自称☆芝居道楽委員会

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現代能楽集4「The Diver」

2008年10月9日(シアタートラム)

昨年のNODA MAP番外公演『THE BEE』に引き続き、 野田秀樹の英語芝居。 主演は、『THE BEE』でも印象的だった女優、キャサリン・ハンター。
物語は野田お得意の重層構造。現実の放火殺人事件(日野OL不倫放火殺人事件)に妄想?で 能『海人』&『源氏物語』が入り込み、女と男と宝の物語が展開される。 能『海人』の物語の説明は芝居の中でなされているので、そう心配する必要は無い。 あとは『源氏物語』の夕顔と、葵上&六条御息所の物語(ようするに能『葵上』)を 多少知っていれば、途中で迷子になることも無く、 それどころか何度もニヤリとなるだろう。

見どころは4つ。
1つ目は、女(キャサリン・ハンター)の変幻自在。
自分を見失うほどの(多重人格の)原動力となる嫉妬の描き方は見事。 この憑依、瞬間の人格入れ替わりは、 どこか『イッセー尾形のこれからの生活』を思い出させる。 いや、それ以上の瞬間業の入れ替わりだな。マジ、凄いっす。
また、海人(房前大臣の母)の美しいアラベスク(片足で立ち、 もう一方の足を後方にまっすぐ伸ばすポーズ)と、 そこからの素晴らしいダイビングという身体能力の高さも秀逸。 ラストの絞首刑での痙攣など、ちょっとやそっとのことじゃない。

2つ目は、深夜系TV番組『セレブレティーの泉・テン』(だっけ?)。
頭中将(グリン・プリチャード)が司会を務める番組に、 ゲストで源氏(ハリー・ゴストロウ)が出る、という場面。

頭中将「第1問。素敵な女性に出会って、うほほ〜と思ったら、その女性は母親にそっくりだった! さあその時、貴方はどうする? 1諦める、2ヤる…」
源氏(ゲスト)「ちょっ…、待っ…だって、僕の母はお産で死んだんだ」
頭中将「第2問。とっても好みの女性がいる、でも、相手はまだ子供! さあ、その時貴方はどうする? 1諦める、2手なずける…」
源氏「え…、や…、僕はいつも誠実に接しているよ」

わはははは。源氏ったら〜。 母親(桐壺の更衣)にそっくりな童女(若紫)をさらって来て、 自分の好みの女に育て上げて、妻(紫の上)にしたくせに〜。 母親ともヤって(しかも孕ませて)るくせに〜。 たんなる茶化しのシーンだとは分かっているけれど、 『源氏物語』をこれだけ下衆な展開にしてくれると嬉しくなってしまうね。 頭中将の銀ラメ靴のアホっぽさ、最高!

3つ目は、葵(野田秀樹)の正妻っぷり。
ことに、源氏(ハリー・ゴストロウ)のケータイをとりあげ、 電話攻撃する場面の悪辣さは笑えるほど怖い。 六条(キャサリン・ハンター)に対して 「あんたは子宮から胎児を掻き出す価値しかない女よ!」と 言い放つ姿は、恐ろしいほどに女。
六条は自分の子宮に棒を突き立て、子宮から胎児を掻き出す。 この時の胎児は、 六条の腹に巻きつけた袋から赤い紐を引き釣り出すという方法で表現される。 リアルな胎児の形は示されないのだが、 紐が引きずられることで流れる血や臍の緒をイメージさせて、美しくグロい。 私は先月見た文楽『奥州安達原<一つ家>』を思い出し、 「2ヶ月連続して、妊婦の腹から胎児が掻き出されてるよ!」とワクワクしてしまった。

4つ目の見どころは、下手で演奏される下座音楽。
お囃子(小鼓、太鼓、横笛、琴など)が生で、 しかもいつもは歌舞伎座の御簾内で演奏を担当している 田中傳左衛門(囃子)や福原友裕(笛)によって演奏されるのだ。 むひょ〜。お得な感じ〜。
源氏が放った矢を「はっし!」と掴む田中傳左衛門のニコニコ顔や、 田中傳左衛門&福原友裕による三三七拍子は、 歌舞伎好きなら思わずニヤケるサービスシーン。

惜しいなと思うのは『葵上』を題材に取り上げた段階で、 物語の結末がある程度見えてしまったこと。 芝居としてのドキドキはさして無く、『源氏物語』からの元ネタさがしにニヤニヤして、 「あ、やっぱり、そういう結末ね」とあっさり終わってしまったのだ。
確かに内容としてはディープだし、言わんとすること、問いかけていることが大きいことはわかる。 だが、別に今更野田が『葵上』を現代っぽく翻訳してくれなくても、 あの物語が(というか男女の恋愛のアレコレは)今も昔も変わらない、 心の奥に潜む鬼を含んだものであること、 それが古今東西の多くの事件の根幹にあることは自明の理じゃん?という気持ちになり、 いまいち心が揺さぶられない。 既に知られている物語を上演する時の難しさが、残念な方向に出てしまっている。
野田らしい物語構造とメッセージ性を持った舞台で、充実はしている。 そこは高く評価したい。 だが、「あっ!」となる強さ&重さは、『The Bee』の方が大きくて面白かった。
『The Diver』という作品が、主演のキャサリン・ハンターの役者ぶりに頼っているところが あまりに大きいのも、かえってあだになっているのかもしれない。 良いだけに惜しいな、キャサリン・ハンター。

採点:★★★☆☆

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