自称☆芝居道楽委員会

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パルコ劇場「新」スタンダードシリーズVol.4
「トーチソングトリロジー」

2006年12月5日(PARCO劇場)

女装したアーノルド(篠井英介)のモノローグから始まる舞台。もう、これだけで篠井ワールド炸裂。「この脚本って篠井アーノルドを想定した当て書きだよね」と思えてしまうほど、全ての台詞が自然。「アレは台詞ではなくて、篠井が実際に思っていることを、今この場で喋っているんだよ」と隣の席の人に言われたら「だよね、やっぱり」と鵜呑みにしてしまいそう。
女装することについて、ゲイについて、ストレートについて、愛について。そこにあるのは真実の言葉だと思った。この言葉を覚えていたら人生の節目節目で役立つ指針となってくれる気がして、アーノルドの言葉を覚えようとしたけれど、あまりに覚えておくべき名言が多くて結局何も覚えられなかった!(←アホ。)

バックヤードで「無言の男」とヤル場面は、篠井アーノルドがウケ役の一人芝居。絶妙な運動、想像力をかき立てる仕草、喋り続けるアーノルド。言いしれぬ可笑しさとセクシーと悲哀が混じって、いかにもその場限りのバックヤードを見せてくれる。
ああ、それから、アーノルドのウサギちゃんの室内履き。シンプルで可愛い!あの室内履きを違和感なく履ける篠井英介って、スゲエ…。

篠井アーノルド♂の恋人であり、後にはローレル♀と結婚するバイのエド♂(橋本さとし)。ナイトクラブでアーノルドを口説き、結果的には「お持ち帰り」になるわけだが、この一人芝居に味があった。
ずば抜けた演技力が有るとも、また、主役に並ぶ華があるとも思えないのだが、助演というポジションを心得た美味しい芝居をしてくれる。そこココで見え隠れするシャープな動きは、ミュージカルや新感線で鍛えたのだろうか?
にじみ出る愛嬌は橋本という役者のものなのだろう、その自然とわき出るエドのキャラクターによって、アーノルドの心がいかに安らいでいるかが目に見えて分かる。気持ちがうろうろしていて落ち着かない面があるくせに、イイヤツなんだなー、橋本エド。

エドの恋人・ローレル(奥貫薫)。
2幕冒頭にアーノルドとの電話の場面(声のみのアナウンス)があるのだが、これが壊滅的に台詞チックで嘘くさい。電話口であんな喋り方をする人なんかいないでしょ。それは館内放送用のウグイス嬢発声でしょ。
エドとの芝居はそれでも何とかなっているが、篠井アーノルドとの対決や、アーノルド♂の新恋人・アラン♂を誘惑する場面などは実に退屈。

アラン(長谷川博己)もさっぱりイケない。
何が良くないといって、アランの感情がさっぱり見えないこと。篠井アーノルド♂の前の恋人である橋本エド♂に対して、アーノルド♂の現在の恋人である長谷川アラン♂が嫉妬するのは当然なのだが、その根底に流れているはずの感情の渦が全く見えない。芝居では時折感情を押し隠した人物が登場するが、アランはどうもそういう設定の人物にも見えないし。なんでこんな少年をアーノルドが愛するのかよく分からない。

アーノルドの養子・デイビッド(黒田勇樹)も、びみょー。
明るい青少年としてはそれっぽいし、笑顔を武器に出来そうだから男娼として稼げるだろうことも想像できる。が、それは黒田という役者の外見のことであって、芝居となると、さて。夜のベンチでアーノルドに対して人生を語る場面、説得力が…、うーん。

アーノルドの母親であるベッコフ夫人(木内みどり)。あああ、どっかで、この役者は見たことがある。こーゆーふーに、子どもの発言には耳を貸さないくせに「私はやり方をわかっているのよ」と善人ぶった台詞を吐く、そういう役で観たことあるハズだけど何だったっけー?とさんざん悩む。
答えは今年2月の『ガラスの動物園』@新国立劇場でした。
相変わらず自己完結した役と自己完結した芝居で、2日後に東京公演千秋楽を迎える段階でも台詞をかんでいる狼狽え?ぶり。が、このちょっと場に浮いた感じとか、息子・篠井アーノルドと会話が噛み合っていない感じは、それなりに芝居に合っていて(ラストは)良かったかも。

物語は基本的に1対1の対話で進んでゆく。篠井アーノルドと橋本エドの会話が、聞いていて&観ていて一番安心するし、安定している。
篠井・橋本以外の役者に関してはお世辞にも上手いとは言いかねる部分が多く、「とほほ…」な気持ちになることも何度もあった。が、そんなときでも後ろ向きにならず、篠井アーノルドの芝居を追っていると(というか目は自然と篠井アーノルドか橋本エドを追ってしまうのだが)、下手な台詞を言っている人物がフッと消えて、アーノルドの世界が広がるのだ。2幕で2組の恋人達がくんずほずれつ対話する場面でも、3幕でアーノルドが新しい家庭を維持するために戦う場面でも、常にアーノルドの意識がそこを支配する。
仮に舞台上に篠井英介の姿はなくとも、篠井アーノルドという主軸が舞台に物語にしっかりと立っているから芝居がぶれない。
主演俳優と助演俳優の力を見せつけられた。

ゲイだから?バイだから?ストレートだから?…そんな区別は愛の前には何の益もない。
アーノルドが女装してナイトクラブで歌うのはトーチソング(悲恋の歌)だけだという。でも、どんなに悲しい恋をしても寂しく愛を失っても、アーノルド自身の中には尽きること無い「愛する気持ち」があって、それを抱きしめている限りアーノルドは大丈夫なのだと思う。

アラン  「ひとつ聞きたいことがあるんだけど」
アーノルド「答えはYes」
アラン  「まだ何も聞いてないよ?」
アーノルド「質問が何であっても、答えはYes」

うわーっっっっ!こんなこと言われたら無条件で惚れるぞ。

生演奏のピアノと歌はエミ・エレオノーラ。
これまた何処かでお目にかかったハズと思ったら、2004年の三上博史主演『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』@PARCO劇場で、女装を禁じられたドラッグクイーンの役でしたね。
今回もハスキー・セクシーな歌声と、ナイトクラブっぽいジャズでシャンソンでギラギラしたピアノ曲を聴かせてくれた。篠井アーノルドとのアイコンタクトなんかは、ちょっとそこいらの芸人では出来ないような灰汁と艶があって、舞台の濃密な雰囲気を更に濃厚にしていた。この人のソロ演奏会があったら怖いモノ見たさで覗いてみたいですな。

採点:★★★★☆

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