ラブ・ロマンス<君を愛してる je t'aime>
私はこんな場面を想像する。例えば、チケット売り場で…
菊花「宝塚雪組3月8日の、東京宝塚劇場のチケットを下さい」
担当者「宝塚歌劇雪組…(検索中)…『君を愛してる je t'aime』でございますね?」
菊花「はい…そうです…」…恥ずかしいから題名言わないでください。
例えば友人との会話で…
友人「昨日はどんな芝居を観に行ったの?」
菊花「え、ヅカだけど」
友人「ふーん。ヅカって今なにやってんの?」
菊花「雪組の公演で…『君を愛してる』っていう…」…題名を聞かないでくれ〜。
なんてこっぱずかしいんだ!単に『君を愛してる』というタイトルだけでもじゅうぶん恥ずかしいのに、冠に「ラブ・ロマンス」と付いて、さらにサブタイトルが「je t'aime」。ジュテーム…。これはもう三重苦だとしか言いようがない。
しかし、逆に言えば、此処まで浮世離れしたタイトルを付けられるのは宝塚歌劇しかなく、これはこれで希少価値を認めざるをえないのだ。そして、その希少価値っぷりをあくまで貫き通す宝塚歌劇の姿勢は、全くもって天晴れである。
さて、木村信司が作・演出というこのミュージカルは、そのタイトルから予想される通り、ラブラブ大爆発であり、しかも観劇中に1秒たりとも脳みそを使わなくてもよい、実に実にお気楽なものであった。
まぁ宝塚歌劇というのは、トップスターと相方の娘役がラブラブ・ハッピーというのが決まりなのだから、周囲がどんなに右往左往しようと、結論は最初から見えている…という事情も確かにある。だが、その宝塚の黄金の方程式を仮に知らなくても、この物語の結末はバレバレなのだ。嗚呼、予定調和の美よ。
幸い私は仕事疲れで脳みそが軽く思考停止状態での観劇だったため、この「脳みそを全く使わなくて良いラブラブハッピー」な舞台は、実に体に良かった。脳みそが崩壊した状態でも理解できる物語、脳みそがとろけ出しそうな状態でも入れられるツッコミ、目を奪われ心揺さぶられるほどベタで恥ずかしい展開。
宝塚歌劇、万歳。
「大富豪の遺産を継ぐことになった上流階級の素敵な青年ジョルジュ(水夏希)と、サーカスの空中ブランコ乗りの娘マルキーズ(白羽ゆり)の身分違いの恋」…今や宝塚歌劇と(読んだことはないが)ハーレクインロマンスでしか出会えないんじゃないか?こんなベタな設定。
しかも、身分を越えて愛し合った青年は、貴族の地位を捨ててサーカスの娘と一緒になった!のではなく、サーカスの娘を貴族の養女にすることで身分を取り繕い、めでたく二人は貴族同士として結婚しました、という展開。おいおい、そういうことなのかよ。愛と名誉(地位)を天秤に掛けて愛を取る…のではなく、両方GETなのだから、乙女の夢というのは貪欲なものだな。
ツッコミどころはたくさんあったのだが、とりあえず5つだけ。
その1)大富豪の長男・水ジョルジュ夏希&クラブの娘達?が歌う「僕は、モテモテ〜♪」「ジョルジュ、モテモテ〜♪」の歌。凄すぎます。私は客席の椅子から滑り落ちるかと思いましたよ。なんちゅ〜歌詞ですか。
いくらトップスターの水夏希が楽しそうに歌っているからといって、それで許されちゃうんですか。ふぅ…、誰も「この歌詞、変えましょうよ」と言わなかったんだろうか。それとももっと違う歌詞だったのを変えてコレなのだろうか。恐るべし、宝塚歌劇。
その2)サーカスの空中ブランコ乗りの娘の「マルキーズ」という名前も、もうちょっとなんとかならなかったのでしょうか。だって、明らかに犬の「マルチーズ」と間違えやすいでしょ。
それにね、空中ブランコ乗りが、ステージ衣装として先端にボンボンの付いた折れ曲がり三角帽子は被らないと思うんだけど? だってあのボンボンは明らかに空中ブランコを披露するのに邪魔だと思うんだが。
で、そもそも空中ブランコ乗りという設定そのものが、かなり苦しいのでは。というのも、舞台上で空中ブランコ芸を披露することが(やってできないことはないだろうが危険だしワイヤー取り付け取り外しの手間があるし)出来ない。このため、マルキーズのサーカスでの場面と言えば、舞台の真ん中に螺旋階段を設置し、中央で「はい!戻ってきました!」とキメポーズをするだけ…なんで。
その3)マルキーズ達の昔懐かしサーカス団 vs アルガン(彩吹真央)率いる明らかにシルク・ドゥ・ソレイユを意識した新しいタイプのサーカス団の、公演に関する意見対立なるものが劇中にあって、これがまた「ほほう!」なのだ。
マルキーズ「昔から何も変えずに、ずっと同じことを続けているから素晴らしいのよ」
…それが宝塚歌劇だ、と。
アルガン「いつまでも同じことをやっていたのでは、観客に飽きられてしまう。古い観客はやがていなくなる。新しいことをやらなくては駄目だ」
…だから、宝塚も新しいことをやりますよ、という宣言なのか?
マルキーズ「サーカスは家族よ。上手な人をスカウトするのではなくて、若手もきちんと育てなくては。それにチケット代が高くなるのは駄目よ!サーカスのチケットは誰もが買える値段でなくては」
…おお!素晴らしい。最低ランク席でも1万円以上、S席だと6万円を超えるチケット代を設定している来日オペラに言ってやって下さい。あ、それから、最近軒並みS席1万円に設定している都内の各種演劇にも!
アルガン「夢だけでは食っていけない。事実、君のサーカス団は財政難なんだろう?」
…だから、自前のハコを持っている宝塚歌劇は強い、と。
ふふふ、面白すぎます、この論戦。
その4)ドビルバン夫妻(一樹千尋・天勢いづる)は、娘セリメーヌ(大月さゆ)を大富豪ジョルジュ君と結婚させたがっている。そして、娘に対してフランスの夫婦とはどうあるべきかを歌って聞かせるのだが、その歌詞がこれまた凄い。
「心の中はどんなに違っていても、愛し合うのがフランスの夫婦♪」…はい?
その5)マルキーズのサーカス団は、パリ最終公演の昼公演で「貸し切り公演」をやってるんですよ。どんだけ身内のイベントなんだ、マルキーズのサーカス団。
そりゃあサーカス団としては貸し切りにするつもりはなかったけど、貴族のジョルジュ君がチケットを買い占めて友人知人お誘いあわせて見に来ちゃっているんだろうけれど…。おいおい、前楽(千秋楽の1つ前の公演)ってそれなりに人気チケットなんじゃないのか? それを買い占めるのかよ。いいのか宝塚歌劇。
そうかと思うと、『君を愛してる』の中で次のショー『ミロワール』の宣伝をちゃっかりしている。ジョルジュ曰く「『ミロワール』僕も観に行こうと思っていたんだ。今日、劇場に行ったんだけど、貸し切り公演だったんだよ!」とのこと。おいおい、『ミロワール』見ている場合じゃないだろ。君はマルキーズのサーカス団の贔屓なんじゃないのかね? まぁサーカスも『ミロワール』も見る、というのを責めるわけじゃないけれど。(かく言う私が節操なしに舞台を観ているんで…。)
ふぅ…。
そういえば、サーカス小屋の外側に描かれていた絵3枚、もの凄く気になるんですけど。というのも、中央の絵が明らかにカンディンスキーなんですよ。左の絵も何処かで見たこと有る感じで…色づかいはマティスっぽいんだけど、絵柄は何となくシャガールっぽくて…。
嗚呼、私がこのミュージカルを見ていて、唯一(1秒ほど)脳みそを使ったのは、此処です。「アノ絵の元ネタは誰の絵だろう?」と。
ショー・ファンタジー<ミロワール 鏡のエンドレス・ドリームズ>
鏡をテーマにしたショーで「ミロワ〜ル、ミロワ〜ル♪」なのだが、後半は「アクア〜、アクア〜♪」な世界に突入。
なんで突然アクア?いくらトップスターが「水」だからってこれは凄いな、と思っていたら、ちょっと違うらしい。というのも、雪組のメンバー5人(水夏希、彩吹真央、音月桂、彩那音、凰稀かなめ)による「AQUA5」というユニットがあって、歌劇団の公演とは別にどこぞで歌ったりCMに出演したりと活動している、らしい。そのAQUA5の活動と本公演とが一体化したわけだ。へぇ。
やっぱり宝塚男役の黒の燕尾服はカッコイイな〜。
ロケット(ラインダンス)を踊っている人達って、全員が同じ衣装に同じ帽子?だけに、体型の差が露骨に出て可哀想だな〜。で、彼女たちの中には思いのほか足が太い人(勿論、世間一般標準ならば充分に細くて美脚)がいるんだな〜。
カッコツケのキメキメで登場するトップスター水夏希は識別できるけれども、他の2番手、3番手…の人達のことはショーだとさっぱり識別できないな〜。え?鏡の裏表のダンスの青年(彩吹真央)と影(音月桂)…えーっ?『君を愛してる』のアルガンと、ジョルジュの友人のお気楽フィラント?!全然、わからん…。じゃあ、駄目駄目青年アルセスト(凰稀かなめ)とか、マルキーズの妹分リシュール(山科愛)や、レオン神父(未来優希)は何処で踊ってるの?…わかんなすぎ。
最後は大階段と羽根でめでたくフィナーレ。あ〜、面白かった。脳みそが疲れている時の宝塚は体に良いわね〜。