山下洋輔/栗山和樹編曲:<ピアノ協奏曲1番 即興演奏家のための“ENCUNTER”>
いわゆる現代音楽というのはどうも苦手だ。不協和音が連続したり、一体的な曲調がなかったり、そもそもどういう曲なのだか意味不明。何をどう聞けばよいのか分からなくて困惑したあげく、体が拒否反応を起こしてしまうのだ。
この曲の最初のフレーズを聴いたとたん「やばい、駄目かも」と思う。何が何だかさっぱり理解できない、何が起きているのか、どうしたいのか落としどころがさっぱり見えない。そもそもこれが曲なのか、音楽なのかどうかも判然としない。いったい譜面には何が書いてあるのだろう?まさか「テキトーに延ばす」などと書かれているのでは?と不安になる。
だが、そんな曲なのにいつの間にか面白くなってくる。小柄な山下洋輔が、体をピアノに叩きつけるようにして演奏する様子、ベースがぷるぷるしながら弓を振るわせる様子、でっかい拍子木のような打楽器等、目で見て楽しめるのだ。ピアノ独奏の箇所で、指揮の佐渡裕が振り返るようにしてピアノに視線を送る姿もなんだか可愛い。
それまではリズムを追うことなど不可能だった曲なのに、第3楽章の後半からは体が曲にあわせて反応してきた。第4楽章から登場した和太鼓(植村昌弘)の丸みと冴えのある音が高速で響き渡り、山下のピアノと絡み合う場面などは、震え上がるほどの凄みと遊びがある。ありがとう、山下。
アンコール:デューク・エリントン<スウィングしなければ意味がない>
音楽するのが楽しくて楽しくて仕方がない山下の、その子供のようにはしゃいだ、洒脱で自在な演奏ぶりに引き込まれるアンコール曲。
ホルスト:組曲<惑星>
嗚呼、これを待っていたのだ。圧倒的なパワーで始まる、ホルスト『惑星』。その曲を、大汗をかきながらの派手な指揮ぶりで有名な佐渡裕で聴きたかったのだ。
そして、予想を大幅に上回るアクションで佐渡は指揮棒を振った。
佐渡裕、横向きになる。
佐渡裕、腕を振り回す。
佐渡裕、しゃがみ込む。
佐渡裕、腰を振る。
佐渡裕、飛び跳ねる!
その指揮に応えて大熱演のN響。チェロのソリスト(?)は、髪を振り乱し、打楽器奏者は舞台後方で駆け回り、金・木管楽器は顔を真っ赤にして息も絶えよと吹き続ける。
大艦隊が整然かつ悠然と、しかし臨戦態勢で戦闘区域に入り込むような『火星』、その勢いを飲み込んで尚広大に広がる『金星』、ちょこまかと可愛らしく音符が交差する『水星』、天地の全ての動きを讃えるような『木星』、深淵として堂々たる『土星』、星々のきらめきを見せつけるような『天王星』。ほとばしるエネルギーと情感とイメージ。大宇宙のあらゆる法則がこの音楽の中に織り込まれているよう。
『海王星』のラスト、遠くからコーラスが響く。2階下手側の、廊下と客席を隔てている扉が開いており、そこからコーラスが聞えてくる。廊下で歌っていると思われる声は、遠いのだが明瞭で客席内に美しくこだまする。その声が扉を閉めることによって小さくなり、しかし扉が完全に閉められてもどこか遠くで響いている。その染み入るような歌声がフェードアウトし、さらに残響も消えて全てが体内に吸収されたところで終曲。場内が息をのみ、数秒後、我に返って盛大な拍手を送る。
言葉にならない美しさ。圧倒的な音楽を前にして、言葉など野暮でしかない。そもそも言葉というものは、音楽に太刀打ちできないのではないかと思う。こういう時間・こういう場所に巡り会ってしまうから、芝居(舞台)道楽は止められないのだ。今年上半期を締めるにふさわしい最高の演奏。
ホルスト万歳。佐渡裕も山下洋輔もN響も植村昌弘も東京少年少女合唱団も、東京オペラシティー・コンサートホールも、あの場に居合わせあの場を作った全ての人、みんな大好き。愛してる!