篠井英介のブランチが見たくて出かけた。
結果的には、スタンリー(北村有起哉)&ステラ(小島聖)もなかなかやるじゃん!と満足はできたのだが。だが、だが、だが。
なるほど素敵なブランチだったのだけれど、でもね、どうしてもね、北村スタンリー&小島ステラと比べて年齢が1回り上のブランチになっていて、痛い。特に、篠井ブランチが北村スタンリーと対峙すると「30過ぎのオールドミス」ではなくて「40過ぎのオールドミス」に見えてしまうのだ。
そりゃあ実際、北村有起哉は1974年生まれ(33歳)、篠井英介は1958年生まれ(49歳)だもんね。身長も(ヒールのせいもあるかもしれないが)篠井ブランチ>北村スタンリーだし。篠井ブランチが40代前半に見えたのは、女性としては羨ましいと言うべきなのかもしれないけれど。
問題はそういう実際の年齢云々ではなくて、芝居の質とか貫禄とかに関わってくることなのだと思う。決して北村スタンリーが悪かったとは思わないし、それどころか予想以上に北村有起哉のスタンリーは良かったのだ。だが、そうであっても尚、圧倒的な篠井英介のブランチの前にあって、北村スタンリー&小島ステラが子どもに見えてしまう。時々、篠井英介の独り相撲になっていたし。だとすると篠井英介にとっても、北村有起哉や小島聖にとってもかわいそうなことだ。
北村スタンリーと小島ステラは、弱気になって泣いたりすがったりする場面がことに良かった。
自分達の生活を守るために筋肉と罵声でブランチと対峙するスタンリー。夫スタンリーの助力無しでは支えきれないほどの大きな存在である姉ブランチを、懸命の笑顔で支えるステラ。その懸命の模索が破綻しかかったときに見せる悲壮な表情。
例えば、北村スタンリーが「姉さんが来るまで、俺達は楽しくやっていたじゃないか」と小島ステラにすがりつく場面。ラスト、ブランチが病院の人たちに連れてゆかれるのを見送り、小島ステラが「姉さん…姉さん…」とか細くつぶやき泣き崩れる場面。(そういえば、全く同じ場面で、寺島ステラしのぶは絶叫したんだった。)
観客として、完全にブランチ側につくとこも、あるいはブランチに完全に対立することも出来ず心がグラグラしている時、このスタンリー&ステラの弱気が響いてくる。
ブランチ、ブランチ、ブランチ。かわいそうなブランチ。
ミッチ(伊達暁)があんな男だなんて。ってゆーか、伊達ミッチ、台詞も演技もダメすぎ。演出の鈴木勝秀は何故あんなミッチで許しているのだろう。
デートの後、アパートに戻ってきての「僕、体を鍛えているんです。腹筋凄いんです。お腹触ってみてください」というミッチの発言。そりゃあアレは台本にある、そういう台詞だけどさ。でも、その台詞が「どこのお笑い芸人ネタ?!」と場内の失笑を買い、「明らかに空気読めないトンデモ発言」として場内に冷めた空気が吹き荒れるのはどうしたこと。
篠井ブランチが、こんな無能な伊達ミッチを好きになるなんて、あ・り・え・な・い。
新聞集金の若い男(Takuya)は、しどころが少ないなりに役目を果たしていて好印象。いっそミッチと役を代わってもらいたかった。
ブランチの悪い噂がミッチの耳にも届き、ミッチがブランチを罵った挙句暴力的になる場面。ブランチは大声で叫ぶ「火事だーっ!火事だーっ!」
で、私は思い出した。まだ私が幼稚園児だったころ、ハハは私に言った。
「お家で留守番していて泥棒が入ってきたり、街中で知らない人に誘拐されそうになったり、そういう危険が身に迫ったときはどんな危険であっても『火事だ!』って叫ぶのよ。『火事だ!』と聞いた近所の人は、何処が火事なのかしら?と思って必ず外を見るから、あなたの事に気づいてくれます。
でも『泥棒!』とか『助けて!』とか『人殺し!』とか言っても駄目。近所の人は子どもがふざけて叫んでいると思うかもしれない。本当だと思ってくれても、刃物を持った男が自分に向かってくると思って、外を見ないかもしれない。
誰かにこっちを見てもらうための言葉が『火事だ!』なのよ。『火事だ!』と叫んで誰かがこっちを見てくれたら、その時その人に向かって『助けて!泥棒です!』って言えばいいの。わかった?」
そう、だから、つまり、ブランチは咄嗟の危機にぶつかって、適切な言葉を迷いも無く叫んだのだ。「火事だ!」と。
でも、この「火事だ!」という台詞は、イザという時にそうそう簡単に口をついて出るものではないはず。とすれば、瞬時に「火事だ!」と叫んだブランチは「火事だ!」と言い慣れていたのだということがわかる。
「火事だ!」と言い慣れていたということはつまり、ホテルのあの騒ぎも…なんだよね。
美しいものを美しいものとして愛でることが許されないというのは、なんと切ないことだろう。