<大序>
好きなんですよね、この幕開き。口上人形が配役を読み上げると、人気俳優の箇所で客席から拍手がおきる。今回、ちょっと嬉しかったのは「石堂右馬之丞一役、中村富十郎」でワッと拍手があがったこと。
さて、幕が開いても役者は人形のようにうつむいて固まっているのが、義太夫に名を呼ばれて役になる。直義(勘太郎)がひらりと袖を翻し、高師直(吉右衛門)がグイグイっと首を上げて見得を切り、若狭之助(勘九郎)はシャッキリと首を上げて袖を払い、塩冶判官(鴈治郎)はおっとり目を覚ます。歌舞伎初心者には眠たいシーンかもしれないけれど、この人形から息の通った人への目覚めのかたち一つをとっても、いかにも!な構成で面白い。
吉右衛門の高師直は、誇り高く、尊大で、嫌味ジジイで好色だけど、品というか風格のある立派なものだった。顔世御前(魁春)に絡むところなどは「やるなぁ、おやじ」と思わずニヤリとしてしまう。
勘九郎の若狭之助は、いかにも真っ直ぐで血気盛ん。若さ故に先走るというよりは、その潔さが情熱をかき立てている感じ。成る程、殿がこれだけ直情型だったら、家老の本蔵が殿を無駄に止めるのではなく早馬で「進物」を届けて相手を懐柔させるのも頷ける。
鴈治郎の塩谷判官は、あくまでおっとり、ぽっちゃり、ゆったり、のんびり。大名のおぼっちゃま故、どこか一本抜けているのではないか?というその危うい一歩手前で品を保っている。
兜改めが終わり、直義が段を降りて上手へ引き込む時、横を向いた勘太郎のちょうど後ろで緋色の傘が客席を向いて開いたが、まるで花形役者が後光を背負っているようで目に鮮やかだった。
<三段目:進物場、刃傷>
『進物場』といえば「えへん、ばっさり」。この後、刃傷、切腹、城明渡しと続く悲劇の前の喜劇シーン。鷺坂判内役者の腕の見せ所であり独演場。
そして、今回の予想外の拾い者、嬉しい伏兵だったのが判内役の坂東吉弥。中間もなかなかに個性的な面々が揃っていて、判内との息もぴったり。どこか間抜けな愛嬌があって、「全く世の中金で回ってるんだよねぇ」と思いつつも嫌味ではなく笑えてくる。「本蔵殿、敷居が、高こうございます」にも、コイツ言うなぁと苦笑が漏れる。
さてさて、『進物場』から『刃傷』への場面転換で見逃しちゃあいけないのが畳敷撒き。
回り舞台が反転して松の廊下が現れると、上手に大道具さんが登場しする。抱えていた畳の巻物をヤッと投げると、ロールが舞台上を鮮やかに走り、ぴたりと決まった位置に畳が敷かれる、というわけ。そりゃあもぅ客席は大喜びですぜ。担当になった大道具さんはここが晴れ舞台と練習するんだろうなぁ。
「師直を斬ってやる!」とブチキレた若狭之助(勘九郎)が、花道の七三で舞台の師直(吉右衛門)を見込む姿のカッコイイこと。最近、勘九郎ではわりとコミカルな役ばかり観ていたこともあって、勘九郎のシャッキリとした正統派二枚目、いいじゃない!と、改めてうっとりする。進物の効果あって這い蹲って詫びる師直に「ばかな!!」と捨てぜりふを吐いて立ち去る、その清々しい気合い。惚れました。
入れ替わって判官(鴈治郎)はポーっとした坊ちゃんで、「分かっているのかなぁ、大丈夫かなぁ?高師直クンが不機嫌そうだけど、キミは上手に師直クンとお話できるかなぁ?」ってね。
文遣いが来たときには穏やかに「いい天気だなぁ」って感じで、顔世の話になっても「ハハハ」と笑ってごまかして、まだのほほん♪だけど、「井の中の鮒」で「何だろう?ちょっと今日は絡んでくるなぁ」が、「その鮒だ!(バシッ!!)」で「何だよ!ジジイ!」になる。
このテンポの良さ。吉右衛門のからかいようが緩急自在で、焦らしているようで、弄んでいるようで、憎々しいんだが高家らしい格があって、いつのまにか飲み込まれてゆくようなかたちでキレちゃう判官の変化が克明にわかる。
判官「気が違ったか武蔵守!」
高師直「本性なれば?…殿中だ!!」
判官「しばらく…」
高師直「その手は何だ」
判官「この手を突いて…」
高師直「こりゃ伯州は泣かるるか、可哀想に」
判官「今日のお役目…若狭殿に」「師直、待て!」
高師直「まだ何ぞ用か」
判官「その、用は!!」(バッサリ)
この応酬は何度観ても面白い。本蔵に抱き止められた時の「誰だよ!」と悲鳴を上げそうな判官の表情が何ともよい幕切れ。
<四段目:判官切腹、城明渡し>
判官が無事(?)切腹するまでは意識があったのですが、焼香と評定の場面は完全に寝ていました。なんか…焼香と評定をまともに観た記憶がないんですけど(汗)。
それにしても今回の『判官切腹』は、何だか間延びしているというか、緊迫感が持続していないというか、かみ合わせが悪いというか、どうにも締まりが悪い。『判官切腹』といえば、「通さん場」ともいわれ、判官の切腹が言い渡された以降は大星登場まで客席への出入りが禁じられる、それほどの場なのに。うぅ〜む。判官のおっとりがココまで来てまた顔を出しているし、九寸五分を乗せた三宝を判官の前に置いた力弥(扇雀)がイヤイヤと首を振るのもとってつけたようだし、駆けつけた大星(団十郎)のドングリ眼は「殿が切腹しちまっただ!」ってふうにしか見えないし(汗)。
これでは上使に石堂(富十郎)と薬師寺(彦三郎)いう布陣で控えていても、舞台が締まらないよ。参ったな。
『城明渡し』を観て、「やっぱり団十郎は夜の部の『七段目(一力茶屋)』に期待した方がいいな」と、決意を新たに(?)したのでした。
<道行>
お軽(福助)可愛い。