だはははは。もう、笑っちゃうしかないくらい、変な話。
そりゃまあ、ミュージカルに限らず、オペラ(例えば『トゥーランドット』)、バレエ(例えばモナコ公国モンテカルロバレエ『シンデレラ』)、歌舞伎や文楽(例えば『天網島時雨炬燵』)などには、変な話は多い。いや、物語に変な要素が無い舞台を見つけるほうがあるいは困難かもしれない。だって冷静に考えて、劇的な事件に巻き込まれている人達の行動って、やっぱりどこか変なわけだし。
しかし、「変な要素はあるものだ」という前提にたっても尚、このミュージカルの物語は変な要素が大きすぎる。わはははは。
何が変って、ヒロインである18歳の宿屋の娘サラ(大塚ちひろ)の行動原理が変!
まず、宿屋の共同風呂(大浴場ではなく個室タイプ)を利用するときにドアに鍵をかけないのはどうかと思う。警戒心ゼロというか、あけっぴろげというか、幼稚というか。
結局、サラのお父さん=宿屋の主人シャガール(佐藤正宏)に「勝手に風呂に入るな」としかられるわけで、そりゃあ当たり前だろ。
サラがお風呂が好きで、愛用のボディー・スポンジを持っているのは構わないが、一目惚れの相手であるアルフレート(泉見洋平)に「このスポンジとっても気持ちいいのよ!あなたにあげるわ。私はもう1つ持っているし」って…そういう問題ではないのでは…。
しかも、そのスポンジを渡す場所がお風呂場って…。しかも、しかも、スポンジを渡されたアルフレートが、どぎまぎしているところへ「お願いがあるの。今、あなたがしたいと思っていることを、して。私もそうしたいの」って…。ええ、もう、ね、大胆に誘ってるなーと驚くしかないわけです。
「待っててね、今、脱ぐから」マジっすか!…まだろくに手も握ってないのに一足飛びですか!と思ったら、そのままサラはお風呂に入りましたよ。アルフレートの目の前で。しかもまろやかな泡にご満悦でハミングしてますよ。何者だ、こいつ。視野狭小? …天然?
えーっと。ちなみにアルフレートはウブな青少年なので、サラと一緒にお風呂に入ることなど当然せず、顔を真っ赤にして風呂場を出るのです。
そんなサラのもとに、吸血鬼であるクロロック伯爵(山口祐一郎)から舞踏会への誘いがひそやかにある。招待状のかわり?にサラに渡されたのは赤いブーツ。18歳の女の子はモノに弱い。舞踏会! ドレス! 赤いブーツ! 自室の枕元にはニンニクの首飾り?が3連掛けてあるにもかかわらず、サラは舞踏会へ行く気満々。
ヘタレなアルフレートと、風呂好きサラは互いに憧れの存在について歌い上げる。こげ茶色でちょっとカールした長い髪、白いワンピース姿のサラが「もっと自由に!」と歌う箇所など「おいおい『エリザベート』か?!」と軽く突っ込みたくなる。
が、サラの願う自由とはエリザベートの願う自由とは質が異なる。
アルフレート「もっと自由な世界が見たい。もっと自由に♪」
サラ「お風呂に入れる♪」
…え。結局それなんですか…。自宅だと自由にお風呂に入れないから、それで家を出て(クロロック伯爵からの誘いもあることだし)、自由にお風呂に入る権利を勝ち取る、と。そういえばエリザベートもミルク風呂にはまってた時期があるな。
あ、そうそう。1幕目でどうしてもツッコミたいこと。
宿屋の主人シャガールが吸血鬼に血を吸われた事がわかり、彼が吸血鬼化けしないようにとアプロンシウス教授(市村正親)と軟弱助手アルフレートはシャガールの死体に白木の杭を打ち込もうとする。
だが、いざ打ち込もうとしたら、そこに寝かされていたのは宿屋の主人シャガールではなく、ナイスバデーの女中マグダ(宮本裕子)。シャガールは既に吸血鬼となっており、教授と助手に襲い掛かる。アプロンシウス教授と助手アルフレートはこれを何とか防ぎ、逆に「杭を打ち込まれたくなかったら、クロロック伯爵の館へ案内しろ」とシャガールに取引を持ちかける。シャガールは命惜しさに伯爵邸への案内を快諾し、教授と助手はシャガールの後について伯爵邸を目指す。
あのー、もしー、おーい、すみませーん。宿屋には、吸血鬼となったシャガールに血を吸われた女中マグダの死体が残っているんですけど?これには杭を打たなくていいんですかね?
とにかくサラは天然風呂ボケ娘なので、伯爵邸についてからも大喜び。
真っ赤なドレスを伯爵からプレゼントされたことも嬉しいのだが、ゆっくりお風呂に入れることがことに嬉しいらしい。自宅から持参した例のボディ・スポンジを使って、ハミングしながら風呂に入る。
サラを連れ戻そうと伯爵邸に来たアルフレートは、サラの声に誘われてお風呂場へ。ウブでヘタレなくせに遠慮の無いアルフレートは、浴槽のカーテンを開け、泡まみれのサラとご対面。「あ、ごめん!」じゃねーだろ、あほか。
サラも「きゃーエッチ!」くらい言えよ。
こういうのも一種のバカップルなのだろうか。若い子達の心理と行動ってわからない。
それにしても、ラスト5分には吃驚。
物語の展開としてはありきたりで(多少コミカルな演出になっているが、それは香辛料のひとつ)、最後の5分直前まで「えー、なんてベタな展開!」と舌打ちしていた。
だが、最後の5分で「どひゃー、そうきたか!それで『ダンス・オブ・ヴァンパイア』なのか!」な展開へ。シュールなのか脳天気なのか判断に苦しむ。が、最後のこの5分を楽しむために、それまでのベタな展開があったのかと思えば、それはそれで天晴れと言うしかあるまい。
ヴァンパイア・ダンサーにはそれなりに踊れる人をそろえている。山口クロロック伯爵、市村アプロンシウス教授、シャガール佐藤と歌える人もそろっている。
だが、それらの美点をすべて覆す、あまりにも多くの事柄。
例えば、帝劇のロビー天井に吊られていたうさんくさい蝙蝠の玩具、ラストの演出、アプロンシウス教授のコメディアンぶり、クロロック伯爵の息子・ヘルルト(吉野圭吾)がゲイ・・・というかオカマ?という設定。そして、圧倒的に変なのが風呂好き天然少女サラ。
B級ミュージカル・コメディーを狙っているのだろうか? いや、だが、しかし。嗚呼。