自称☆芝居道楽委員会

2008年前半 <<芝居道楽録 <<HOME

2007/2008シーズンオペラ 「魔弾の射手」

2008年4月10日(新国立劇場オペラ劇場)

幕開き、<序曲>が始まる前に、隠者の小屋?を訪ねるアガーテのちょっとした台詞劇がある。 『魔弾の射手』がジングシュピール(台詞が入ったドイツ語の歌芝居)だと 事前知識で知ってはいたが、冒頭からこうなんですか!と吃驚。
おお、これからどうなる?!と期待を持たせて序曲へ。

このオペラは日本では上演頻度が低いようだが、何故だろう?
とはいえオペラとしての知名度が極度に低いというわけではなく、 <序曲>と<狩人の合唱>は、 クラシックのコンサートでも単独で演奏される機会が多い。 それもそのはず、<序曲>はそのオペラの全体像を示す曲であり 実に良く出来ていて面白いのだ。そりゃあ演奏したくなるわけですな。
で、このウェーバー 『魔弾の射手』の<序曲>を聴いていて、 私はワーグナー『ニュルンベルクのマイスタージンガー』の<序曲>を 唐突に思い出した。 パンフレットに「劇的なオーケストレーションはワーグナーやR.シュトラウスに多大な影響を与え」 と書かれている通り、順番としてはウェーバーが先で、ワーグナーが後。 『マイスタージンガー<序曲>』の冒頭のホルンの使い方が、 『魔弾の射手<序曲>』と似ているのかしらん?←いまいち分かってない。

ダン・エッティンガー指揮/東京フィルの演奏は、こちらを気持ちよくオペラの世界へ導いてくれた。
演奏レベルとしては満足だったのだけれど (オペラにおける演奏の良し悪しは未だによく分かっていないのだが)、 欲を言えばあと一歩「何か」が欲しかった。 とはいえ、「何」が加わればもっと素敵になるのか、私の耳と脳みそでは分からないのだが。

今回の公演で何が良いといって、 分かりやすい演出(マティアス・フォン・シュテークマン)と それを支える美術(堀尾幸男)・衣裳(ひびのこづえ)・照明(沢田祐二)の明瞭な展開。
シュテークマン演出・堀尾美術・ひびの衣装は 『さまよえるオランダ人』でも観ているが、 演出・美術・衣装ともに今回のほうが活きており、成功していると思う。
というのも、この「分かりやすい演出、ちょっとポップな美術・衣装」が、 ジングシュピールの持つ一寸お気楽な感じと上手く噛み合っているのだ。 狼の谷での巨大蜘蛛や飛び交う火の輪、ドイツの森を表す蛇腹の移動型舞台壁面、 そして何と行っても悪魔ザミエルの特撮戦隊モノの悪役ボスのような衣装&照明。
「ファンタジーな昔話ですよ」という演出側の意図がはっきりこちらに伝わってくるから、 観客も迷わずその目線で見ることが出来るのだ。 オペラって今はハイソな雰囲気が強いけれど本来的には娯楽なのだよと、 その面白がり方を見せてくれたのが嬉しい。

そして、それらの明瞭な演出土台の上に、声に張りのある歌手が並ぶ。
森林保護官の娘アガーテ(エディット・ハッラー)の艶やかな美声は本当にすばらしかった。 肉声であれだけ声が響くというのはどういうことなんだろう!と単純に驚いてしまう。
アガーテの恋人で猟師マックス(アルフォンス・エーベルツ)、 その猟師仲間カスパール(ビャーニ・トール・クリスティンソン)の2人は、 朗々たる歌声でハーモニーをつむぎ、その美声で台詞の応酬をする。
声量はちょっと負けるものの 愛嬌ある演技で沸かせるのが侍女エンヒェン(ユリア・バウアー)。 エンヒェンへの拍手が大きかったのは勿論おちゃめな演技への評価。 確かに、アガーテと一緒に歌うと明らかにエンヒェンの声が負けていたものの、 侍女エンヒェンの演技によって恋する乙女アガーテの心理がよりはっきりと立ち上がったことは確か。
ちょい役ながら富裕農夫キリアン(山下浩)も 花嫁に付き添う四人の乙女(鈴木愛美、田島千愛、高橋絵理、中村真紀)も それぞれの見せ場できっちり仕事をし、 隠者は慈愛があふれる。
ラスト、隠者と悪魔ザミエル(池田直樹)が舞台の両袖で場を収めるような演出は「そうきたか!」

今回更に嬉しいのが、物語の結末がオペラにしては珍しく 私にとって納得のいくものだった、ということ。
いやー、これまで私、オペラの物語展開にはさんざんツッコミ入れてきましたからねー。 なんで乙女が祈れば救済されるんだ『タンホイザー』とか、 軍事機密を漏らして逃げるとは何事だ『アイーダ』とか、 結局何がやりたいんだ『トゥーランドット』とか。
それに比べると今回の『魔弾の射手』では王道の展開ながら(だからこそ)納得できる。 射撃の名手マックスのスランプから来る悩み、 うっかり手をだしてしまう魔弾、恋人アガーテの嘆き、 魔弾への誘惑をそそのかしたカスパールの結末、 隠者(妻屋秀和)による執行猶予付きの救いなど、 わくわく&納得の物語。
隠者の「射撃で勝ったものがアガーテを妻にできる、というようなルールは止めるべきだ」 という発言なぞは拍手喝采ですよ。 見た目がジーザス=クライスト・スーパースター(エルサレム・バージョン)だけのことはあるわね。

そうそう。悪魔ザミエルに魂を売ったカスパールが、狼の谷で7つの魔弾を作る時、 「アインス! ツヴァイ! ドゥライ!…」と1から7までゆっくり数えてゆく。
ゆっくりはっきり数えてくれたお陰で、私はドイツ語で1から7まで数えられるようになりましたヨ! ジングシュピール万歳。

採点:★★★☆☆

2008年前半 <<芝居道楽録 <<HOME