヨーロッパツアーのポスター |
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| ゴールド、プラチナ・ディスクもたくさん |
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| ギターやベースの現物も展示 |
Hちゃんからは、「どうせまた若い女に使っちゃうんだから、あの親父に金を持たせちゃダメよ」と言われてたんですが、まあ、せっかくロンドンに来たんだし……
駅からけっこう歩くんですが、難なく目的の店は見つかりました。
店にはいると、もうストーンズ一色。今ビルがやっている「リズム・キングス」なんか片鱗も見えません(笑)。
牛馬のような量を食わされたんじゃかなわないので、店員にインチキ英語で「あ、あ、あいきゃん・いーと……べりー・すもーる! すもーる! ほわっと・でぃっしゅ・いず・すもーる?」と聞きました。よく考えたら「ワタシ、チイサイノ、タベラレル。ナニ、チイサイ?」って聞いてるようなもんですな。
それでも店員のニイチャンはわかったようで、メニューを指さして教えてくれました。
その中でサラダ付きのリブを頼み、周りを見回すと、お宝がいっぱい! 思わず店員を呼び止めて写真を撮っていいかを聞くと、「Sure!」。すかさず立ち上がって撮りまくりました。
同じようなことをしているおのぼりさんだかアメリカ人だかのオバサン2人連れがいて、目があったら思わずニヤリ。
「Wembley, tonight?」と聞くと、「Yes!」。おお、やっぱりお仲間だ。
その後も
俺「Cat of Herlem Shuffle」
外人「Good video crip!」
俺「Gold Les Paul custum!」
外人「Beautiful!」
と、動詞のない会話を楽しみました(笑)。
多めにチップを置いて店を出ると、店員のニイチャンが「今夜のウェンブリー、楽しんでね」みたいなことを言ってくれました。
「ビルはゲストで出るの?」と聞こうと……思ったんだけど、何て言っていいかわからないので「サンキュー!」だけ言って店を出ました(笑)。
そこから駅に向かう間も、スティッキーに向かっているとしか思えないベロTシャツの人とすれ違いました。こっちもそうなので、そういう人とすれ違うたびにニヤニヤ笑い合ったり、親指を上げ合ったり、「Are you going to gig tonight?(こう聞こえた)」「Yes! See you at Wembley.」みたいなことを話したり……。だんだんと気分も盛り上がってきます。
体力温存のためにホテルに帰還し、まもなく戻ってきたS氏と世間話をしながら、出発予定の16時を待ちました。
よっしゃ!
準備万端体力復活!
ウェンブリーに出撃だ!
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| 世界の車窓から。その車窓が傷だらけなので、何だか心霊写真のようです。 | |
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乗った電車は特急のようで、これでいけば10分あまりでウェンブリー・パーク駅。ボックス型6人掛けシートを4人で占領し、いざウェンブリーへ! 地下鉄ではありますが、ほどなく地上に上がり、郊外の風景が見え始めます。
さて、2駅目に着いた。いよいよウェンブリーだ……って、あれ?
ハロー・オン・ザ・ヒル? フール・オン・ザ・ヒルじゃなくて?
すかさず電車内の路線図を見ると、ウェンブリー・パークよりも3つも先の駅です。しかも、この先は路線が2つに分かれており、このまま行ってしまうと引き返すのが大変です。だって、分かれる前の半分しか電車がないわけだから。
「降りよう!」
急いで電車を出て、反対側のホームの各駅停車に駆け込みました。
ああ、危ねえ。このまま行っちゃって、開演に間に合わなかったら泣くに泣けないもん。
ようやく本命(笑)ウェンブリー・パークに着き、改札を抜け……あれ? 抜けられない。
我々の切符はロンドンのゾーン1,2のみ終日乗り降り自由の切符だったのですが、実はウェンブリー・パークはゾーン4。要するに乗り越していたわけです。
しかし! ロンドンでは乗り越し精算という精度がなく、乗り越したらその時点で10ポンド(2,000円!)の罰金です。
駅員がしきりにペナルティだとか何だとか言っていますが、とにかく4人でわかんないふり。ワタシタチ、ニホンジン。ヨクワカリマセ〜ン。
すると、業を煮やしたらしい駅員が「今回は見逃すからもうやるなよ。帰りの切符を買っておけ」と改札を通してくれました。
ヨクワカリマセ〜ンだったはずの我々は、駅員の言葉通りに(笑)帰りの切符を買って、そのままウェンブリー・アリーナに向かいます。
いるいる、ダフ屋。ここでも「券あるよ」よりも「券ないか〜」の方が多く聞こえます。
フレディ・マーキュリー、ティナ・ターナー、マーク・ノップラーと正体不明のドラマーという、よくわからない組み合わせの壁画の横を通り、再建設中のウェンブリー・スタジアムを前方に見ながらアリーナをめざす間にも、ダフ屋に声をかけられます。しかしダフ屋さんって、洋の東西を問わず人相が悪いんですな(笑)。
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| ついにたどりついたウェンブリー・アリーナ! |
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| ベロ入りのバス。スポンサーのT-Mobleのバスか。 |
3連マゼンタ・ベロのバスも見えます。何だか知らないけど、もう列ができているので近寄ってみると、警備員の奴が「ニーハオ」と言ってきました。当然、シカトです。
会場正面に行き、ボックス・オフィスを探していると、「tada!」と声がするではありませんか。
ん? ここロンドンだよな。
ふと見ると、何と高校の時の同級生のMがこちらに近づいてきます。
あまりの奇遇にドビックリ。Tシャツまで外人ウケを狙った同じ「武道館」Tシャツを着ているではありませんか。
思えば高校3年生の時、体育館でスモール・パッケージ・ホールドをかけて肩を痛めつけた相手、それがMでした。
何でもトゥイッケナムからこっちに来ているとのことで、ミックの喉が風邪からの回復状況がよくなかったとを嘆いています。ミックの声、大丈夫なんだろうな……。
それにしても、ロンドンくんだりまでストーンズを見に来るとは、馬鹿な奴もいたもんだ……あれ?
しかし再会に浸って話し込んでしまうわけにはいきません。何せ、まだチケットの現物を手にしていないんですから。そのままみんなでボックス・オフィスにならびます。
トラブルに頭を悩ませた日々がよぎるとともに、ここで問題が起きたらという不安も頭をもたげます。
案外あっけなく順番が来たので、とにかく意味の伝達を重視した英語で、
「Tickets, please. My name is Yoichi Tada.」とメールのプリントアウトを渡し、決済に使ったマツキヨカードを出しました。ウェンブリー・アリーナで、“マツモトキヨシ”の文字がきらめく一瞬です。
すると係員は「Oh, Yoichi!」と一言。
ひょっとして、しつこく苦情メールを送ってくる日本人がいるってんで、名物にでもなっていたんでしょうか?
探すのに手間取ったものの、あっけなくチケットは手渡されました。
やっと、やっと手に入りました。チケットをこの手にするまで、実に9ヵ月かかりましたよ。
そのうれしさに、文句を言う気も何も失せ、そそくさとボックス・オフィスを出ると、喜びの記念撮影まで始める始末。あああ、よかった。
一応、会場入口を確認しようと、どうも入口らしいところで係員に「ここ、入口?」とたずねると、いきなり「チケット見せて」。
何で? まあいいや。とにかく見せてやると、裏側に変な青光を当てて、チケットを凝視しています。ああ、偽物チェックね。
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| 「ぜひまわりでたむろしてね」と言わんばかりのこの看板。 |
そこで、Hちゃんが「今回のライブは、まったく並ばずに済んでるから、物足りない。ちょっとここで並ぼう」と言い出したので、何となくそのまま入口らしきドアの前でたたずんでいました。
すると……。
何だか人の良さそうで、いかにもサックスを吹きそうなアメリカ人(何だそりゃ)が歩いています。
そう、ボビー・キーズです! 取りあえず、目があったので手を振りました。
引っかけた女を喜ばせるために、ドンペリ風呂を作った男です。意味もなく、高層ホテルのベランダから、キースと一緒にテレビを放り投げた男です。
「いっしょに写真を撮ろうよ!」と言うワイルド・ガールズ=KちゃんHちゃん。しかし、私は「ライブ前だからさ、悪いよ〜」と二の足踏みまくり。
一方ワイルド・ガールズは「そ〜んなの大丈夫よ! ボビー!」と手を振っています。すると、ボビーはこちらに来るではありませんか。おおお、何だ? 遠慮することはなかったのか?
そこへすーっと同級生Mがやって来て、平然とボビーに「一緒に写真撮ってくれますか?」と聞きます。ボビーは「Sure!」。あらららら。
別行動を取っていたS氏は、何となく異変をかぎつけたか、猛烈な勢いでこちらに走ってきます。
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| いやな顔ひとつせず、写真を撮らせてくれたボビー。まさにグレート・テキサンだ! |
実は、諸事情あって詳細は書けませんが、東京ドームで私はボビーに会い、握手をしてもらっているのです。そこで
「I met you in Tokyo Dome!」と、思い出してくれるかという期待を込めて言ったんですが、ボビーは「Oh, Tokyo Dome?」と覚えていないようでした……。まあそりゃそうでしょうね。
いやあ、Hちゃんがふと並びたいと思ったからこその幸運です。
あ、でもサインもらっておけばよかったなあ……。
さあ、開場です!
また不思議な光でチケットをチェックされます。
カバンを開けて見せ、金属探知器でカメラや録音機材を探されます。
でも、探知機がホントに5mmくらいの距離にあるのに、私のデジカメは反応しません。すごい、すごいぞカシオ。
もっとも、S氏もKちゃんもニコンのカメラを持っていたんですが、思いっきりパスしてました。
グッズ売り場に並び、おみやげのイングランドTシャツをたくさん買います。それと、自分用のベロつきパーカも買いました。
買い物をさっさと済ませるため、紙にどのTシャツのどのサイズがいくつ欲しいかを書いて、インド人の売り子に見せると、すごく丁寧に商品を袋に入れてくれます。だからこんなに混んでるんだろうな……。
まずはションベン。続いて腹ごしらえです。ストーンズ前の禁酒の掟は外国でも守り、また途中でオシッコするのもいやなので、水分は取らずにチーズバーガーだけを食います。これまた牛馬の食う大きさです。しかも、バンズ(というかマフィンか?)をカリカリのハンバーグが大きくはみ出しています。よくもまあ、俺も水分ナシで完食したもんだな。
会場にいる連中を見ていると、ホントにあちこちから来ています。
しかも、みんなとっておきのTシャツを選んで着てるのがおもしろいですね。万国ベロT博覧会状態です。昔のツアーのものを着ている人、最近のツアーの限定ものを着ている人、Licksツアーのご当地限定ものを着ている人……私も言ってみりゃその一人です。
S氏は日本公演用のシャツを着ていたので、ちょくちょく外人に声をかけられていますが、私は“英語しゃべれないオーラ”でも出ているのか、目が合っても微笑み合うだけでした。
席に行ってみると、こりゃまたなかなかの良席です。メインステージもBステージもかなり近く、よく見えそうです。
いいでしょ、ここ。いいよね?
前座のフィーダーが始まりました。S氏は好きだそうですが、私はよく知りません。ベース、日本人なんですよね。
しかし、これが結構アタリでした。何だかちゃんと音楽を作り上げて、ちゃんと練習してちゃんと演奏するバンドという感じがすごくする、いいバンドです。CDが欲しいとは思いませんでしたけど、聴いていて心地よい(……ちょっと違うか。耳のアタリはきついし)音が出ます。
このフィーダーの演奏中、数列前のオネエチャンがカメラを注意されました。ヨーロッパはかなりカメラに厳しいらしいと聞いてはいましたが、ストロボもナシに撮影してもあれだけ厳しいチェックが入るのであれば、これは周囲への迷惑を考えると、会場内での撮影はあきらめざるをえません。事実、何人かが連行されたとの情報を後で聞き、撮らなくてよかったとホッとしたもんです。
というわけで、今回(も)会場内の写真はありませんので、あらかじめご承知置きください。
今回のBGMは、日本公演とは違い、イギリスのバンドが多くかかります。
フー、ロッド、ツェッペリンまで。
まばらだった客席も、どんどん埋まっていきます。気をつけないといけないのが、前の連中の身長です。でかくて前が見えないんじゃしょうがない。
前の席の4人は、ちっちゃいオランダ人の2人連れと、巨大なアメリカ人かカナダ人らしきオッサン2人連れ。奴らが立っている間にこっちも立ったりなんかして確認したんですが、どうやらステージはちゃんと見えそうです。
さ、タバコを吸って、もういっちょトイレに行ってスッキリ。
……おっ、し、心拍音が聞こえてきた!















