前立腺癌の治療


1 限局性前立腺癌の治療

1:前立腺全摘除術

2:放射線療法


 はじめに

本邦では,前立腺癌の治療は前立腺全摘除術およびホルモン療法が主に行われているが,欧米では手術療法および放射線治療が主体となっている。特に,わが国では根治的治療法として前立腺全摘除術がゴールデンスタンダードとなっている。一方,放射線療法の有用性に対する認識はわが国では低いままであるのが現状である。最近の前立腺癌患者数の増加,合併症を持つ高齢患者の増加,長期予後が期待できることなどにより,QOLを落とさない多様な治療が求められつつあり,前立腺癌治療における放射線治療の意義も大きくなるものと思われる。 しかし,治療後のフォローアップにPSAが導入されて,従来の70Gy以下の放射線単独治療では前立腺癌の治癒には不十分と考えられるようになり,より大線量の放射線治療が望まれている。欧米では以前より,低線量率(low dose rate; LDR)組織内照射(interstitial radiotherapy; ISRT)と呼ばれる125I, 103Pdや198Auシードなどを前立腺に永久刺入する方法1)-4),またはワイヤー状あるいはシード状の192Ir線源を一時的に刺入する方法5)が行われている。これらの方法はわが国での使用は認められていないが,認可に向けての検討がなされている。LDR-ISRTのデメリットは医療従事者の被爆,線源配列が均一にならないために起こる線量分布の不均一性,刺入のやり直しがきかないなどである。この永久刺入組織内照射のデメリットを克服する手段として高線量率(high dose rate; HDR)組織内照射が注目され近年,日本でも普及してきつつある。HDR-ISRTは192Irのマイクロ線源を使用し,遠隔操作で治療が行える。よって医療従事者の被爆は皆無である。また,マイクロ線源をコンピューター制御で走査させて照射するハイテク小線源治療装置を用いるので,投与線量,その均一性の点でははるかに高い精度での治療が可能である。もちろんアプリケーター針は何度でも刺し直せる。今回われわれはStage B, C (T1c-T3bN0M0)前立腺癌に対するIridium-192マイクロ線源を用いた外照射併用高線量率組織内照射(HDR-brachytherapy)の治療経験および近接効果を中心に報告する。


2)外照射併用192Ir HDR-ISRTの実際

 治療の適応となるのはperformance statusは 2まで,年齢制限はないが少なくとも5年以上の生命予後が期待できるものとしている。原則的には限局性前立腺癌が対象であるが,T3, T4であってもN0M0なら積極的に治療を行っている。また,PSAの値が20ng/ml以上,病理診断でGleason sumが7以上,T3以上のいずれかに該当するハイリスクグループの患者には臨床病期診断のため骨盤内リンパ節郭清術を行っている。前立腺容量が大きい場合はネオアジュバントホルモン療法を行い刺入容易なサイズまで縮小させてから治療するか手術療法へ移行する。なお,放射線治療後のアジュバントホルモン療法は行っていない。
 至適治療スケジュールは現在のところまだ確立されておらず,各施設間で独自に行われている状態である。当院での治療内容は,前立腺部に外照射(4門照射)として2.2Gy x 19回(41.8Gy)に加えマイクロセレクトロン(microSelectron: Nucletron社製)(図1)による高線量率組織内照射:5.5Gy x 4回/30時間(22Gy)をしている(表1)。この方法の照射線量は従来の放射線照射スケジュール(1回2Gy)に換算すると78.2Gyに相当する。
 治療手技はサドル・ブロック麻酔で経直腸超音波(TRUS)ガイド下にテンプレートを用いて(図2),事前に決定した刺入計画に添ってアプリケーター針を前立腺内に刺入する。その後CTを撮影し刺入時TRUS画像を加味して治療計画を立てる(図3)。患者はアプリケーター針を刺入されたままで30時間の間に1回5.5Gyの照射を4回受ける。
 治療後の経過観察項目は3カ月毎のPSA測定,触診,尿および便潜血検査,6カ月毎のTRUS検査そして18カ月目に前立腺生検を行うことにしている。治療評価として以下の3つを定義している。?Biochemical failure:臨床的評価で局所・遠隔とも再発所見がなくPSA値が1.5ng/ml以上で連続3回上昇する場合。?Clinical failure:臨床的に再発所見を認める場合。?Biopsy failure:PSA値は正常に推移し,臨床的評価でも再発所見がないにもかかわらず前立腺生検で癌細胞を認める場合。ただし,追加の治療に移行するのは再発と判断した?,?の場合であり?の状態では特に治療を行わず経過観察のみとしている。
 観察期間が短いため(9 - 44カ月,中央値:30カ月)前立腺全摘除術と同等には比較できないが,われわれがこれまで行ってきたT1cからT3bまでの59例については満足な結果を得ている。実際,治療評価で再発と判断したのは12カ月目に骨転移巣が見つかったcllinical failureの1例と33カ月目にbiochemical failureとなった1例のみであり,この2例はいずれもT3症例であった。治療後18カ月目のbiopsy failureは6例あり厳重観察しているが,再発の兆候はなく,前立腺生検の時期は24カ月以降にした方が良いと考えられる。PSA値の推移では治療後1カ月目より速やかに低下をはじめ,大半の症例が12カ月以内にPSA値が1.0ng/ml以下(43例,71%)になる。外照射併用192Ir HDR-ISRTの治療効果の報告6)-9)(表2)では短期成績では手術療法に匹敵する結果である。
 本プロトコールでの有害事象としては2例にRTOG (radiation therapy oncology group)でgrade 2の直腸炎を認めたがいずれも外照射に伴うものと考えられ,対症療法で対応できた。1例に体位保持に伴う一過性の腓骨神経麻痺を経験した。また,HDR-brachytherapyによる有害事象ではアプリケーター針の抜針後の膀胱タンポナーデを1例,アプリケーター針による尿道損傷後の尿道狭窄が1例あった。ED (electile dysfunction)に関しては検討中であるが,治療前に十分性交可能な症例に関しては術後も比較的機能は保たれているようである。
 現時点では前述のとおり,経過観察の期間が短く治療効果において単純に手術療法との比較は難しいが,近接効果としては十分満足のいく結果であった。さらに,臨床病期 Cも十分適応であること,治療後のQOL,コスト面(約20%ほど外照射併用192Ir HDR-ISRTでは手術療法より削減できる)のメリットを考えると将来的に前立腺癌の根治療法として重要なポジションを獲得する可能性が期待できる。

 

参考文献

1) Nori, D. and Moni, J. : Current issues in techniquer of prostate brachytherapy. Semin. Surg. Oncol., 13, 444-453, 1997.

2) Zeitlin, S. I., Sherman, J., Raboy, A., et al. : High dose combination radiotherapy for the treatment of localized prostate cancer. J. Urol., 160, 91-96, 1998.

3) D' Amico, A. V., Whittington, R., Malkowicz, S. B., et al. : Biochemical outcome after radical prostatectomy, external beam radiation therapy, or interstitial radiation therapy for clinically localized prostate cancer. JAMA, 280, 969-974, 1998.

4) Prestidge, B. R., Prete, J. J., Buchholz, T. A., et al. : A survey of current clinical practice of permanent prostate brachytherapy in the United States. Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys., 40(2), 461-465, 1998.

5) Stromberg, J., Martinez, A., Benson, R., et al. : Improved local control and survival for surgically staged patients with locally advanced prostate cancer treated with up-front low dose rate iridium-192 prostate implantation and external beam irradiation. Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys., 28, 67-75, 1993.

6) Borghede, G., Hedelin, H., Holmang, S., et al. : Combined treatment with temporary short-term high dose rate Iridium-192 brachytherapy and external beam radiotherapy for irradiation of localized prostate carcinoma. Radiotherapy and Oncology, 44, 237-244, 1997.

7) Stromberg, J. S., Martinez, A. A., Horwitz, E., et al. : Conformal high dose rate Iridium-192 boost brachytherapy in locally advanced prostate cancer: superior prostate-specific antigen response compared with external beam treatment. Cancer J. Sci. Am., 3, 346-352, 1997.

8) Mate, T. P., Gottesman, J. E., Hatton, J., et al. : High dose-rate afterloading 192 Iridium prostate brachytherapy: feasibility report. Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys., 41(3), 525-533, 1998.

9) Deger, S., Dinges, S., Roigas, J., et al. : High-dose rate Iridium 192 afterloading therapy in combination with external beam irradiation for localized prostate cancer. Techniques in Urology, 3(4), 190-194, 1997.


 

2 進行性前立腺癌の治療

1:放射線治療

1)臨床病期Cに対する放射線治療

 臨床病期Cの前立腺癌に対する治療は未だ確立されているとは言えず,放射線療法,内分泌療法,両者の併用療法などが行われている。それぞれの治療効果に関しては議論の余地があり,一定の見解が示されていないのが現状である。その理由の最たるものは臨床病期Cの場合,局所浸潤に加え潜在的な微小転移巣を伴っている可能性があり,全身性疾患という考えも否定できないからである。実際,Mayo Clinicの報告1)では前立腺全摘除術を施行した臨床病期Cの前立腺癌患者232人のうち42%にリンパ節転移を認めたとしている。したがって,最近の報告では放射線療法単独よりも,内分泌療法併用に関するものが多くみられている。
 RTOG (radiation therapy oncology group)のprospective randomized studyの報告によると,進行性前立腺癌(T3N0またはTxN1)患者950人を対象とし放射線療法単独群と放射線療法後に内分泌療法を施行した群とで比較検討した場合,5年局所再発率はそれぞれ32%,17%で有意に内分泌併用療法が良い結果であった。またPSAの5年非再燃率もそれぞれ17%,40%で内分泌併用療法のPSA非再燃率が高かった2)。
 臨床病期B,Cの前立腺癌患者456人を対象とし放射線療法単独群とネオアジュバント内分泌療法を2カ月施行した後,放射線療法を施行した群とに分けて比較検討した場合,3年局所制御率はそれぞれ71%,84%であり有意にネオアジュバント内分泌療法群が良い結果が得られている。またPSAの3年非再燃率もそれぞれ26%,46%と放射線療法単独群に比べて ネオアジュバント内分泌療法群において有意にPSA非再燃率が高い結果であったとしている3)。他のグループの報告をみても内分泌併用群の方が治療成績が良いとするものが散見される。また,内分泌併用療法の有用性は示されているがネオアジュバント療法として行うのが良いのかアジュバント療法として行うのが良いのか,そのタイミングについて明確に述べた報告はない。さらに,これらの結果が患者の生命予後の改善にどれくらい寄与するのかと言うところまでは論じられておらず,これからのより長期間での経過観察にもとづく研究が必要であると考えられる。
 われわれは1997年10月以降臨床病期Cに対して外照射併用192Ir HDR-ISRTを行っている(表1)。症例数は14例,適応は前項で述べた通りである。ネオアジュバント内分泌療法を行ったのは6例であるが,目的は原則的にdown stagingのためではなく前立腺容量を小さくするためである。観察期間(10 - 44カ月)の中央値は25カ月と短期間であるが,再燃と判断したのは2例であり,それぞれ12カ月目に骨病巣が出現したのが1例,33カ月目にPSA failureと判断したものが1例であった。再燃した2例はいずれもネオアジュバント内分泌療法は行っていなかった。経過良好な12例のうち9例はPSA値が1.0ng/ml以下になっており,臨床病期Cに対する外照射併用192Ir HDR-ISRTは近接効果ではあるが有効な治療法の一つと考えられる。

  2)臨床病期Dに対する放射線治療

 臨床病期Dに対しては通常根治的な放射線治療の適応はなく,内分泌療法が主体となるが,D1のうちpN1に対しては適応となると考えられる。内分泌療法を先行して行い病巣の縮小を図った後,骨盤内リンパ節郭清術を施行し,その後根治的に放射線療法を行うという考え方があるからである。リンパ節転移の有無は予後に大きな影響を及ぼす因子であるため,治療法を選択する上で治療前のリンパ節転移の有無を知ることは前立腺癌の治療において極めて重要なことである。リンパ節転移の診断は画像診断には限界があり,下腹部切開による骨盤内リンパ節郭清術が推奨されている。最近では浸襲の少ない腹腔鏡や後腹膜鏡による骨盤内リンパ節郭清術も広まりつつある。骨盤内リンパ節郭清術を施行して放射線治療の適応を決定すれば優れた治療成績が得られるはずである。しかし,わが国では骨盤内リンパ節郭清術を行っている施設はわずかしかないのが現状である。われわれの施設ではpN1であった症例にも外照射併用192Ir HDR-ISRTを行っている。外照射の照射範囲は全骨盤である。症例数は4例と少ないが9 - 12カ月の観察期間で,1例は放射線治療後も内分泌療法を継続しているが,3例は内分泌療法なしで再発を認めていない。治療効果については症例数を増やし,長期の観察期間が必要となるが,本療法を行う目的は副作用の原因となる外照射の量を減らすことと,治療期間の短縮,局所の制御,内分泌療法を行うタイミングを遅らせることとしている。
 臨床病期D2の場合はもっぱら骨転移巣に対する疼痛対策,もしくは血尿または排尿障害のコントロールなど,QOL改善を目的としている。骨転移による疼痛に対する放射線療法は非常に有効であり,30-60Gyの照射で80%以上の症例で有効な除痛が得られ,副作用も少ない4)。

 

 参考文献

1) Morgan, W. R., E. J. Bergstralh. and H. Zincke. : Long-term evaluation of radical prostatectomy as treatment for clinical stage C (T3) prostate cancer [see comments]. Urology, 41 (2), 113-120, 1993.

2) Pilepich, M. V., Caplan, R., Byhardt, R. W., et al. : Phase?trial of androgen suppression using goserelin in unfavorable-prognosis carcinoma of the prostate treated with definitive radiotherapy: report of Radiation Therapy Oncology Group Protocol 85-31. J. Clin. Oncol., 15 (3), 1013-1021, 1997.

3) Pilepich, M. V., Krall, J. M., al Sarraf, M., et al. : Androgen deprivation with radiation therapy compared with radiation therapy alone for locally advanced prostate carcinoma: a randomized comparative trial of the Radiation Therapy Oncology Group [see comments]. Urology, 45 (4), 616-623, 1995.

4) 鈴木孝憲,小野芳啓,小沢雅史,他:再燃前立腺癌の骨転移による疼痛に対する緩和的放射線治療.泌外,12,345-346,1999.


前立腺癌の治療 ー放射線療法ー
常 義政 
日本泌尿器科学会  卒後・生涯教育テキスト
 6(2),93−100,2001