自称☆芝居道楽委員会

2008年前半 <<芝居道楽録 <<HOME

ファントマ「えん魔版曽根崎心中」

2008年1月26日(シアターアプル)

ファントマのことは、ハードボイルドとギャグを融合させた芝居を上演している大阪の劇団として(何故か)名前だけは知っていた。その看板女優・美津乃あわは、素顔は地味だけれど化粧をすると壮絶な美人で、しかもセクシー・ハスキーボイスだ、という噂も聞いていた。割引チケットが手に入った為怖いもの見たさで歌舞伎町のシアターアプルへ。

いや〜、これは〜、あはー…。ぎゃふん。……つまんねぇ。

恐れていた事態がダブルパンチで私を襲ってきた。
つまり、ギャグがつまらない+ギャグ以外の場面で物語がつまらない(役者ができていない)=全部つまらない。
ギャグがつまらない。何が可笑しいのか全くわからない。「ちょっと待っておくんなさいやし」の流れ者(伊藤えん魔)とか、「カ○道楽のカ○が、道行く人をはさんでつまむ」そのジェスチャーとか、ことあるごとに「まるでピノキオのように」と言う油屋大番頭とか。だから、何? 声を上げて笑っている人もそれなりにいたが、私の斜め後ろの席では開演15分後くらいには既に鼾をかいて寝ていた人も。
物語を無駄に止めるだけの意味しか無いギャグ。その存在価値、わざわざギャグを挟み込まなければならない理由が全く分からない。

その劇団なりに『曽根崎心中』を解体・構築しなおすことには何の不満も無い。何をやってくれようと、新しい演出によって『曽根崎心中』の物語が、お初(美津乃あわ)・徳兵衛(藤元英樹)の2人が心中に至る、やむにやまれぬ事情が浮き彫りになるなら、その心情がきっちり描かれるなら、それで良い。
だが、心情描写があるべき箇所で照れ隠しのようにギャグが入るのが邪魔なのだ。
なまじっか私が本家の文楽や歌舞伎で何度か観ている『曽根崎心中』だけに、私の中でお初・徳兵衛のイメージがある程度固まってしまっていることは確かだ。だが、別に私は自分が持っている『曽根崎』のイメージが崩されるのがイヤなのではない。それが嫌ならハードボイルドギャグ劇団の舞台なんざぁ、観に行かなけりゃあいいだのこと。
何かやらかしてくれることを楽しみにしたからこそ、私は見に行ったのだ。私が「怖いもの見たさ」でファントマに足を運んだのは、エセ大衆演劇が見たかったからではない。歌舞伎や文楽の『曽根崎』とは全然別の、新解釈で換骨堕胎だろうときちんと『曽根崎』の物語を見せてくれる芝居が見たかったんだ。
これほどまでにつまらない『曽根崎心中』を見たのは、これが初めて。そりゃあ今までの文楽・歌舞伎にしたって、私は徳兵衛というナヨナヨした人物が嫌いだし、物語に対してツッコミばかり入れている。だが、今回は物語にツッコムことすらできないくらい、舞台には何も無かった。

あのね、私、全編のうち約3割は目をつぶっていました。いっそ眠ってしまいたかったけれど、無駄に入る効果音やベラベタにくだらないギャグがうるさくて眠ることもできず。2時間が拷問のよう。

そりゃあ、噂通り、主演女優・美津乃あわは壮絶な美人だったさ。お初・徳兵衛赤い帯紐で互いの腕や首を結んで離れないようにする様子は絵になっていたさ。
けど、違うんだよなー。美津乃お初は、あれは遊女ではない。あの美貌と気っ風は女王様のものだ。ちーっ、いっそSMクラブの設定にすれば良かったんじゃないのか?

何がいけないかと言って、一番気に入らないのは藤元英樹徳兵衛。全く着物が似合わないうえに、いつも顔がしかめっ面で、とてもじゃないが下っ端商人に見えないということ。歌舞伎で言えばニンじゃない。
そう、まるで(見た目だけで言えば)松本幸四郎が白塗りの軟弱男・徳兵衛を演じているような感じ。うわー、似合わねぇー、見たくねー。あ、そうか。私がM本K四郎が嫌いだから、それでますます藤本徳兵衛が納得できなかったのだな。嗚呼そうか、そうか。

例えば、初めてお初に出会う場面。「勝手にしろ」とばかりに体を開くお初の裾を、徳兵衛はそっと直してやる。これ、優しさが出る場面だと思うのだが、藤元徳兵衛を見ていると「実はこいつ、深い策略があって、今はお初を抱かないだけなのでは?」と疑いたくなってくる。だって顔が才走っているんだもの。
真面目・堅物の徳兵衛、という人間像でも構わないのだが、では何故そんな男がお初との深みにはまっていったのか、その過程が全く見えてこない。
だいたい、全体的に全くエロさが無いのも猛烈に不満。
「徳様の死ぬる覚悟が聞きたい」の場面、徳兵衛は自分の首にお初の足首を当てて「死のう」と答えるのだが、この場面のなんと形式的なことか。あの場面でエロが出せるのはやはり芸の力なのねと、改めて歌舞伎・文楽の役者達の技量を再認識。

久々に、猛烈にがっかりした舞台だった。

採点:★☆☆☆☆

2008年前半 <<芝居道楽録 <<HOME