患者の権利法をつくる会
第7回総会議案書
(1997年12月14日 名古屋市総合福祉会館)
目 次
1、医療と患者の権利をめぐる動き
2、患者の権利運動の到達点
3、患者の権利法をつくる会の到達点と今後の課題
4、当面の活動方針
5、役員選任の提案
この一年の間に次に述べるように、患者の権利に関する大きな動きがありました。
昨96年10月には、厚生省は日本医師会の抵抗を振り切って非加熱濃縮血液製剤が納入されていた全国の医療機関名の公表に踏み切りました。さらに11月には医療法の一部改正案が国会に提出されましたが、この医療法改正案は今年12月9日に介護保険法とともに成立しました。このなかには「医師、歯科医師、薬剤師、看護婦その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。」(1条の4第2項)という規定が設けられています。
今年に入って厚生省は、国内外の批判に押されて「医薬品の臨床治験の実施に関する基準(GCP)」の改訂作業をすすめ、4月から実施しました。新GCPは、治験の原則の項で、「被験者の人権、安全及び福祉に対する配慮が最も重要であり、科学と社会のための利益よりも優先されるべきである」と明記するとともに、被験者のインフォームド・コンセントについても、説明文書の内容を規定したうえで「文書により適切な説明を行い、文書により同意を得なければならない」としています。また、治験中に「健康被害が生じた場合、過失によるものか否かを問わず、損失は補償されなければならない。因果関係の証明に、治験者の負担を課してはならない」と事実上製薬会社が無過失責任を負わせるものとなっています。
さらに厚生省は手術などで輸血する場合、輸血の必要性と副作用などについて原則として患者本人に対し、文書でインフォームド・コンセントを行うことを義務化し、この手続きを経ない場合は輸血技術料を診療報酬の対象と認めないことを決め、4月から実施しています。
また4月4日には1974年に設立された政府系のシンクタンクである「総合研究開発機構(NIRA)」が、「薬害等再発防止システムに関する研究(中間報告)」を発表しました。この中間報告は、繰り返し生じた薬害の構造的要因を明らかにした上で、恒久的再発防止策を提言する際に、まず第一に「 患者中心の医療を確立するべきである。このため、特に厚生省は中心と なってW患者の権利法Xを制定するとともに、医療政策に患者の知見や意 向が十分反映されるように制度改革を図るべきである。」と提言しています。
4月7日には政府与党の医療保険制度改革協議会が医療制度の抜本改革案をまとめました。この抜本改革案は、後述するように、医療保険における患者負担の増大など、「患者となる権利」自体を奪いかねない危険性があるという問題がありますが、患者の権利に関しては「カルテやレセプトについて、患者のプライバシーに配慮しつつ、医療情報の開示を推進する。」、「医療提供者から利用者に対して、十分な説明と理解に基づく医療の提供が行われるように、関係者の教育、啓発に力を入れる。」という基本方針を提案しています。
6月16日、医療保険制度改革関連法案が成立し、医療保険における自己負担の増大や外来薬価の一部負担制の導入など、患者負担を増大する方向での「改正」がおこなわれました。この97年度医療保険改正法は9月1日から施行されましたが、その結果これまで以上に受診抑制が起きるなど、誰でもどこでも必要な医療が受けられるという基本的な患者の権利が侵害される状況がより強まりました。
また同じ6月16日、臓器移植法が成立し、本年10月16日から施行されました。この法律は、本人の書面による臓器移植および脳死判定に従う意思の表示ならびに家族の拒否がない場合に限定して、脳死した者の身体からの臓器移植を可能とするものですが、インフォームド・コンセントに関しては、医師は「移植術を受ける者又はその家族に対し必要な説明を行い、その理解を得るように努めなければならない」(4条)と定め、臓器提供者の医療記録の開示についても、提供者の遺族に対し「個人の権利利益を不当に侵害するおそれのないものとして厚生省令で定めるものを閲覧に供するものとする」(10条)など、患者の権利という観点からは極めて不十分な内容となっています。
また厚生省は6月25日、レセプト(診療報酬請求明細)について、被保険者、その代理人や遺族からの請求があった場合、「保健医療機関に対して、当該診療報酬明細書等を開示することによって本人が疾病名等を知ったとしても本人の診療上支障が生じない旨を確認」したうえでレセプトの開示を認める旨の都道府県知事宛の通達を出しました。
与党を構成する社会民主党は、6月30日、当会と患者の権利に関する意見交換会(ヒアリング)を行い、森谷和馬弁護士が「患者の権利法要綱案」の説明をしました。
厚生省は、本年7月から「カルテ等の診療情報の活用に関する検討会」を設置して、議事を公開して検討を始めました。報告書を今年度中にまとめる予定で検討が進められていますが、座長の森島昭夫上智大学法学部教授は、「昨今の社会状況や国民意識等から考えても、もうカルテ開示の方向に踏み出すべきときだと考えます。そして最終的に制度化するかどうかは別にして、カルテの開示に向けていろいろ問題点を議論し、そのうえでカルテ開示を実践するための基本的な考えを提示するのが検討会の大きな役目だ」と述べている(ジャミック ジャーナル 97年11月号)ように、カルテ開示の方向での報告書になる見通しですが、法制化を求める結論になるかどうかは予断を許さない状況です。
本年11月18日、社会民主党が「患者の権利擁護に関する法律案骨子素案」をつくり与党の政策協議会に提案しましたが、これは、患者の自己決定権やカルテ等の閲覧謄写権を認める内容のものとなっています。
11月27日、民主党の「医療消費者プロジェクト」及び「HIVおよび血液問題プロジェクト」と当会の意見交換会が行われ、事務局長の辻本が出席して「患者の権利法要綱案」や諸外国の法制について説明しました。
昨年の第6回定期総会は、議案書において、「この5年間の歩みを一言で表現すれば、インフォームド・コンセントを中核とする患者の権利の確立を求める運動と世論は今や本流となり、立法、司法、行政、学会を始めすべての医療政策にかかわる分野において患者の権利の確立がキーワードとなってきており、すでに患者の権利法案で提唱されている各論的内容の一部が医療関係法規の一部改正という形で導入されつつあり、立法化運動も具体的な制度的成果を生み出す新たな段階に入っています。」(氈@はじめに)と指摘しました。前述したこの一年間の動きは、今日ではインフォームド・コンセントが医療の中核であること、医療情報の開示が必要であることに関する議論は理論的には決着がつき、いよいよ行政の政策、あるいは施策提案において、インフォームド・コンセントに基づく医療や医療情報の開示が必要ということを言わざるを得なくなったということを示しています。つまり患者の権利を否定し得ないという大きな流れが明らかになったと言えるでしょう。また、当会が患者の権利法要綱案について説明の機会を持つことができた社民党が、患者の権利法案を提案し、民主党も同様の方向を支持するなど、患者の権利の理念の具体化と立法化に関する当会の役割が大きいことを示したことも明らかです。
しかし一方、患者の権利の法制化に対する抵抗は強く、どこまで制度化ができるか、どれだけ早く、内容を良いものにしていくことが可能かは、運動の力や政治の場における力関係によって決まるという段階になっています。
また大きな問題は、患者負担を増大する方向での医療保険制度の「改正」により、国民が最善の医療を平等に受ける権利の侵害がより深刻になってきているということです。
1年間の主な活動として全体事務局が把握しているものは、別紙「第6期 活動日誌(全体事務局関係分)」記載の通りです。また、現在の会員数、会員以外の「けんりほうnews」購読者数等は、別紙「組織状況一覧表」記載の通りです。さらに、会の財政状況は、別「第6期 会計報告」記載のとおりです。
(資料省略)以下、重点的に活動の到達点と当面の課題について述べます。
1、例会やシンポジウムなど地域における活動
今期は、埼玉で「薬害エイズと患者の人権」(12.7)、東京で「カルテ開示出版記念」(4.5)、横浜で「カルテ開示の現在とこれから」(9.13)とシンポジウムの開催が3回に止まり、これまでに比べて格段に減りました。例会も関東地区を除き定例的に行われていない地区が多かったようです。
2、国会・政党などへの働きかけ
昨年12月11日、国会議員と「インフォームド・コンセントと医療記録開示制度の法制化に関する懇談会」を持ちました。また、「カルテ開示」の本を、国会議員等に送付しました。
6月30日には、社民党とのヒアリング、11月27日には、民主党とのヒアリングを行いました。10月9日には、「カルテ等の診療情報の活用に関する検討会」の委員宛に、当会の権利法要綱案のパンフレットや「カルテ開示」の本等の資料を送付しました。これらの資料は、政策提案の場で患者の権利法制化の場面におけるモデルとして活用されています。
また、自治体に対し、医療情報を個人情報開示制度の例外としないよう請願を行うために、請願文書のモデル「医療記録の開示制度に関する請願」をつくりましたが、これに基づいて請願が行われたという報告は届いていません。
3、海外視察など調査研究および政策提案
本年10月、「医療とバイオテクノロジーに関する倫理綱領」に関してドイツで初めて開催された国際会議に参加するとともに、ここ数年来の懸案であったドイツ医師会の視察をすることができました。
また、患者の権利擁護システムや医療被害救済システムについての検討を組織的に進めることはできませんでしたが、会員の加藤良夫弁護士から「医療被害防止・救済センター」の提案がなされ、検討を始めることとなりました。
4、「けんりほうnews」、出版、ホームページの開設
「けんりほうnews」は、定期的に発行され、わが国に於ける患者の権利に関する最も重要な情報提供の場となっています。しかし、会内外の自由な意見交換の場という点では、まだ投稿者が一部の会員に限られているという問題があります。
出版関係では、2月に「カルテ開示-自分の医療記録を見るために」を明石書店から出版しました。また、10月1日に、第6回総会シンポ記録「与えられる医療から参加する医療へ」を発行しました。 昨年及び今年の海外視察報告集も近日中に発行する予定です。
久保井事務局次長の努力により、11月から念願のホームページができました。これにより、これまでとは比較にならない広範なレベルで、患者の権利と権利法をつくる会に関する情報提供が可能になりました。
5、組織(会員拡大)、財政、各地連絡事務局の体制
今期は会員数が前年度より30名以上減っています。これは各地でのシンポジウムの開催が少なかったことや例会活動が低調だったことが影響していると思われます。
また、関西地区における日常活動を推進する体制がとれないままで推移しましたので、大阪医療問題研究会に関西連絡事務局の人選をお願いしています。
財政状況は、HIV弁護団からのカンパ(100万円)等もあり、黒字で推移しています。
1、各地で1回はシンポジウムを開催
例会活動そして患者の権利に関するシンポジウムの開催は会員が住む地域における患者の権利運動に大きな影響を与えます。世論を作り上げ、会員を増やしていくとともに、シンポジウムの準備等を通じて、地域の良心的な医療関係者との連携も強まるという大きな役割をもっています。前期のこの点における活動が弱体化し、会員減をもたらしたことをふまえ、各地で1回はシンポジウムを開催することを提案します。
具体的には、仙台、東京、埼玉、神奈川、名古屋、関西地区、広島、徳島、九州です。
2、国会、政党等への働きかけ
医療制度改革法案が本格的に論議されることが予定されている国会において、患者の権利法の制定をめざすために、よりいっそう国会議員等への働きかけを強めます。
また、昨年の第6回総会で確認された重点課題でありながら実行できなかった、厚生省への働きかけを行います。
3、政策提案に向けての検討
患者の権利擁護システムや、医療被害救済システム、医療記録の作成方法や保管方法などのあり方についての検討を本格的に進めます。
また、「高齢化社会へ向けて患者負担を増大することは避けられない」として患者負担を増大する方向での医療保険制度の「改正」の是非についても検討をする必要もあります。
4、自己の医療情報開示運動など
会員が日常的に利用している医療機関で医療記録の開示と説明を求める活動を進めるとともに、自分の住む自治体に対する「医療記録の開示制度に関する請願」運動を呼びかけます。