【風の竪琴2-32

○夏の思い出から

(2008.9.21)

  自分だけの顔がわからなくなったときには
  どこかにあるような顔をして笑って見せることもできるだろうが
  この胸の奥でしくしくと痛んでいる種が許さないのだ

  遠くで吠えている山猫は私だろう
  窓の向こうで鳴いている烏は私だろう
  森でごそごそ戯れている葉擦れは私だろう

  言葉が死んだ朝に最適のダンス
  こわれた玩具の記憶に繋がれた絵本のページ
  汚れた白いシャツと地図にない国を探した夏休み

  あなたの笑い顔が嫌いなのだ
  その向こうに何もない笑いが怖いのだ
  なにも見つけられない私の胸が悲しいのだ

  巨人は山の向こうから一つ目を覗かせる
  私は屋根の下で暗い口笛を吹き
  血まみれの私の首を差しだしてみせる

  雨が降り陽が照って風が吹き渡り
  悲しいくらいに人間であることを歌えれば
  いまのところはなんとかやりすごせるだろうか

  見飽きた顔をいくら映してみても
  自分の顔がわからなくなるときには
  この胸の奥で疼いている欲望の種をどこかに植えにでかけようか