| 少年たちの反撃 |
ずいぶん敵も持ったけれど、妻よ、お前のようなやつは初めてだ。
バイロン
「古池や かわず飛び込む 水の音」どういう意味か知っているかい?」
霞玉丸の背後に浮いている紺万太が言った。
その万太は金髪で、金色の瞳をしていた。
うっとりするほどの美しい金色だった。本当に黄金で出来ているようだ。
笑い声を放っている赤毛の少年(これも万太だ)の左で、その少年は長い髪を払うと金髪の一部が、空間にはらりと流れた。金髪の少年は、銀色たちが着ていたスーツの金色に塗られたものを着ていた。色を別にすれば、銀色たちが着ていたものとそっくりだ。
金髪の万太は優雅に玉丸のそばに浮かびながら、ゆらりと音もなく寄ってくると、流れるような美しい声で言った。
「君が、玉丸くんだね。意味を知ってるかい?」
突然、呼び止められたことに玉丸は驚いた。
「え?・・・あ、うん」
それでもようやく返事が出来た。玉丸は目の前に浮かぶ金髪の万太に驚いて、うまく声が出せない。いったいこの船には何人の紺万太がいるんだ?
「松尾芭蕉の俳句だ。古い池というものには大抵、雷魚という獰猛なナマズみたいな生き物が巣くっていることが多い。この場合の「水の音」ってのは無惨にも雷魚の餌になってしまった哀れな蛙の、もがき逃げようとする音なのさ」
「はあ?き・君は何を言ってるんだ?」
「わからないか?君が蛙で、僕たちが雷魚っていうことさ。君は自分が喰い尽くされることを知らず、池に飛び込んだ哀れな虫けらなんだよ」
そう言って金髪の万太はくすくす笑った。合わせて赤毛の万太も大声でけたけた笑っている。
「どういうことだ?君らは何を言ってるんだよ」
玉丸を支える万太の手に力が入った。その痛みに振り返ると、万太が眉間に鋭いしわを寄せて二人をにらみつけているのが見えた。その間にどろりと万太の瞳から血が流れ出た。息が荒い。明らかに万太は自分とそっくりな少年を見て、彼らが玉丸に話しかけているのに動揺している。
「玉丸、こいつらと口をきくな」万太が言った。
どうしてだ?そう玉丸が言おうと思った瞬間に、金髪の万太が鼻を鳴らして言った。
「どうしてかな?紺万太くん」
金髪の万太に向かって万太が言った。
「おまえらは、不吉だからさ!」
突然、今まで訳もなく笑い続けていた赤毛の万太の笑いが止まった。少年の細められていた両目が見開かれると、玉丸はそこに燃えるような赤い瞳を見た。それは本当に真っ赤な瞳だった。
その赤い目が見開かれたと同時に、両目からまばゆいばかりの金色の光線が糸のように吐き出されると、それは蛇のようにしなる鞭となって万太を襲った。
玉丸と点吉を両腕で支えていた万太は、襲い来る光の鞭に対してすぐさま動くことが出来ず、その攻撃を直接顔面で受けとめてしまった。
玉丸の腕から万太が離れたと思った瞬間、すでに万太は壁に向かってくるくると回転した後、いきおいよく頭から激突していた。
体が再び不安定になった玉丸と点吉も同様に、壁に向かって飛ばされてしまった。 玉丸は運良くどこかの部屋へと続く膜の入口のへりにつかまることが出来たが、点吉ははるか高みの不透明な窓に打ちつけられていた。
赤毛の少年は再び笑い始めた。自分の武器で獲物をしとめた時のハンターが発する残酷な笑いだ。
壁に打ちつけられた万太の額には一文字の赤い線が描かれていた。線からは、細かく赤い結晶が吹き出している。その血はしばらく鯨の背から吹き出す潮のように空間に舞った。
「何をするんだ!」
玉丸は二人の少年に向かって叫んだ。その発した言葉と同時に玉丸は二人の万太に
脅威を感じていた。
何てことだ。あの二人は(どうやら万太と同じように)超能力を使えるらしいぞ!
それもかなり凶悪な超能力を!
玉丸の問いに対して、赤毛の万太が答えた。
「俺たちに偉そうなこと、ぬかしやがって!」
赤毛の万太の口調は、壁に飛ばされた万太に向けられたものだった。
「君らは・・・一体、誰だ?」
「わかっているんじゃないのかな?実験室を通って来たのなら」
金髪の万太が、玉丸に向かって言った。
「君らはあの部屋から来たのか?」
「違うね。ゲームセンターからさ!ぎゃははは」赤毛が言った。そして独特のかすれた笑いを空間に響かせた。
「君らもクローンか?」
「クローン?あんな情けなくのびている出来そこないと、いっしょにするなよ。僕らはオリジナルだ。正真正銘の本物だよ」金髪が言った。
「君らが?」
「そうだな・・・仮に名乗っておこうか。紺万太なんて俗な名前を、僕らが持っていると思われるのは迷惑だからね。僕の名は「ファイナレイ」・・・つまり最終形態ってことだ」金髪が言った。
「俺は、初期タイプだから「オリジン」ってところだな。かっこいいだろ?」
そう言って赤毛は、ひゃはははと笑った。顔と声質はそっくりなのに、両者とも性格は似て否なるようだった。
玉丸は壁の万太を見た。万太の顔はシェルに乗るまでと同様に血に濡れていたが、それは瞳から流れた血だけではなかった。一直線に切り裂かれた額から、いまだに血液は流れ出ては空間に浮かび上がっている。まるで万太の顔の周りだけに赤い霧がただよっているようだ。
万太はターミナルの壁につかまりながら、ぐったりとして動けない様子だった。玉丸は壁の万太に駆け寄りたかったが、少しでも手を離すと空間に投げ出されそうで動けなかった。ただでさえ壁はつるつると滑り、うまく体を安定できない。まるでよく磨かれたスケート場のようだ。
「君らは・・・誰なんだ?」
「同じ質問を何度もするなよ、玉丸くん。答えは変わらないぜ?」金髪のファイナレイが言った。
「違うよ。僕が言いたいのは、君らが僕らをどうするつもりか・・・ってことさ!」
「わからないか?」
「わからないさ!万太になぜ、あんなことをしたんだ!」
「頭が悪いんだな、君は。始末されるのは用済みになったからだよ。君も一度、経験したじゃないか。君にとっては幸いかな・・・君は死ななかったがね!」
「君らが、僕を船から落っことしたのか?」
「だとしたら、どうかな?」ファイナレイは鼻を鳴らした。
「君らは、銀色の仲間なのか?」
「銀色?ああ、ロボットどものことか。違うね」
「違う?」
「あいつらよりも、僕らの方がずっと優秀さ」
そう言ってファイナレイは目を見開いた。金色の瞳の片方づつからまぶしく輝く光の球が飛び出したかと思うと、それらは合わさってナイフの形になった。その金色のナイフは、壁にもたれる万太の方を向くと一直線に飛び出した。
壁の万太は自分にそのナイフが向かって来るのを予期していたのか、ナイフの進行に顔を上げると目を見開いた。文字通り光の早さで万太に向かった金色のナイフは、万太の目の前に出現した青白く輝く半球にぶつかると、金属音をはじかせて消えた。
万太も目に見える力を持っていたのだ。
それはまるで輝く盾のようだった。
しかし、ナイフは一本だけではなかった。ファイナレイの両目からは次々と新しい金色のナイフが作り出され、連続して壁の万太に向かって行った。
万太は青白く輝く盾で、それらの攻撃をいくつかは防いだが、そのうちの何本かを体で受けとめてしまった。万太の体から血潮が玉となってほとばしった。そのたびに万太は悲鳴を上げてうめいた。玉丸が聞いたこともない悲鳴だった。
痛みに苦しんでいる万太の姿を初めて見た玉丸は、ショックを受けた。
万太が苦しんでいる?
あの万太が?
しばらく玉丸は万太の姿を見ても、呆然として何も言えなかった。しかし光のナイフが万太の体を貫き、そのたび万太があげる悲鳴を聞くたびに、目の前の残酷な風景に怒りがわくのを覚えた。
「やめろ!やめろよ!」
知らず玉丸は、金髪のファイナレイに向かって叫んでいた。
だが、金髪の少年はその一方的な攻撃をやめる様子はない。赤毛の万太と同様、その表情には凶悪な表情がのぞいている。赤毛は、万太の悲鳴を聞いては高笑いしていた。
万太は必死に金髪の繰り出すナイフの猛攻を防いでいたが、悲鳴をあげては血潮を
空間にほとばしらせていた。
「5点!10点!ああ、惜しい5点だな」
赤毛は光が万太を指し貫くたび、そんなことを口走っている。
紺万太の悲鳴は霞玉丸の胸をかきむしった。
つづく
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