何と初演時には、第10回読売演劇大賞最優秀作品賞をはじめとして、主演の大竹しのぶが第37回紀伊國屋演劇賞個人賞、第10回読売演劇大賞最優秀女優賞、第2回朝日舞台芸術大賞を、木場勝己が第10回読売演劇大賞最優秀男優賞、作者の井上ひさしが第44回毎日芸術賞、第6回鶴屋南北戯曲賞を受賞し、2002年の演劇賞を独占した舞台の再演である。
何が何でも観に行かねばなるまい!と意欲満々当日券に並ぶ。補助席も出る大入りで、最後列ながらほぼ中央の座席を確保。この日はTVカメラが入っており、私の隣では脚立に座ったお兄さんが二人、カメラを覗いていた。たぶん私の席は、カメラスタッフ用に押さえていた席を放出したものなのだろう。これまた芝居道楽の神様に感謝である。
登場人物は林芙美子(大竹しのぶ)と彼女をとりまく5人。そして朴勝哲によるピアノの生演奏が加わって音楽劇を盛り上げる。『兄おとうと』、『頭痛肩こり樋口一葉』と観て、こまつ座はこれが3作目になるが、何度観ても少人数の俳優を上手に使い、自然に歌を挿入させて評伝劇を作る劇団だと感心させられる。
音楽劇といっても、ブロードウェイ・ミュージカルのように俳優が足を高く上げて踊ったり、びっくりするようなソプラノを響かせるというわけではない。
『ひょっこりひょうたん島』(井上ひさし脚本)を知っている人なら分かるだろうが、分かり易い言葉、覚えやすくてすぐその場で歌い出せるメロディーの歌が、舞台の進行上とても自然に歌い出されるのだ。この一点を取っても、栗山民也の演出は素晴らしい。
ちゃぶ台と襖で林芙美子の家が、ソファーを置いてラジオ局の応接室がというように、簡素な作りの舞台装置によって、綺麗な場面転換が見られる。そして背景には常に林芙美子を追い立てるような原稿用紙。
舞台が狭いから大がかりなことは出来ないのだとしても、この空間を常に6人がしっかりと引っ張ってゆかないと、単なるお金のない素人芝居になってしまう。が、そこはさすがの俳優陣である。
島崎すず子(神野三鈴)の「ひとりじゃない♪」とか、林キク(梅沢昌代)と行商の弟子である土沢時夫(阿南健治)加賀四郎(松本きょうじ)の「まいど♪」(正式なタイトルは??)とか、レコード会社の三木孝(木場勝己)「戦はもうかる♪」(正式なタイトルは??)等どれも気持ちが真っ直ぐ伝わってくる。
林芙美子(大竹しのぶ)「滅びるにはこ日本あまりに素晴らしすぎる♪」は圧倒的すぎるよね。大竹しのぶの神髄を観たり!という感じ。
今回の舞台は、『放浪記』の作者として知られる林芙美子の戦中〜戦後を描いた物語である。またしても知識欠落の私は、林芙美子の作品は読んだことがないし、森光子主演の『放浪記』も観たことがないから、『太鼓たたいて…』で描かれている林芙美子像については、あくまで舞台を観てのことしかわからない。
自らの筆によって「戦争は儲かる」という「国家の物語」を鼓舞していたことに対する罪悪感。そして戦後は償いのために「書かなくてはね」と筆を執り続けた…というような解釈は、何となく美化しすぎのような感じがしなくもない。
でも、大竹しのぶ演じる林芙美子は、その解釈云々を超越して活きていた。奔放ながら芯があって、あっけらかんと存在して、時代とか生き様とか難しいことは抜きにして、こういう人がいたんだよ!ということを有無を言わさず見せつけている。
戦争解釈とか、潔く負けるとか、何故今この時期にこの芝居なのかとか、そういう疑問さえ些細なものに思わせてしまう、この舞台。大竹しのぶがあれだけの演劇賞を受賞したのは、伊達じゃない。
そういえば、劇場でみかけたあの小父様は、NHKのアナウンサーで古典芸能に造形が深いことでも知られる山川静夫だと思う。