自称☆芝居道楽委員会

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TPT「黒蜥蜴」

2006年11月28日(ベニサンピット)

ベニサンピットは200席程度の小さな劇場。椅子のクッションは薄いし、そもそも椅子が狭いし、なんたって元は工場だし、よってトイレは劇場の外にあるし、ロビーも狭い。知名度の低い劇団がここで公演をうつこともあるが、今回は違う。
チケット代は全席指定8000円、公演期間は約1ヶ月。あの圧倒的なオーラを持つ麻実れいが、目の前で黒蜥蜴を演じるのである。嗚呼!麻実れいの緑川夫人が、黒蜥蜴が、目の前に現れてくれるなら、ベニサンピットの椅子に3時間など我慢しちゃいますわ。

そして。めくるめく3時間でした。あっという間の3時間。ええっ?もう終わりなの?という3時間。

最近では黒蜥蜴と云えば美輪明宏というイメージが定着。三島由紀夫版『黒蜥蜴』を上演するには美輪明宏の許可が必要なんじゃないか?!という下郎の勘ぐりをしてしまうのだが、いやいや、美輪様に独占はさせませんよ。
というか、麻実れいの黒蜥蜴を観てしまうと、美輪様は、ちょっとね、お肌の張りが…(以下自粛。)
麻実れい(1950年生まれ)のお背中は、『マンマ・ミーア!』のビバリン(前田美波里/1948年生まれ)に負けず劣らず素敵でした。すらりとした長身で、しっかり筋肉が付いていて、首から肩・背中のラインにも隙がなくて、当然の如く脚もひきしまっている(黒蜥蜴は裾を引きずるドレスなのではっきりと脚が見えたわけではないが)。 君臨するにふさわしいお姿です。

緑川夫人の、女賊・黒蜥蜴の言葉の一つ一つが、完全に麻実のものになっている。本当に麻実が今この場でそう思って、そういう言葉を喋っているよう。タバコを吸う仕草も、宝石を愛でる様子も、裾を引くドレスのさばき方も、遠くを見つめる目線も、部下達のあしらい方も、全てが黒蜥蜴になっている。
目の前に人物が存在する、その圧倒的な存在感と説得力。

対する明智小五郎(千葉哲也)。
配役を聞いた時は「へ?誰だっけ?それ?」と思い、インターネットで検索をかけて「舞台、観たこと無いな、たぶん。で、こんなフツーのオッサンが明智なの?」とがっかりした。(だって、ほら、美輪様の場合は明智役に若手二枚目俳優を起用するじゃないですか。)
そういうわけで、申し訳ないが千葉の明智小五郎には全く期待せず、「麻実黒蜥蜴に飲まれなければ健闘だな」と、思っていた。

実際、ホテルのシーンで初めて登場した時は「えーっ?もろ、オッサンじゃん!しかも、黒革のスボンですか!」と軽くひき、しかも「ヒールの麻実に身長確実に負けてるよ…とほほ」となった。しかしその後、探偵のロマン、トランプ、早苗誘拐の真相を暴く場面と観てゆくに従い、千葉小五郎がある意味可愛いチョイワルおやじに見えてきたのだ!
やるじゃないか、千葉小五郎。
東京タワー事件の前、弟子達に冷やかされながらも明智が黒蜥蜴への思いを語る場面がある。そして下手側の明智と、上手側の黒蜥蜴の交互の台詞が重なって「勝つのは、私」となるあの瞬間。麻実と千葉のがっぷり四つが見事に完成され、宿敵として強い想いの対象としての探偵と女賊がくっきりと立ち上がった。

こうなると最後の黒蜥蜴の服毒まで怒濤のように物語は転がってゆく。
いつもは超然としている麻実黒蜥蜴が、優しい微笑みをたたえつつクッションに寄りかかってまどろむ形の美しさ。
青い亀(浅利香津代)のテキパキと心地よい働き。
嫉妬に狂う美少年・雨宮(山崎雄介)の、いっちゃってるっぷり。
ヴァイオリン弾き・侏儒(片岡正二郎)の、表情豊かなパフォーマンス。
庶民出身宝石商・岩瀬(清水絋治)の、びみょー。
この世の宝石として育てられたお嬢様・早苗(宮光真理子)の、つきぬけた高飛車。
黒蜥蜴の遺体を見つめ「本物の寶石は、もう死んでしまつたからです」とつぶやく千葉小五郎の、予想外のかっこよさ。

カーテンコールでは、こぼれるような笑みをたたえた麻実れいが、膝を折って深々とお辞儀をする。女王様だっ!

採点:★★★★★

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