| 少年たちの反撃 |
さよならのキスをしよう。
これから「人間狩り」に行く
ジェームズ・ヒューバティ
再びターミナルに飛び出した霞玉丸の前を、オリジンと名乗った赤毛の紺万太が立ちふさがった。
「何だ?逃げないのかよ。きゃははは!」
兎を追いつめる狼の表情を宿した少年は、再び光の鞭を繰り出したが、玉丸にはそれは通用しなかった。しかし、本能的に身をすくめた玉丸に向かって、オリジンはゆらりと忍び寄ると、玉丸の首を両手で押さえつけた。
「細い首だな!折りたくなるぜ!」
オリジンはきゃははは、と鳴くとその力を強めた。
玉丸はその両手を振りほどこうとしたが、その手は太く力強いオリジンの腕をひっかくことしか出来ない。オリジンはそれを微塵にも気にしていないようだった。ふんと鼻を鳴らすと、首を絞める力を強めた。
「う・・・ぐぐ・・・」
玉丸は気道を押さえつけられ、息が出来なくなった。オリジンの力はすさまじく、玉丸がかつて経験したことのない握力を感じた。オリジンはその力を時々ゆるめると、玉丸の苦しむ様子を楽しみながら、また締め付けた。
この赤毛の少年は、万太のサディスティックな性格を増長させた性格のようだ。
玉丸が泡を吹いてオリジンの手を振りほどこうとする様子を、明らかに楽しんでいるようだった。玉丸のかすれる視野の中には金髪のファイナレイも浮いていた。金髪の少年はふわりと浮きながら玉丸を眺めている。その表情も楽しそうだ。
「ギブアップか?あん?ギブアップか!」
「う・・・ぐぐ・・・ううう!」
「ああ?何て言ってんだ?きゃははは!」
オリジンはぐいぐいと両手に力を込めると笑いながら尋ねた。
玉丸はその問いに答えられるはずもない。口はぱくぱくと空気を求めて、魚のように動いた。まるで水面すれすれに浮かぶ金魚のみじめな仕草のようだ。
玉丸は視野が暗くなるのを感じた。赤毛の万太の握力は、まるで機械の腕のように
少しもゆるむ気配が見えない。
玉丸は自分が気を失いかけているのを感じた。
このまま首を締め上げられ、息の根を止められてしまうのだろうか?
「やめろ!」
壁の半死半生の万太が、叫ぶと同時に玉丸とオリジンに向かって飛び出して来た。 万太は瞳の前に青白い半球体を出現させると、オリジンに向かって金髪が繰り出した光線のように放った。
しかし、その半球は金髪のファイナレイの瞳から飛び出したナイフの群に砕かれてしまった。飛び出してきた万太はファイナレイにその首を掴まれた。体力を極度に失っている万太は、ファイナレイの両腕をはじくことが出来ないようだった。
万太は自由な両腕で、ファイナレイの腕をふりほどこうともがいた。もがくたび、万太の全身からは血が飛沫になって飛び散った。
しかし、万太の首はファイナレイに掴まれたままだ。
「どっちが先に死ぬか、競争だ!きゃははは!」
赤毛のオリジンは玉丸の首を絞める力を強めた。玉丸の視界はいまや真っ暗だった。銀色の瞳を覗き込んだ時のような暗黒が、玉丸を待ちかまえていた。
玉丸が、これで最後だと思った瞬間の視界に入ったものは、だらりと下がった万太の血に濡れた腕だった。
そして、ターミナルの天井の窓に張り付く円点吉の姿だ。
点吉はここからだと、窓に向かって両腕をふり上げ、誰かをこまねいているような仕草をしているように見えた。それは玉丸には、点吉がどうにかして窓を割って外に脱出しようか迷っている姿に見えた。
暗黒が玉丸にすさまじい勢いで迫って来た。
とうとう意識を失いかけたとき、玉丸の耳に金属音で完成された声が響いた。
「やめるのだ。子供たち」
突如、玉丸の首を包む腕の呪縛が解けた。
いきなり解放された気道は、空気を求めてあえいだ。玉丸は、何度も何度もせきこんで、空間に胃の中のものを吐き散らした。何もない胃からは、かわいた胃液しか出なかった。玉丸がせきこんでいる間、オリジンは玉丸の髪の毛をつかみながら、その様子を楽しそうに見守っていた。その表情は、鳥かごの中に捕らわれたインコをのぞいているようだ。
気分がようやく落ち着いて玉丸が顔を見上げた時、そこには見たこともない巨大な生き物が浮いていた。
そして生き物の周りには、いつの間にか、あの銀色たちがふわふわ浮かびながら群がっており、玉丸はその異様な風景に圧倒された。
その生き物は、このターミナルのボスであるかのように威風堂々としていて、銀色たちを脇に従えていた。いや、実際に赤毛の少年をたしなめた様子からして、この生き物は母船の主人かと玉丸には思われた。
「殺すな。はなれろ」
生き物は赤毛のオリジンに向かって日本語ではっきりそう言うと、ゆるやかに玉丸に近付いて来た。 オリジンは生き物の言われた通りに玉丸から離れるかと思いきや、玉丸の頬を拳で殴りつけた。生き物が金属音を響かせて、叱咤のごとく何か言うと、オリジンは肩をすくめて「運が良かったな」と玉丸に言い残した後、生き物の背後に回った。
つづく
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