2000'2'29
寒波の中でヒヨドリくんに出会う
4年に一度のおまけの日だって言うのに、ヤケに忙しい。大きな病院の脇を自転車で区役所の出張所に向かう途中、路地の脇に3人の男女がなにか心配そうにささやきあっている。近頃は日本もずいぶん物騒になったので、おずおずと遠巻きにのぞいて見ると、アパートの横のフェンスの上に何かうずくまっている。ヒヨドリだ。
「道路の真ん中に落ちてたのを、さっき女の人が可哀想って、ここにのせたんだけどね。元気ないのよ。家じゃ面
倒見てあげられないし。私、猫ちゃんも飼ってるし。」
「車にあたったわけじゃないみたいなんだがね。こっからそこまでは飛んだんだよ。」
そんなに興奮した調子で矢継ぎ早に言われても困ってしまう。
恐がらせないようにそっと近づく。山用の黄色いヤッケをちらっと後悔する。怪我をしてるかも知れないからバトルは避けたい。お互いの息詰まる瞬間。
あれま。意外にも無抵抗で手の中におさまってしまった。鳩より一回り小さいかな、というのが第一印象。怪我は、していないみたい。ここ2、3日、なんだか急にとんでもなく寒い日が続いたからかな、寒さに凍えて動けなくなっただけなのかも知れない。やれやれ。行き倒れのヒヨドリくんを拾っちまったぜ。
普段の気の強さを知っているだけに、この大人しさが不安にさせる。でも、スズメみたいにパニックにならないだけましかな。ヤッケの前ポケットに入れてファスナーをしめる。これから区役所だってぇのに、カンガルー状態かい。むかし、九官鳥を捕まえたときのいやな記憶が、チラッと横切る。だけど、その話はまた別
の機会に。
区役所を出て見るとヤッケにシミが。案の定、ポケットの中に糞をされてしまった。所内でバタバタされなかっただけ、ましか。で、近所の獣医さんへ。怪我してるかも知れないって言ってるのに、荒っぽい診断で、いきなりビタミン剤飲まされて700円。あったかくしてあげてください、だって。それだけかい。骨折とか病気とかあるだろうに、僕が見ただけでもわかる範囲のことしか言ってくれなかった。野鳥は可哀想だね。詳しい状況は、何一つ明らかにならないまま帰宅。念のため獣医をしている友達にも連絡する。やっと捕まったと思ったら、やっぱり小鳥はとにかく暖かくすることなんだそうな。確かにポケットの住人は、さっきより落ちつきがない。そんなものなんでしょう、きっと。
ミカンジュースをスポイトで飲ませて、透明なプラスティックのボックスに入れ、ネットをかぶせる。食べないとは思うけど、ブルーベリーの実とジュースも入れておく。日が暮れたので寝かさなくっちゃと思って青いバスタオルを掛けたら、急にガタガタ騒ぎだした。カチャカチャ、ポチャンなんて音も聞こえてくる。何も入れるんじゃなかった。黒いコートをかけてみる。今度は静かだ。やれやれ。
やっぱり、朝早く起こされた。これだけ騒げるんならもう大丈夫か。念のためもう一度ジュースを飲ませてから、手で目隠しをして、病院の森につれて行く。池の畔の茂みでそおっと手をはなすと、近くの枝まで飛んでいって、くちばしを何度も何度も小枝にこすりつける。無理に飲ませたジュースがついて、気持ち悪いらしい。でも、やなかんじ。元気に森の中に消えていったのを確認してから、ぼくはポケットに手を突っ込んで歩き始めた。
後かたづけが、大変だ。
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