The Pili-Pili Show/ Le Tout Puissant Orchestre du Professeur Pili-Pili (2007- )
奥田薫、人よんで「ピリピリ」・・・大阪がコンゴに誇る泥酔のアフリカ音楽伝道師・・・L'orchstre Pili-Pili、Non-Stop Caiman、Karly Chockers、Swede Swede Osakaと続く大阪独自のリンガラ・ポップス探求の歴史の全ては、実に彼から始まったのである。彼が音楽をする理由・・・それは、アフリカ音楽だからでも、リンガラ・ポップスだからでもない。それらの音楽をやりたい訳でもない。ただひとつ、それらの音楽が持つ楽しさに全身を浸し、その喜びを共有したいがため、それ以上でもそれ以下でもないのである。
彼は休みの日には朝から酒を飲み、コンゴの古いルンバを聴いて聴いてまた酒を飲み、興が乗ればギターを手にしてともに歌い、歌い疲れれば倒れてまた酒を飲み、夢が現か現が夢か、寝ていてもギターをつま弾きルンバを歌う・・・しかし、リンガラ語を知っている訳ではない。その言葉の感じが頭に入っているだけだ。子供が英語の歌を知らずにそらんじるように・・・しかし、そうして酒とともに脳みそにしみ込んだ歌は、彼の頭の中で自然に日本語に置き換えられ、組み替えられて、翌朝には曲になる。だから、彼の歌は、考えられたものでも、練習されたものでもない。酒によって醗酵し、熟成された本物の音楽なのである。しかし、それはあくまでも、彼の頭の中にしかない。
かつて彼が率いていたNon-Stop Caimanが解散したとき、彼はもはや人とともに音楽をする事に限界を感じた。そんなことよりも、しなければならないことが多すぎたのである。バンドを維持する事よりも、聴くべき音楽、味わうべきギターのフレーズは、音楽遍歴の長さに比例して、減るどころか逆に増えて行き、そっちの方が大切だという事に気がついたからである。楽しい音楽とは、あるいは音楽を楽しむとはどういう事か・・・つまり、好きなものに埋没して、体からしみ出したものより他にない。それを本当にやろうと思ったら、バンドを運営するなど些末な事に割く時間はないのである。当時、すなわち1986年頃は、ようやくコンゴの音楽が輸入されるようになって来た頃だった。Karly Chockersが結成されたのは、それらに影響を受けた我々が、その魅力を実際に行動で示したかったからだ。つまり、具体的な「形」を選んだ訳だ。Pilipiliは「形」よりも、体から歌がしみ出るまで酒を飲む事の方を選んだ。バンドには加入せず、ソロの道を選んだのである。とはいっても、要するにそこらの酒場でギターを弾いて歌うだけだったのだが・・・しかし、我々のライブにはよく乱入した。あまり無茶をするので、ライブの幕間に「Pilipili Show」と称して、彼の演奏を合法化し、我々は彼の伴奏をするようになった。
だから、彼の持ち歌のほとんどを、Karly Chockersは演奏できる。というより、我々にしか演奏できないといった方が、より適切である。というのは、先にも述べたように、彼の歌は音楽的に整理されていないので、きちんとした構成をなしていない。そのとき浮かんだ歌詞によって、また酒の味によって、彼が次にどう出るのか、劇的に変化するからである。しかも、そのように不確定な演奏をしている事にすら、彼自身気づいていない。本人は、本人の頭の中のルールに従って、整然と歌い演奏している。従って我々が譲歩するしかない。彼がそのときどんな気分で、何を歌っているのか、ひとくさり終わるまでに何回同じフレーズを繰り返すのか、1番の歌詞と2番の歌詞の文句の長さがどれだけ違うのか、それは20年以上の友情をもってしないと、普通の人には、ましてや音楽家などには、絶対に予測のつかないものだからである。
こうしてしばらく別々の道を並走していた我々だが、2006年9月に、彼は念願のCD(Pili-Pili na Kwassa, CD Pilipili-01, http://home.att.ne.jp/lemon/baobab)を発売した。それを機に、解散してからまともに演奏していなかった我々は、ともに集って彼のために伴奏する事を引き受けたのである。Karly Chockers解散から12年、しかし20年の友情に裏付けられた我々の感性は、即座に彼の曲を理解して完成させた。その間、我々は活動していなかったが、存分に、どっぷりと、コンゴのルンバの古いところから新しいところまでを聴き尽くしていた。我々の演奏は、あのコンゴの名ギタリストPapa Noelをして、「絶品」と言わしめたほどの、繊細さと思いやりとグルーブを秘めている。それにもういいかげん良い年をしたお父さんで、世間の事も音楽の事も、非常に冷静に見る事が出来るようになっていた。こうしたことが、どんなに酔ってよれた歌を歌われようとも、きちんとそれに寄り添う伴奏を可能にしたのである。これはまさに奇跡としか言いようがない。先にも述べたように、彼の歌にはルールはない。従って、ライブでは何がおこるか全くわからない。クールに優しく、柔軟にしかしカチッと決める演奏の上に、彼の、音楽的法則性を完全に無視した歌がどう暴れるか・・・これは予定調和をぶっ壊す音楽的実験以外の何ものでもない。しかも、面白くなければ意味はないのだ。
「The Pili-Pili Show」は、Pilipiliと伊丹によるアコースティック・デュオ、「Le Tout Puissant Orchestre du Professeur Pilipili」は、もとKarly Chockers/ Swede Swede Osakaのメンバー他がサポートするフル・バンドです。
*印は現メンバー