【風の竪琴2-29

○曼荼羅

(2008.9.7)

  たったひとつ
  ひとつと名づけることさえできなかったものが
  細胞分裂していくように
  夢のなかで育ちはじめた
  ひとつであることはそのままに
  それぞれがひとつとして

  細胞は分化を繰り返し
  まとまりをつくり
  さまざまな役割を担いながらも
  それらひとつひとつは
  ほかのひとつひとつと照らしあっていた
  ひとつが変化すると
  ほかもすべて響きあった
  弦と弦が響きあうように

  ひとつひとつの細胞には
  それぞれ私という核が生まれた
  核は個性をもちはじめ
  みずからの夢を紡ぎ
  さまざまな色やかたちを楽しみながら
  それぞれの物語のなかで自らを演じ始めたが
  そのために細胞と細胞のあいだは
  しだいに固い膜で仕切られるようになった
  すべてはあいかわらずひとつでありながら

  ほんとうは 耳をすますだけで
  声はすべてに伝わり
  また声をききとることができるはず
  けれど自分の物語を演じていると
  ほかの物語に耳をすませることはむずかしくなった
  自分の物語とはいっても
  それはただあてもなくさまよう亡霊のようなもの
  つかのまの喜びのために
  かえって苦しみや悲しみを引き寄せてしまった

  やがて彷徨の果てに
  自分のなかから
  新たに自分を形づくろうとする
  動きが生まれはじめた
  演じていることに気づきながら
  演じることを喜びにかえ
  それまで忘れていた声とともに響きあえる
  そんな動きの織りなすかたちのような

  ひとつと名づけることさえできなかったものが
  ひとつであることはそのままに分かれ
  それぞれが私の夢を踊りそれがかたちになる
  そうした夢と夢は交差し衝突し共鳴しあいながら
  大きなひとつの響きあうタペストリーとなる