自称☆芝居道楽委員会

2005年後半 <<芝居道楽録 <<HOME

燐光群「パーマネント・ウェイ」

2005年12月1日(シアタートラム)

デイヴィッド・ヘアーによるドキュメンタリー・ドラマ(英国流に言えばヴァーベイタム・シアター)である。しかも、今年日本でも不幸な話題になった鉄道事故を扱ったものだと聞き、俄然興味が沸く。何となく名前だけは聞いていたが未見の劇団・燐光群ということもあり、いそいそと劇場へ。

そういえば、デイヴィッド・ヘアーの作品は1997年『スカイライト』@新神戸オリエンタル劇場、2001年『ブルー・ルーム』@ベニサンピットと観ていて、これで3作目になる。『スカイライト』は観たということしか覚えていないくらい「ぽっかーん」な舞台だったが、『ブルー・ルーム』は今でも熱くアレコレを語れるくらい印象的な舞台だった。果たして今回はいかに?!

劇場に足を踏み入れて「ほぅ」と思ったのが美術。場内は舞台を取り払い、中央に線路とフェンスを再現。その線路脇に客席が設けられている。最前列の観客は舞台と地続き。これはちょっと面白い。
但し、パイプ椅子に休憩無しの2時間以上座り続けるのは、ちょっとお尻に優しくないけどね。

舞台は3幕で展開される。(と言っても、途中休憩や暗転による場面転換無しの上演だが。)
まず、乗客9人がどわーっと登場して現在の鉄道についてあれこれ勝手に語る場面。続いて、英国で実際に起きた鉄道事故(1997年9月19日サウソール、1999年10月5日ラドブルク・グローヴ、2000年10月17日ハットフィールド、2002年5月10日ポターズ・バー)の関係者達の証言を再現する場面。最後に再び最初の場面に戻って9人の乗客が語る場面。

最初の場面が、本当に意味が分からなかった。
開演前、場内にずっと流れ続けていた鉄道のカタコトカタコト音が、暗転とともに大きくなったかと思うと、ガッシャーン!という大音量が響き、それと同時に乗客9人が奥から飛び出してくるような形で舞台が始まる。
鉄道事故に巻き込まれ、逃げてきた人々なのかなと思ったのだが、台詞を聞いているとそう切迫しているようにも聞こえない。なるほど、この出だしから既に、鉄道事故関係者の証言のアレコレを抜粋しているのだなと気付いたのは、かなり時間が経ってから。それに気付いたからとて、彼ら語っていることが見えてくるわけではない。どうやら英国の現状を語っているらしいが、語っている人物の寄って立つ場が見えてこないから、台詞が一つも伝わってこない。 会場で配布されたパンフレットを、開演前に軽く読んでいたにもかかわらず、である。
勿論、その程度の付け焼き刃の知識では対抗できない深遠なことを語っている、というわけではなく、これはひたすら演技(技量)の問題。そのうえ、妙なところでエキサイトして椿をチラシながら何かを訴える人まで出てきては、困惑せざるをえない。
全員の動きを目で追うのもだるいので、観るのは目の前にいる役者だけ、視界に入らない位置にいる役者については台詞を聞くだけにしてしまいました。ぶっちゃけ、観てらんない、ってことですかね。
すいません、何がどうなっているのか説明してください。私、日本の情勢ですらおぼつかなく、英国の事情など…。

関係者達の証言が断片的に描かれてゆく場面に入って、ようやくこちらも集中して観る気分になる。
それでも最初の大蔵省高官(猪熊恒和)や元運輸省高級官僚(鴨川てんし)、ジョン・プレスコット副首相(川中健次郎)等のやりとりには、頭が着いて行けず。実業家(川中健次郎)、ベテラン鉄道技師(内海常葉)と民間運行会社鉄道重役(中山マリ)あたりになって、ようやく展開が見えてきて、舞台も落ち着いてくる。

だが、線路作業員達(杉山英之他)の場面の「俺たちの給料は××ポンドだが、世の中には△△ポンド稼ぐ奴もいる」といった、英国にとってはリアルな台詞も、英国の貨幣レートや物価を知らない日本人には逆に伝わりにくい。それは、その後何度か出てくる鉄道事故の様子を語るさいの言葉、例えば「キングス・クロス発リーズ行きの急行が、その区間の最高許容速度である時速115マイルでカーブにさしかかった際に脱線」等も同じこと。キング・クロスってどこ?時速115マイルって何キロ?な私には実感として状況が理解できない。(パンフレットによると、時速115マイル=時速184キロ。)
英国モノの翻訳劇であり、しかも事件関係者の証言を再現するドキュメンタリー・ドラマである以上、貨幣や距離等の単位等を日本人向けに平易にするわけにはいかないのだろうとは思う。
しかし、細かいこととはいえ不明瞭な箇所が重なることで、その細かいことに気を取られてしまい、ますます主題に追いつけなくなっていくことは確かである。勿論、上演する側もその点が不安だったために、解説付きパンフレットを配布したのだろうが。

舞台を安心してみていられたのは、英国鉄道警察官(大西孝洋)と遺族母1(渡辺美佐子)、被害者グループ創設者(江口敦子)、遺族母2(渡辺美佐子)、レイルトラック取締役(猪熊恒和)、スコットランド人文学編集者(大西孝洋)。あ、つまり、大西孝洋、渡辺美佐子、猪熊恒和が良かったってことですね。江口敦子は次点かな。
この3人は台詞をしっかり噛みしめていて、極度に感情的になることもなく、それでいてその台詞をデイヴィッド・ヘアーに語った人物のそれらしさが滲んでいた。単なる書かれた台詞ではなくて、それを実際に語った人物の言葉になっている。それでいて、どこか客観的に語っているようなところもあり。すっと言葉が耳に入り、心に染みてくる感じ。それは佇まいもしかり。
そりゃあ確かに遺族母2の「あなた方(鉄道関係者)が私たち遺族のことが怖いのは、私たちが利益に関係なく動いているからだわ」とか「私たちは誰かを責めようとかいうんじゃないの。二度とこんな事件が起きて欲しくないから、事実を解明したいだけなのよ」といった台詞には、あまりにソレが正論過ぎてイライラした。でも、それって、イライラさせるだけの力がある台詞だったということ。ラストで遺族未亡人(中山マリ)が「私たちの関係はヒステリックな友情だった」と言うが、将にその静かなヒステリックぶりが出ていたのが遺族母1の台詞だった。上手いな、うん。

せっかくその世界にはまっていたのに、再度乗客9人がわらわらと出てきて、物語は混乱するような収束するような。ふーむ。
じわんと面白かったのだけれど、随所に引っかかるコトもあり。かくも舞台は難しく面白い。

採点:★★★☆☆

2005年後半 <<芝居道楽録 <<HOME