ブロードウェーのショービジネス界でその名を知られるプロデューサー・吉井久美子を追いかけた番組を、先日見た。その番組において吉井が力を入れて売り込んでいたミュージカルがこの『Big River』だったのである。正直言って『ハックルベリー・フィンの冒険』という物語自体は全く興味が無かったのだが、この女性が一押しする公演なら観る価値があるかなぁと思った。
しかし、公演チラシはなんだかさっぱり冴えないし、「全米が感動した!」系のキャッチコピーには「聞き飽きたよ」と拒否反応が出るし、山手線のドア上映像CMも「だから何?」って感じで、ちっとも心が動かない。いったい私にどうしろと?!という状態だった。
それでも、某演劇サイトでこの公演を大絶賛してるいコメントを読み、感動の嵐は3割引で受け止めるとしても観て損は無かろうと重たい腰を上げる。しかも、公演直前割引チケットを販売していたしね。まぁ、それだけ売れ行きが悪いってコトだ(苦笑)。
そうこうして劇場に足を運ぶことにしたのに、観劇当日は大雨なんだから、やんなっちゃう。スニーカーは雨を含んで5割増?の重さだし、靴下は絞れちゃうし、足下からすっかり冷えてしまった。これで舞台がダメダメで、風邪でもひいた日には、関係者を訴えたくなっちゃうね!(思わず口調も変わっちゃうよ。)
客席は、大雨で外出を諦めた人を差し引いても「何だこりゃ?」の入り。はっきり言ってこれだけ客席がカスカスだと盛り上がるに盛り上がれないし、出演者に対しても失礼だろう。このまま舞台を隣の青山円形劇場に移して満席立ち見で見た方が良いんじゃないかと、真剣に考えてしまった。
物語は『ハックルベリー。フィンの冒険』で、それなりにそれなり。
そうそう、この舞台は、聾者と健常者の俳優が場合によっては「二人一役」で役を演じ、振り付けが手話というミュージカル。聾者が本役(?)で舞台で台詞(手話)を語っている時、基本的に声を当てている俳優(健常者)は、客席に向かって後ろ向き、あるいは舞台の2階部分から声を当てるというようにちょっと隠れている。ちなみに、ハック役者は聾者なので、マーク・トゥエイン(ダニエル・ジェンキンズ)がマックの声を当てている。この二人一役が、物語に何とも不思議な奥行きを作る。
それが面白く出ていたのがハックの父。この役だけは本役(聾者)と声役(健常者)が同じ衣裳で舞台に登場し、二人で同じように芝居をし、二人がががりでハックを翻弄する。しかもハックの父は大酒のみの困った奴なので、それが舞台上に二人居ることで困った度倍増(笑)
面白かったのは筏でミシシッピ川を下る場面の舞台の使い方。舞台中央の筏の幅だけ、後ろのホリゾントを見せて高い空を示している。ごく単純な構成ながら、それだけに奥行きが出ていて上手いなぁと思った。ここでハック(タイロン・ジョルダーノ)とジム(マイケル・マッケロイ)が「僕の目に映る星が君の目に映る♪」と歌う場面は、手話が英語を聞き取らせ、手話が美しいダンスに見える。
ラスト、大合唱から一転して音が消え全員が手話で歌い続ける場面は、音がないのに音が聞こえるような、歌っていないのに手話が声になっているような圧倒的な瞬間を見た。